表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/20

ー第2話デジャヴ




ー第2話デジャヴ




ゴウンッ

エレベーターは、独特の音を立てて止まった。イヤイヤのように、扉がスピードを変えながら開き、蛍光灯に照らし出された廊下の奥突き当たりに、半開きの窓が見えた。

愛は、タイフーンアイの扉の前に彼がいない事に少し驚いた。新人さんは、最後までためらい続ける。いや、その度合いが小さく気づかないくらい小さくなっても、そのためらいは消えない。彼らは、限りなく女性に近づいて行くが…たとえ本物の女性よりも女性らしくなっても、女性になる事は出来ない事を知ってしまう。それが自殺に至る危険を、意識しなくても本能的に感じるからだ。




愛は、廊下の途中にあるタイフーンアイのドアを開いた。

薄暗い店内に、Tシャツ リーバイスの宮村理彩の姿が見えた。

「あら?愛さん早いですね」

「ちょっとね」

カウンターの一番奥に、彼を見つけた。ビールが置かれているが、細かな泡はグラスの一番上で蓋をして崩れていない。

「何か作ります?」

愛は理彩に顔を戻して、たこ焼きをカウンターに置いた。

「たなちゅうのたこ焼き…良かったらみんなで食べない?」

彼はチラッとたこ焼きを見た。

「名前は有るの?」

理彩は新人さんには慣れている。

「無いなら、仮で付けてあげよか?」

「はい…」

「芸能人で好きな人は?」

「石田エリさんです。って云うか…釣り馬鹿の道子さんが好きです」

理彩はチョット驚いて見せた。

「わかる!いいよね〜道子さん。大人だけど超絶カワイイんだもん」

彼は少しニッコリした。愛はその顔に、ドキッとした。

「愛さんは、どうですか?」

彼は真っ直ぐ目を見て来る。

「えっ?そうね…私も好きよ、道子さん」

ニッコリしながら、彼はうなずいた。

「愛さんが好きなら、道子さんにします!」

理彩は横目で愛を見た。

「え〜なに?。どういう事?もしかしてデキちゃってるの?すでに」

愛は理彩をにらんだ。

「…わけないよね。たこ焼きもらうね〜」

彼が体ごと、こっちを向いた。愛は彼を見て言った。

「道子ちゃんもこっちに来ない?」

素直に丸椅子を降りて、愛の横にチョコンと座った。

身長は愛と同じ位だ。目が悪いのか、顔を寄せて、つま楊枝を親指と人差し指で摘んで、たこ焼きを突き刺した。

「目は悪いの?」

「近視です。コンタクトは合わなくて…でもまだメガネは慣れないんです」

突き刺したたこ焼きを、目の前に持ってきてしばらく見た後…パクッと口に入れた。愛は眉を寄せて彼を見た。

「それは、道子ちゃんのクセ?」

「何がですか?」

「その食べ方…」

「あぁ…小さい頃からです。たこ焼きってカワイイじゃないですか。見ちゃいます」

理彩も幽霊を見たような顔をしている。

「あの…気持ち悪いですか?」

愛は、慌てて笑顔を作った。

「ウゥゥン。そうじゃなくて、そう言う食べ方する人が居てね。チョット顔も似てて…ゴメンね」

愛はたなちゅうのオバチャンの言葉を思い出した。

ー愛さんのタイプじゃない?似てるな〜ー

(まさかね。気のせいだ。しっかりしろ愛)

「その人。お二人の顔からすると…死んでます?」

愛は、右手を振って打ち消した。

「ちがうちがう。元気よね〜理彩さん?」

理彩もスマイルを作った。

「…そうそう。今イギリスに単身赴任してるから、会えないけどね。クリスマスカードが来てたから死んでないはずよ」

「ふ〜ん。そうですか」

少し沈黙が流れた。

「ここって、メイクしてもらえるんですよね?」

彼は話題を変えた。

「隣のビルでね。電話してあげるね。詳しい事は、受付で説明してくれるから…」

理彩は携帯を取り出して、電話を掛け始めた。



「一階に降りて、エレベーターを降りたら、すぐ左だからね」

「愛さん。ここに戻って来ていいですか?」

「かまわないよ」

「戻って来たら、愛さん居ますか?」

「居るよ。いってらっしゃい」

彼はニッコリ笑って、丸椅子を降りるとリュックサックを肩に背負った。

「必ず居て下さい」

彼は右手を振って、出て行った。



沈黙を破ったのは理彩だった。

「驚いた。あの食べ方もだけど、表情まで。右に顔を傾けた時は、金縛りみたいになっちゃった」

「どう思う?」

「どうって…。史也君になんとなく似た顔だけど。普段は、感じない。けど、表情とか仕草とか言葉使い?そっくり」

「だね。…私の一番弱いタイプ。好きになっちゃいそう」

理彩は下を向いて言った。

「いいんじゃない?素直になれば。彼は史也君じゃないし。好きなタイプが世の中に、2人いたってだけの事だから」

「本人にとっては、そこまで単純じゃないよ。まいったな…。胸はドキドキしちゃってるし…」

愛は、彼が座っていた丸椅子を見つめた。




ー次話!

ー第3話ブリリアント ローゼズ






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