-第19話待機場
−第19話待機場
理彩が部屋から引き抜かれる周りに、銃剣が突き入れられた。藤城は理彩と床に倒れ込み、横に転がった。銃剣はすぐに引き抜かれて、扉を閉めようとしたがジョーさんの銃が抜けなかった。銃床が扉に挟まった形で残った。
ジョーさんは咄嗟に銃を離し、銃の尾板を右足で蹴り入れた。
パンッ
と乾いた音がして、銃は中に消えて、扉は閉まった
「何や今の!誰か撃たれたんちゃうか?」
藤城はジョーさんを見た。
「あの筋肉野郎、銃剣素手でつかみやがった。その帰りの駄賃にこれや」
ジョーさんのジャージの腹にみるみる染みが拡がってゆく。
「ジョーさん動くな!すぐ止血する!」
藤城と老人達で服を脱がし、きっちゃんのつなぎを切り裂いて止血を試みた。
「アカン!救急箱とかないのんか?」
老人の1人が答えた。
「待機場の百式戦車に有るで!車長座席の下に野戦用医療箱が有るはずや!」
「持って来てくれ!」
しかし扉から
ドンッ
ドンッ
と鈍い音がし始めた。
「クソッ!すぐにエンジンカッターかなんかで破ってくるぞ!どないする?」
その問いに答えたのはジョーさんだった。
「この感じ…やったら…急所は外れや…問題は…出血や。止めればなんとかなる。待機場まで運んでくれ…血がのうなる前に…」
「分かった。しゃべったらあかん。皆行くで」
きっちゃんがスコップを持ち、後の全員でジョーさんを持ち上げて走った。
待機場に入って、一番近い戦車の横にジョーさんを降ろした。1人が戦車に駆け上がって行った。
理彩が泣きながらジョーさんの顔を見た。
「理彩ママ…なんちゅう顔や?べっぴんさんが台無しや」
「死んだらアカン。私が誘拐されへんかったら良かったんや。私のせいやから死んだらアカン」
「理彩ママのせいやない…どうやら…お釈迦様に見つかってもうたらしい」
「アホな事言わんといて。あんなもん冗談に決まっとる」
「まぁええがな…しかし因縁や…ここの場所な。戦車使おうとした中尉を撃った場所や…戦車に這い登りながら死ぬ前に言うた…こいつで一発でも撃っとかんと、負けた後アメリカになめられるってな。考えてみたら、舐められっぱなしやな…アホみたいに思いやり予算取られて、200兆円の借金。日本中に米軍基地。あの中尉の方が正しかったかもしれん…」
「そんな事ない。戦後日本人は誰も戦争で人を殺さずにすんだ。誰も戦死せずに済んだ。むしろこれから戦争しなきゃなくなるように、仕向けられてるのかもしれへん」
「せやな。その通りかもしれへん」
戦車の上から白い箱を持って、老人の1人が降りて来た。
「とりあえず傷口をガーゼで押さえて、止血帯を巻く。消毒液は期限切れやから使えない」
「そんな古いガーゼ使えるの?」
「一応滅菌処理して、真空状態でパックされとるから感染症にはならんと思う。この時代に真空パックとは奇跡やな」
体を起こして止血帯を巻いた。
「車に…7人は無理や。花田医院の…大先生を連れて来てくれ…元花田衛生兵…や。当時は見習いやったけど…銃創の処理は訓練されとるはずや」
「ジョーさん…」
「藤城さん行くんや…大怪我しとるのに…しゃべらせすぎやで。行かんと…しゃべり続けるで」
「必ず花田先生を連れてくる。死なんと約束してくれ」
「あぁ藤城さん。理彩ママを頼むで…今日は疲れたな…」
ジョーさんは眠るように目を閉じた。理彩が目を見開いて、鼻に手をかざした。
「息がない!ジョーさん!ジョーさん!心臓マッサージや!」
藤城が理彩の両手をつかんだ。
「無理や!止血しとるのに、やったらあかん!」
「でもジョーさんが!死んじゃう!藤城さん!お願い助けて…」
藤城はつかんだ両手を引寄せて、理彩を抱きしめた。藤城の胸の中で、理彩の鳴き声が悲しく響いた。
「そうか逃げられたか…喰えん奴だ。藤城に山際。仕方ない…高宮愛を確保したから試験採掘ポイントに連れて行けば、全員勝手に集まって来る。そこで処分する。さもないと、10年の時間と200億を注ぎ込んだプロジェクトが中止に追い込まれる。三輪山達人め。くだらん妄想にとりつかれやがって。」
宗山は、司馬遼太郎記念館の書斎を外から見られる場所で携帯を切ると、ため息をついた。
次話!
−第20話ミワヤマβ26 1号掘削塔