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-第13話隠滅




−第13話隠滅





岸谷徳三郎は、右腕の外側に鳥肌が立つのを感じた。誰かが死にもの狂いで逃げる気配を、この右腕が感じるのだ。張り込みで、容疑者が動けば、眠っていても判る便利な腕だ。切られた上半身12ヶ所が縫合されて、傷口は塞がっていない。ベットの上から動けば、まだ激痛が走る。

気配は、押し殺した呼吸と足音と共に、この6人部屋に入って来た。

「こっちや。こっちに来い」

岸谷はささやいた。

呼吸と足音が止まった。ベットはカーテンで囲われている。そのカーテンを潜って、気配は入ってきた。そのまま、ベットの下に這い込んだ。

しばらくして叫び声と共に、数人の足音がバタバタと崩れ込んで来た。乱暴にカーテンを開ける音がする。岸谷のカーテンもザッと開いた。

「なんや?無礼ちゃうんか?」

岸谷は、トッサにお茶を突っ込んだ尿瓶を右手で持って凄んだ。背広の男達は一瞬ひるんだ。

「何や知らんが後にせいや!」

ベッドの周囲を眺め渡して、男達は去った。

「失礼しましたぐらい言わんか!アホンダラ!」

岸谷はしばらく耳を澄ました。

「…どうやら行ったみたいや。もう大丈夫や」

ベットの下から男が現れた。




白い病衣を着ている。頭髪は濡れていた。

「誰に追われとる?」

「特定資源開発研究機構です。ほぼ日本政府と言って良いかもしれません」

「えらいデカイ話やな…機密絡みか?」

男はうなづいた。

「山際正義に連絡して下さい!三輪山達人がここに居ると!」

「焦りなさんな…電話番号とか判るか?」

「持ってた物は全部有りません…携帯も…そうだ!山際正義のホームページにアクセスすれば、連絡先が有ったはずです!」

「そうか…分かった」

岸谷は、病室使用禁止の携帯を取り出して山際正義のホームページにアクセスした。





「転院先は、どこなんでしょう?」

救急救命室の前で山際と藤城が途方に暮れていた。取材相手と被害者がさらわれてしまった。

突然、小鳥の鳴き声が響いた。

「あっちょっとすいません」

山際は携帯を取り出した。

「なんや着メロか…」

「えっ?今そこに居るんです。西病棟の3階303…わかりました。すぐ行きます。刑事さん三輪山達人さんが見つかりました!」

「なんでやねん!」

「行きましょう!」





岸谷のベットで、藤城と山際は三輪山達人の話を聞いた。

「救急車の中で意識が戻りました。中で1人殴り倒して、飛び降りました」

「医者のスノープリンセスの解毒が成功したんやな」

「なんやスノーって?」

「徳さん。麻酔薬や」

「それで…私に話と云うのは?」

山際は、マイクロレコーダーのスイッチを入れた。

「私は、特定資源開発機構でミワヤマβ26の研究をしています」

「それは何です」

「原子力に代わる次世代エネルギーです。最大の特徴は、放射線を出さない事です。東京のど真ん中で発電できます」

「それが周知されて無いと云うのは?問題が?」

「埋蔵されている場所に問題が有ります」

「メタンハイドレードの下ですか?」

「そうです。ミワヤマβ26は、ちょっとした震動や重力加速度で120℃の高温を発します。メタンハイドレードはメタンガスが凍結した物体です。発掘で一気に解凍してガスになって噴出してしまいます」

「それは何を意味するんです」

「ミワヤマβ26は一部が発熱すると連鎖します。つまり埋蔵されているすべてのミワヤマβ26が120℃でメタンハイドレードを炊き上げてしまいます。埋蔵されているすべてのメタンハイドレードがガス化したら、まず地盤が90cm沈下します。それは陸地も含めてです。範囲は、東北沿岸なら三陸沖から相馬沖までの広大な地域です。その広大な地域が90cm沈めば、そこに海水が流れ込んで津波を発生させます。さらに、沈下のストレスで地震を発生させます。そして、90cm下がった陸地に津波が押し寄せます。沿岸は壊滅します」

「まさか…それが起ころうとしている?」

「連鎖はしないと云う研究者もいます。しかし、中国が行なった試験採掘で新潟沖のミワヤマβ26が連鎖した事は明らかです」

「中越地震の事を言ってるんですか?」

「そうです。メタンハイドレードの範囲が狭かったせいで、地震だけでしたが、東北沿岸で採掘が行われたら、とんでもない事になります」

「行われるんですか?採掘が?」

「ミワヤマβ26は機構の人間と、内閣閣僚しか知りません。メタンハイドレードの試験採掘に隠れて進められています。現在、三陸沖 気仙沼沖 福島沖 相馬沖の試験採掘地点にプラットフォームが有ります。これがマスコミに発表されれば、試験採掘は行えなくなります。これを発表して下さい!」

「ウ〜ン…やってみましょう。しかし、やり方が有ります。おそらくテレビも新聞も乗ってくる可能性はゼロでしょう。あなたは殺されかけた。海外のネットで、英語で流してみましょう。リーク系サイトのアメリカ人を知ってます」

横で聞きながら、藤城は手が勝手に震えるのを見た。

「山際さん。今の話…信用できるんか?本人目の前やけど」

「できます。ジャーナリストに会うだけで、拉致されたのが1点。ウインズに居たオッサン達が、助けようと大勢で囲んだ為に、麻酔を打ってさらに追い込まれて、予定外で道頓堀川に放り込んだのが2点。最後に救急救命室から転院と称して救急車で連れ去った。充分でしょう」

「しかし、三輪山さんをどうやって守るんや?」

岸谷がニヤッとして言った。

「タイフーンアイや。うってつけや」

「成る程。いいアイデアです。ママを知ってますから、連絡してみます」

しかし。

その頃理彩は、機構の宗山の手に落ちていた。





次話!

−第14話駆け引き






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