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-第12話アンダー ザ ハイドレード






−第12話アンダー ザ ハイドレード




愛は、Tシャツとカーゴパンツを近くで買ってきて、道子ちゃんに着せてタイフーンアイに戻ってきた。理彩は戻ってきてなくて、鍵の掛かったドアの前に2人は座り込んだ。

「人命はすべてに優先するのね。道子ちゃんの場合」

ここまでくる間、道子ちゃんは一言も発しなかった。

「…あんな風に、人を扱っちゃ駄目だ。そうして良い理由なんて無い」

道子ちゃんは廊下の壁に向かってつぶやいた。

「そうだね…でも舞ちゃんには、辛かったかな」

「キズつけた事は、謝らなきゃと思う。でも、いつかは見なければならない事だから…どうするかは舞ちゃんが決める事だと思う。人って見たくない物は、見ないようにする生き物だから…それを目の前に突き付けちゃったよ」

愛は唐突だと思ったが、別の話をした。

「私も驚いた。前の彼が女装っ子さんだって分かった時」

「あ〜翔子さんから聞きました。ミナミの女装子の精神的支えだったアイお姉さんですね」

「私の場合は、もう死んじゃた後だけどね。生きてる時に、知ったらどうだっただろ…どんな風に接していいか戸惑っただろうね。でも彼は本気だったって、みんなに話を聞いて分かったし…写真でだけど、私より女の子だったって思うと…もっと女の子の部分で、共有出来る事がたくさん有ったのにって、残念だなって思う」

「時間が経つと、舞ちゃんもそう考えるのかな?」

「まだ若いからね。何年か掛かるかもしれない。でも、女装子に対して、偏見を持って欲しくない。彼とオシャレの話が出来るなんて、最高に幸せな事だからね」

嬉しそうな愛の顔を、エッ?と云う顔で道子ちゃんは見た。

「愛さんは、舞ちゃんが戻ってきた方が良いんですか?」

「男女の事はね、運命なんかじゃないと思う。どれだけ求める気持ちが強いかだけ。強い者が結ばれる。強さで劣れば、結ばれる事はない。でも強さは、自分で強く出来る訳じゃない。自分の魂がどうなのかで決まるのよ。だから私はね、道子ちゃんと舞ちゃんの関係に小細工したり口を挟む事はしない。自分の魂に、それぞれが忠実であれば良いと思ってる」

「それは…愛さんの魂も入ってるんですか?」

道子ちゃんは、愛をジッと見た。

「そうね…道子ちゃんの事は嫌いじゃない。正直ドキドキする事も有る。でも、どれほど魂が求めてるのかは判らない。舞ちゃんより上なのか?下なのか?」

道子ちゃんは、顔を紅くして目を逸らして言った。

「上で有って欲しいです。私の魂は、山際さんより上だと思ってます」

「彼は強敵よ?」

「負けません…愛さんを渡したくないです」

愛は自然に顔を寄せて、道子ちゃんの唇に重ねた。道頓堀川の匂いがするキスだったが、それもいとおしく感じる自分に、恋に落ちた事を知った。





ちょうどその頃。

藤城刑事は、道頓堀川に落とされた男が搬送された病院のロビーに居た。偶然にも、岸谷徳さんが入院している病院で、戻ってきたような感じになった。

「あら?忘れ物ですか刑事さん」

看護士が振り返って声を掛けた。

「ちゃう。道頓堀川に放り込まれて搬送された被害者はどこや知らんか?」

「あ〜まだ救急救命室だと思います」

藤城は眉を寄せた。

「長いんちゃうか?危ないんか?」

「呼吸は有るんですけど、意識が戻らないんです。薬物を投与されてる可能性が有って、解毒を試してる最中です」

「さよか…救急救命室はどこや?」

「その廊下を入ったら、壁の案内板に沿ってけばすぐです」

「おおきに」

藤城は、廊下を走った。




救急救命室の外には、制服警官が2名立っていた。

「ご苦労さん。中はどないや?」

制服警官は、敬礼をして答えた。

「意識が戻りません。酸欠で脳がやられてる訳やないそうです。強い睡眠薬の反応が有る言う事です」

「戻るんか?」

「スノーホワイトプリンセスとか云う薬物で、軍事用だとかで、特定の薬物で解毒すれば3時間で覚醒するんですが…」

「軍事用なら手に入らんやろ?」

「それが、ネットでレシピ出たのを医者がパソコンに取り込んでたらしくて、薬剤師に調合させて投与して40分ぐらいです」

藤城は救急救命室のドアを見た。

「その医者無茶しよるで。信用できんのかネットのが?」

「スノーホワイトプリンセスを開発した本人のサイトなので、間違い無いとの事です」

「軍事用なら機密やろ?」

「ケンブリッジの研究者で、副作用や身体に負担が無くて、連用可能な睡眠薬として開発したんですが、口封じに都合が良いんで軍事転用されたんでリークしたみたいですね。民間で使えなくなったんで…」

