ー第4話取材協力
ー第4話取材協力
店内には、愛のほかに、理彩とチーママの貴ちゃんが残っていた。理彩はカウンターの中の時計を見た。閉店まで20分を針は示している。愛は水の入ったグラスに、右手を添えてボッと見ている。
「まいったなぁ…」
40分前に道子ちゃんは、なんの悪気もなく、油断した愛にハグして帰って行ったのだ。
「こっちはドキドキなのに、姉弟みたいに抱きついて…ダメージ大きいよ」
「珍しいよね。隙だらけの愛さん」
理彩は、グラスを洗っている貴ちゃんに同意を求めた。
「どうしたんですか〜愛さん?ボーとしてますよ〜」
貴ちゃんもニューハーフさんだ。ニットのワンピにボニーテールの美人だ。
「失格だね。こんなフニャフニャで」
「大切ですよ〜。女性は恋しなきゃ。今夜の愛さん…素敵です」
愛は、目を閉じてうつむいた。
「貴ちゃん。ここに居るのは仕事なの…そこで、恋愛してたら仕事になんない」
「仕事の前に、女じゃないですか〜?。大事にしましょう、出会いは」
「出会いによるわよ」
理彩がストップを掛けようとした瞬間、店の扉が開いた。
振り返った愛が驚いて、思わず言った。
「なんでアフガンからスーツなの?」
山際正義は戸惑って、入口で立ち止まった。理彩もドライにコメントした。
「しかもアルマーニだし…もしかしたらアルマーニが防弾スーツ出したとか?」
貴ちゃんは、グラスを洗うのを止めて、両手で口を押さえて叫んだ。
「ワァー正義さんお帰りなさ〜い。ご無事のご帰還ご苦労さまです」
ペコリと頭を下げた。正義は、扉を閉めながらバツの悪そうに言った。
「ねぎらってくれるのは貴ちゃんだけですか?」
愛はあわてて言った。
「ごめんなさい。お帰りなさい。でも、どうしてスーツ?」
「取材目的の関係です。高級そうな名前のバーなので…」
立っている正義に理彩が言った。
「正義くん座って。何か作る?」
正義は、愛のグラスを見た。
「愛さんと同じのを」
「アフガニスタンから無事に帰って来て、大阪の水道水飲む事ないと思うけど?」
正義は、穏やかでない雰囲気に愛を見た。
「じゃあ〜いつものカクテルを…愛さんにも…もう仕事は終わりですよね?」
「アイハイね…私と貴ちゃんもいい?」
「もちろん、どうそ」
やっと、正義は座った。
「愛さん…大丈夫ですか?。体調が悪そうです」
「体調は良いけど、疲れてるだけ」
愛は道子ちゃんの事を正義に言えなかった。
「そうですか…じゃあ今夜は、このまま帰ります」
愛は、隣りの正義を見た。
「待って。取材が有るんでしょ?」
「いや…。愛さんが疲れてるなら止めます」
「駄目よ。仕事はちゃんとしなきゃ…そんなに長く日本に居られないんじゃない?」
「じゃあ、詳細だけ話します」
正義が語ったのは、だいたいこんな内容だった。
アフガニスタンはタリバンが支配しているが、数年前に事実上アルカイダに乗っ取られたらしい。その為に、アメリカ軍が進駐して戦争になっている。そのタリバンの中に、最近になって和平派が発生した。それが、日本に本拠地を置く謎のグループによって支援を受けている。その謎のグループは、外務省の特殊法人のコントロール下にある。そして、その謎のグループの本拠地を山際親子は突き止めた。
「それが、ブリリアント ローゼズと言うバーらしいんです」
愛が叫んだ。
「十三の!」
正義の目が鋭くなった。
「知ってるんですか?」
「今日、陽ちゃんて言う子が話してくれたばっかりよ!」
正義は、自動的にメモ帳を取り出している。
「それで?」
「店の奥に部屋が有って、首の太い背広がひっきりなしに、出入りしてるって…」
「なるほど…今から行けますかね?」
理彩が答えた。
「朝5時までやってるけど…場所は昔のバイオレットババだから、案内してあげようか?。京子ママは一度挨拶に来たから、うまく繋いであげるよ」
「それは助かります!さすがは理彩ママ。お願いします!」
「じゃあ愛さんも行った方が良いね…」
そう言う理彩に、愛は言った。
「どうして?私が?」
「ジャーナリストの山際です。何ヤバい事してるんですかって言えないでしょ?」
正義が済まなさそうに続けた。
「ニューハーフさんなら知らない人はいない、高宮愛の彼と言う事で、京子ママが警戒するのを防ぐ…と言う訳です」
「わかった。やりましょ。理彩さんと正義さんなら、守ってくれそうだし」
理彩は貴ちゃんを見た。
「貴ちゃん。戻って来ないから、後かたずけ終わったら店閉めて帰って」
「ママ…私も行きたい!」
「ダメ!危ないから。明日8時に電話して。もし出なかったら、警察に行って事情を話して」
「えぇっ〜ヤバすぎですよ〜」
そう文句を言う貴ちゃんを無視して、理彩はカウンターを出た。
3人はタイフーンアイを出て、十三に向かった。
ー次話!
ー第5話京子ママ