-第18話旧甲-ロ七衛兵詰所
−第18話旧甲ーロ七衛兵詰所
扉をくぐると、足場の組まれたトンネルの中に出た。現代の作業灯に照らし出されていて、車道二車線分の幅が有り、丸い天井はさっきの戦車が余裕で走れる高さが有る。ジョーさんが扉を閉めると、コンクリート壁面の中に扉は消えた。隙間はまったく判らない。
「帰りはどうやって開けるんや?」
藤城はまぶしさに目を細めて聞いた。
「さっきと同じや。このスコップで開ける。ここや…」
床にスコップが刺さる溝が有る。
「良かった。ほなら衛兵詰所に行こか」
ジョーさんは反対側の壁際にスコップを差した。
カチャ
小さな音がして壁に窪みが現れる。ジョーさんが指を入れて、扉を開いた。。
今度は、人ひとりが通れる狭い通路だった。電源は本道と繋がっているらしく、暗い白熱灯が網状のカバーの中で光っている。藤城は頭を下げないと歩けないが、老人達はそのまま歩ける高さだ。
「将校用の脱出路や。歩きになるけど旧国鉄の環状線内やったら何処でもいける。地下鉄御堂筋線にも繋がっとるから、千里中央駅まで行けるはずや。途中どうなっとるか分からんけどな」
通路は所々に窪みが有る。そこから老人達は古いライフルを銃架から手に取った。
「撃てるんかそれ?」
「分からんが撃たん方がええな」
「こけおどしか?」
「そうでもない」
老人達は、油がたっぷり塗られた銃剣をライフルの先に着剣した。
「隠密の近接戦闘なら、こっちの方が安全や。刑事さんの拳銃はやめといた方がええ。銃声で人が集まってきよるで」
「銃剣術か…俺にも出来るか?」
「度胸しだいや。こう構えて…」
ジョーさんは目の下にライフルをかまえて前に鋭く突いた。
「のどを一撃で突き破る。声も出せず首の骨が折れて終わりや。抜くんは引金引いて反動で抜くんやが、今回は撃てんから複数の相手なら威嚇して逃げる一手や」
藤城は首を振った。
「やめとく。拳銃構えて脅すだけにするわ」
「賢明や。慣れん事は本番でするもんやない」
ジョーさんを先頭に、藤城が真ん中で前進する。緩やかなカーブを描きながら、通路は続いて行く。
「ここまで作って備えたなら、降伏阻止も解るな」
「無駄な延命ちゅうやつや。要塞で国は守れん。勝機が来るまで時間稼ぎするのが要塞の役目や。勝機が来んと判ってるなら、使わん方が復興にはええのや…ここや。着いたで」
壁に
甲 ロ 七 衛兵詰所
と窪みで表示されている。
「詰所の倉庫に出る。ガラス窓の木のドアの向こうが詰所や。かがんで静かに行くで」
全員がかがむと、ジョーさんはスコップを窪みに入れた。
扉が開いた。
ベットが有り、背中を向けてお下げ髪に縛った後頭部がすぐそこに見える。木のドアは銀色のアルミドアに変わっており、蛍光灯の光で満ちている。
藤城が
理彩っ
とささやこうとした時……鍵を開ける音と共にドアが細く開いて止まった。ノブを持った人物を誰かが呼び止めたらしい。
−理彩ママ掘削ヤグラに移すらしいぞ
反射的に藤城は、お下げ髪の口を後ろから右手で塞ぎ、左手で肩を抱え、通路側に引っ張った。
(開けるな!)
と頭の中で叫んだが、アルミドアは勢い良く全開した。プロレスラーのような筋肉男と目が合った。お互いにらみ合ったまま停止した。
「出るもんが出たか!」
藤城はとりあえず強がってみた。
次話!
−第19話待機場