-第16話宗山の逆襲
−第16話宗山の逆襲
−山際正義さん。三輪山達人をお返し下さい。そうして頂ければ、宮内理彩さんを、そちらにお送りしますー
「不思議ですね?。どうして理彩さんがそっちに?」
−三輪山が道頓堀川に落ちた時、防犯カメラの映像を見てましてね。宮内さんと高宮さんに道子ちゃんですか?三輪山の支援者だろうと思いまして、山際さん封じに役立ちそうなので確保させました。あいにく近くに要員が2名しか居なくて、宮内さんだけにしました。お疑いなら、お話をしますか?ー
「是非とも」
しばらく、沈黙が流れた。
−正義くん。三輪山さんを見殺しにしちゃ駄目だからね……以上だ。確認できましたか?ー
「三輪山さんを渡したとして…理彩さんが無事に戻って来る保証は?」
−三輪山が山際さん側にいなければ、我々はマスコミの質問に対してノーコメントを貫けます。痛くも痒くも有りません。更には、そちらに居る方々を処分しなくて済みます。お互いに、悪い取り引きでは無いと思いますが?ー
「詰んでいる?…と」
−将棋で云うなら、そう思いますが?まだ手が有りますか?ー
「どうやって引き渡しを?」
−明日の日本時間14時に、ジョルジオ メンゲレスのリークナウサイトで、山際さんの記事がアップされますから…それまでに、三輪山達人を、なんば元町2丁目交差点の25号共同構工事現場のメインゲートにお願いしますー
「では、それまで考了時間は残ってる訳ですね?」
−迅速に行動される事を、お勧めしますー
山際は携帯を、耳から離して内容を話した。
「何か策でも?」
藤城が言った。
「理彩さんも三輪山さんも見殺しにはできません」
「当然や。けど、交換や云うとるんやろ?」
「25号共同構と云うのは、新しく掘ってるように聞こえますが、二次大戦前に掘られた軍事用の地下道なんです。当時のコンクリートが耐久年数を迎えて補修補強が行われてるんです」
「内緒でか?」
「そうです。軍事機密ですから当時国民には知らされてません。空襲でこの地下道を解放していれば、何万もの命が救われました。しかし、解放されませんでした。それを公にすれば補償問題が発生します。だから、国は新しく掘っているように装っているんです。でも、当時の工事関係者と、今の工事関係者は数万人に上ります。もはや公然の秘密なんです。東京では協力者を得られませんでしたが、大阪では当時の現場監督の協力を得られて、中に入った事が有るんです。記事は新聞も週刊誌も圧力がかかって掲載されませんでした」
「山際さん。あんたヤバすぎやで」
「米軍相手に比べれば、大した事有りません。誤爆や誤認射撃は有りませんから…それで、新世界のスカラ座の地下から25号共同構に入って理彩さんを救出しようと思います」
「地図とか有んのか?」
「当時の現場監督の難波ジョーさんが居る居酒屋を知ってます。彼は、灯りが無くても歩けるまで地下道を熟知してます。理彩さんと知り合いですから協力して貰えるはずです」
「それ居酒屋九ちゃんに居るジョーじいさんの事か?」
「ご存知でしたか」
「あの酔っぱらいが、道案内できんのか?」
「地下に入ったら別人でしたよ」
「…まぁええわ。俺が行った方がええか?」
「そうですね。そろそろここも移動しないと、宗山に探知されます。次の場所に皆さんを移動させなきゃなりません。お願いできますか?」
「次はどこに?」
「なんとか、近鉄奈良線沿いの八戸ノ里に行きます。司馬遼太郎記念館に行って、この時計の裏側を売店で見せて下さい。隠れ家に案内するようにしておきます」
山際は、懐中時計を藤城に渡した。文字盤には、司馬遼太郎記念館と有り、裏返すと山際厚と刻んで有った。
「記念館は味方か?」
「協力者が1人います。記念館自体は、関係有りません」
「わかった。理彩ママは必ず助け出す。そっちは頼むで」
藤城は山際とにらみ合って、外に出た。
「さて。移動は運送トラックで行きます。徳さんをみんなで手伝って乗せましょう」
そう言う山際に、愛は疑問を口にした。
「そのトラックの運転手は大丈夫なの?」
「吉富忠雄に記憶は?」
「…吉富忠雄さんって、父の知り合いの…確か神明裁判の?」
「死刑が無期になった理由の、鉄材の所有者を突き止めた人物です。あの裁判に興味が有って取材した時の知り合いです。電話で頼んだら快く引き受けてもらえました。トラックの荷台なら、Nシステムも監視カメラも通り抜けられます」
やがてやって来た4トントラックに、徳さんを担ぎ込んで八戸ノ里に向かった。
藤城は、山際達の移動の陽動も兼ねて、地下鉄御堂筋線で梅田堂島に戻った。居酒屋九ちゃんは、理彩ママのアバートに向かう途中に有る。タイフーンアイのビル火事は鎮火していたが、辺りは水浸しで、まだ消防車が残っていた。 規制線の野次馬の中に、あっけなくジョーさんを見つけた。黒いアディダスのジャージに、タイガースマークの雪駄を履いている。丸顔にDJホンダのキャップをかぶっていた。
「ジョーさん。任務や!来てくれ」
「なんのこっちゃ?理彩ママの店焼けとんのに、それどこやないわ」
「理彩ママ救い出す話しや!九ちゃんで話しや!」
ボヤッとした難波譲一の目が、灯がともったように鋭くなった。周りの5人も黙って、藤城の後ろに従って歩き始めた。
九ちゃんで、経緯を話すとジョーさんは言った。
「元町2のゲートやったら、甲のロの七辺りに監禁やな…昔の衛兵詰所なら都合ええはずや」
周りの老人達もうなづいた。
「明日の14時までに、理彩ママを奪い返す。協力してくれるか?」
「頼まれんでもやるで。この町のもんに手ぇ出したらダダですまんで。ひとアワ吹かせたる」
「殴り合いはなしや。静かに機構を窒息させる。国と戦ったらアカン」
「わかっとるがな。今の連中も知らん通路が有る。そこから行くで」
「あれか?」
「せや!茶臼山の家康本陣跡から伸びとる本営直通路や」
藤城は眉を寄せた。
「天王寺の茶臼山か?あそこまで行くのはええけど、茶臼山から難波元町まで、結構有るで?」
ジョーじいさんは笑った。
「歩いたらもたへん。本営直通路は戦車がすれ違える。車で入れる。きっちゃんが電気自動車持っとるから、それで行く。電話してみるわ」
電気自動車に藤城も含めて5人が乗り込んだ。車の所有者のきっちゃんが運転席に居る。ナビにジョーじいさんが座った。
「国道25号の逢坂から南に下って、茶臼山の北西角に付けてくれ」
「ふんふん…本営直通路の大型搬入口かぁ鍵はどうされるんで?隊長?」
「持っとるさけ心配すな」
藤城は聞いている内に不安になってきた。この老人達も山際に負けないくらいヤバイと思ったからだ。どんな形でこれが終わるにせよ、その時自分が生きているかどうか自信が無くなってきた。
次話!
−第17話本営直通路