-第14話駆け引き
−第14話駆け引き
チーママの角川貴子は、眠そうにエレベーターから降りた。
「アレ?どうしたんですかぁ?ママは?」
店の前で、愛と道子ちゃんが座っている。
「戎橋でひと騒動有ってね。はぐれたままなの…携帯は通じないしね」
「そうなんですかぁ。とりあえず店開けますね」
3人は店に入った。
「私が掛けてみますね」
しばらくして、貴ちゃんは携帯を耳から外した。
「…ダメですね。何が有ったんです?」
愛は、いきさつを話した。
「なんだかムリムリな展開ですね。手際が良すぎて、仲間だと思われたかもしれませんよ?」
「そうね…」
今度は、愛の携帯が鳴った。
「…はい。愛です。はいタイフーンアイです。。戻ってないです。わかりました」
「誰でした?」
「正義くん。こっちに来るって…藤城さんと、道頓堀川に投げ込まれた本人も」
「…かくまえって事ですか?」
「みたいね。お店は臨時休業にできる?」
「そうですね。ママが行方不明だし。札を掛けときます」
「私がやるわ。メイクルームの方に電話して」
愛は臨時休業の掛札を、貴ちゃんにもらって外に出た。
ドアを閉めて、臨時休業の札を掛けようとした時、白い煙に気づいた。エレベーターを見ると、ドアの隙間から煙りが漏れだしている。階段まで行って、下の階を見るとすでに煙りが充満している。頭から血の気が引くのが分かる。店にとって返した。
「火事よ!下は煙りで逃げらない!」
「え〜ほんとですかぁ!」
「愛さん!上に逃げましょう!」
「道子ちゃん、上はダメですぅ…廃業した店の荷物で塞がってて上がれません…」
道子ちゃんと愛は、貴ちゃんを見つめた。
西病棟の3階では、藤城がナースステーションに居る看護士に話しかけていた。
「すいません」
「どうしました?刑事さん」
「うちの徳さん。おとなしくしてます?」
「えぇ。落語のお師匠さんみたいで、楽しい方ですね」
「凄腕刑事なんですよ?切られたヤマの時なんか…」
奥に居たもうひとりの看護士も藤城を見た。藤城は身振りを大きくして、2人の視線を病室側から逸らした。それを見ていた山際は、荷物台車に寝そべらした徳さんを引っ張って、病室を出て来た。後ろに三輪山がついて行く。
ナースステーションのカウンターの下に徳さんを滑り込ませる。三輪山もカウンターに隠れた。山際は藤城に話しかけた。看護士の視線は病室側に移った。
「刑事さん。お世話になりました」
「あ〜ご苦労さん。それでだな〜」
アクションを利用して、徳さんの台車を出口側に押し出す。流れで視線を病室側に固定させる。三輪山が台車の徳さんを押して、山際が隠すように後ろに続く。3人が階段の方に消えても、藤城は5分程度話を続けて病院を出た。
山際が借りてきたレンタカーが梅田に近づくと、車列が動かなくなった。
「なんの渋滞や?」
藤城は交通課の同僚に電話を掛けた。
「峰岸か?梅田の渋滞なんや?事故か?…火事…どこや?堂島ぁ〜呉羽ビルジングやて!」
藤城は、携帯を切らずに叫んだ。
「山際さん!タイフーンアイのビルや!」
「先越されましたね…だとすると、この車も危険ですね」
「Nシステムか…どうする?」
「三輪山さんと徳さんを、僕が安全な場所に移動させます。タイフーンアイを藤城さんにお願いできますか?」
「分かった」
藤城は車を降りようとした。
「待てや藤城!」
「なんや!徳さん!」
「呉羽ビルの西裏の、居酒屋なんでやねん知っとるか?」
「知っとるけどなんやねん!」
「右横に隙間がある。奥のどん詰まりが呉羽ビルと共同のダストシュートになっとる。今は使われとらんがダストシュート自体は、居酒屋のビルの中を通っとるんや。従業員が知っとるなら、そこに逃げて助かってるはずや」
「分かった。きっと大丈夫や。いくで!」
藤城が降りると、山際はタイヤを鳴らして対向車線にUターンした。急ブレーキとクラクションの嵐の中を走り去った。
「防犯カメラもあかんな…」
藤城は、顔を映らないようにして、居酒屋なんでやねんに急いだ。
−第15話梅田脱出