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ー第3話ブリリアント ローゼズ




ー第3話ブリリアント ローゼズ



5人程度のベテランさんが入って来て、愛はカウンターの中に入った。街の様子や消息などの情報交換がおしゃべりの中で交わされる。外に出る子は、コーディネートがおかしくないかどうか、愛に聞いてくる。愛は、最近見ない子の消息を質問したりする。



20分くらい過ぎた後、愛は1人に聞いた。

「陽ちゃん。新人さんってどうしてた?」

陽ちゃんは3年目の20才で、ミニスカートが似合うギャル系好きの子だ。

「道子さん?」

「そうそう。トラブってなかった?」

「オーダーフローで、菊ちゃん困ってた。レンタルなんだから、妥協しなきゃね。でも、妥協しない子は伸びるよね。期待の新人さんじゃない?」

菊ちゃんはヘアメイクのスタッフだ。

「めんどくさがられて、自己嫌悪になるのがほとんどだけど?」

愛はカウンターを出ようとした。その腕を、陽ちゃんがつかんで抑えた。

「翔子さんが付いてたから、愛さんはいいんじゃないかな?」

「なら…大丈夫ね」

翔子さんは30代のベテランさんで、タイフーンアイのリーダー格だ。



「それより愛さん。ブリリアント ローゼズの事聞いてます?」

十三じゅうそうの女装バーでしょ?先月オープンした」

十三は大阪キタに有る地名だ。

「それが変なんだって」

「変?」

「ママが、東京でも大阪でも知られてないニューハーフさんで…凄い綺麗な人なんだけど純女さんかもってウワサだし、奥に部屋があって、首の太いマッチョな背広が、凄い出入りするんだって」

「筋じゃないの?」

「事務所関係なら、判る人だから、行った人」

愛は、陽ちゃんをにらんだ。

「ちょっと陽ちゃん…まだ続いてるの?あの人はやめなさいって言ったじゃない!」

女装っ子にも売春に関係している人物がいる。当然組関係と繋がりがある。

「切れてるよ。でも立ち話まで断れないよ。それより、なんか兵隊っぽいって…背広が」

「近づくのは、やめた方がいいね。みんなは知ってるの?」

「今日話題になってるから知ると思う」

後ろのドアが開いて、ひし形セミイディの翔子さんが入ってきた。本人いわくー正確には、セミイディレングスダイヤモンドシルエットー。深い青のチェックのトップスにスカート、四角い胸元には、プチネックレスが見えた。その後ろに、うつむき加減のキュートボブが見える。黒地に大きい柄の白の線のチェックが入ったワンピから出ている膝小僧がカワイイ。リボンの付いたヒールが良く似合っている。入社したばかりのOLさんと言った感じに見えた。

翔子さんは、さしずめそのお母さんと言った所か…。口には出せないが…と、愛は思った。

翔子さんは、愛の前を2っ開けてもらって、ワンピの彼女を促した。しかし、動かない。

「どうしたの?道子ちゃん…」

愛は顔を上げたナチュラルメイクに、驚いた。どこを歩いても紛れもない女の子だ。レンタルではなく、自分で服を買うようになれば、女装っ子のアイドルになる…愛は確信すると共に、そのリスクの高さを思った。妬みと恨みに、女装っ子が好きな男達からのアタックに加えて、痴漢の危険すら有る。男に嫉妬が無いと云うのは間違いだ。写真コンテストが行われると、優勝者と入賞者に対して、不満と嫉妬の嵐が吹き荒れる。口を聞かないだとか、無視するなんて事が普通に発生する。

「愛さん…おかしく無いですか?」

道子ちゃんは、おずおずと消えそうな声で言った。この自覚の無さが嫉妬に油を注ぐはずだ。もっとも本人は、人に見られる恥ずかしさの頂点に有る。この恥ずかしさが新人さんの身を守る部分でもある。これが薄れて、楽しくなった瞬間に事故に会う。調子に乗っている時には、危険を察知出来ないからだ。

「そうね…」

ここでしっかり見る事が重要になる。新人さんの信頼を得なければならない。聞く耳を持ってくれるかどうかが、次の一言で決まる。

「ウイッグは、顔に合ってるね。道子ちゃんは、背が高くないから、それぐらいの長さがベストだね。ワンピは清楚なイメージでカワイイよ。ヒールもいいね。自分で選んだの?」

「メイクさんが選んでくれました」

「菊ちゃんコーディネートかぁ。自分ではどぅ?」

「なんか…凄い。でも、なんか…もうちょっと…」

「イメージと違う?」

「はい…」

「それはこれから、自分でイメージに近づけて行くんだよ。それから、オドオドし過ぎ。私やメイクさんに見られても平気にならなきゃ。女の子で有る事に、平気じゃない女の子はいないでしょ?」

「はい。頑張ります!」

ニコッと笑って、翔子さんの隣りに座った。周りがその表情に、吸い込まれるように見た。愛は軽いめまいを感じた。

ー駄目だ。好きになるー

そう思いながら、振り払うように顔を振った。

両側から、質問の嵐が道子ちゃんを包んだ。愛はトイレに向かった。手に持っていた携帯がアンジェラ アキの着メロを流す。そのまま店の外に出た。



「はい…高宮です」

言いながら廊下の奥の窓まで歩いて行く。

ー山際です。今はタイフーンアイですか?ー

「はいそうです。日本に戻られたんですか?」

ーいま関空の税関抜けた所ですー

「どうして関空なんです?セントレアじゃないんですか?」

ーいま追ってる件が大阪の十三じゅうそうに繋がってまして…急遽アフガンから行けって事になりました。愛さんにもお会いしたいし、取材の協力もお願いしたいんですー

「構いませんけど、今からこちらに?」

ー行って大丈夫でしょうか?ー

「大丈夫です」

ー詳しい事は着いてからと言う事でー

電話は切れた。

「タイミング悪いよ。正義くん(まさよし)」

電話の相手は、山際正義。フリーのジャーナリストで、世界の紛争地帯を父親と駆け巡っている。数年前に取材されて、その後数回食事に誘われた。日本に居る時には会ってデートを重ねている。しかし、結婚するイメージが愛には湧かない。正義は、自分でなくても良い気がする。そして、今夜…史也に似た道子ちゃんだ。道子ちゃんは、私が守ってあげなきゃと思う。

今回正義に、会ってプロポーズされるかもしれない。

「断れるかな…」

愛は、窓から見える三日月に向かってつぶやいた。




ー次話!

ー第4話 取材協力





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