「そいつが使われたって事は、軍絡みで、口を封じられたって意味か?」

制服警官は急に直立不動の姿勢になった。藤城は後ろを見た。

知事と10人程の背広の集団が歩いて来るのが見えた。



「ご苦労さん。院長の坂井出さかいでです」

知事の横の背広がそう言って、救急救命室のドアを開いた。知事は横を向いている。藤城は慌てた。

「待って下さい。府警の藤城いいます。どういう事ですか?説明して下さい」

院長の後ろの背広が答えた。

「転院です」

「転院って…まだ救急救命中ですよ?」

「彼は、特定資源開発研究機構の職員で、三輪山達人みわやまたつひとさんです。誘拐されて、身代金を要求されてました」

「府警は聞いてない」

「彼は、軍事機密に関わっていて、自衛隊のレスキューが救出作戦を行なっていました。これは安全保証上の問題で有って、総理の承認を得ています。府警は、これに関しては我々に任せて頂きたい」

「あんた何者や?」

「経済産業省海洋資源問題課の宗山むねやまです。府警には、別の者が説明に伺っております。お問い合わせ下さい。では…」

「なんやねん…」

一行は、救急救命室に入って医者と口論になった。ドアが閉められ、藤城は黙って漏れて来る口論を聞いているしかなかった。しばらくして医者が出てきた。

「被害者は?どうなりました」

「ん?被害者?警察か?出てったよ!入って来たドアから救急車で!口外するなってさ!口外したらクビだそうだから、何も聞かないでもらいたい!以上だ!」

「スノーホワイトプリンセスって普通じゃない」

「やめろ…あんたもクビになる」

医者は振り切って廊下の角に消えた。その入れ替わりに、別の若者が角から現れた。医者とぶつかってヨロケタが、医者はそのまま行ってしまった。若者は、なんだ?と云う顔をしながら藤城の前に来た。


「すいません。フリーの山際ですけど、三輪山達人さんは中ですか?」

半開きのドアを覗き込みながら聞いた。

「なんや?新聞屋か…なんで名前知っとるんや?」

「取材です。今朝三輪山さんと心斎橋のJRAウインズで待ち合わせしてたんですが、ウインズでスマキにされて、道頓堀川に投げ込まれたと聞きまして…水難で搬送ならここの救急救命だと思いまして」

藤城は、山際を観察した。

「兄ちゃんエエ腕しとる。ド真ん中ストライクや。あんた…戦場カメラマンの山際さんか?」

「息子の方の山際正義です」

「思い出した。雑誌で見た事あるわ。しかし…話がおかしい」

「何がです?」

藤城は、経済産業省の役人の話をした。

「遅かったか…。確かにおかしいですね。三輪山が投げ込まれる5分前に、携帯で話してます。たった5分で誘拐されて、自衛隊のレスキューが作戦行動に入れる訳がない」

「ずっと監視されて、口封じできる状態に有ったんやな…山際さん。何の取材やったんや」

「電話で指名で、話をしたい。アンダー ザ ハイドレードって下に文字が有る自分の写真を携帯に送ってきました。これです」

山際は携帯の画面を見せた。海を背景に鉄のヤグラの前に立っていた。

「これ以上の事は会って話すと言ってました」

「山際さん。何や思う?」

「単純に海底掘削のプラットフォームでしょうね。とすると、天然ガス…メタンハイドレードの試験掘削ヤグラですか」

「メタンって、メタンガスの事か?」

「海底の地層の中に、凍結してるメタンガスが、太平洋沿岸に1兆立方メートル埋蔵してるらしいんです」

「だから資源開発機構とか言ってたんやな」

「一応三輪山さんの身元を調べたんですが、メタンハイドレードの技術者ではないんです」

「なんの技術者なんや?」

「それが、ミワヤマβ26の技術者らしいんです」

「クワガタみたいな名前やな…それは?」

「今の所は、不明です。ただ、メタンハイドレードの下で発見された物質とだけ突きとめました」

「やからアンダーザハイドレードか…何やわからんけど、深入りしたら命が無い話云うのは確かやな」

藤城は、これから事件関係者に何が起こるかを必死で考えた。そして身震いした。






次話!

−第13話隠滅







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