あの日の別れ
懐かしい街を歩いていた。夢だろうか、子供のころの記憶に似ている。膜のようなものがかかっており視界が霞んでいる。真っ赤な夕日が差し込み彼女の横顔を照らしていた。
「今日で最後だよ。またね。」
彼女が無理に明るく振舞っていることは傍から見ても明らかだった。
この記憶の結末はよく知っている。
このとき引き止めていれば、と何度考えたことだろうか。
「悲しくなるね。」
感情を抑えながら静かに答える。唇を噛み締めると、痛覚があることに気づいた。夢ではなかったのか?だがこれはチャンスだ。彼女を引き止めれる可能性がある。たとえ夢だとしてもだ。
「咲良!」
僕は声を絞り出す。
「どうしたの?いきなり。」
困惑した顔の彼女に僕は告げた。
「行かないでくれ。俺と一緒にいてほしい。」
その瞬間、パッと彼女の顔に満面の笑みが咲いた。
「ずっとその言葉を待ってたの。ありがとう。」
僕たちは自然と抱き合い、幸せを噛み締めていた。
俺は涙を流していることに気づいた。スーツをカッチリ着た生真面目そうな男が視界に入ってくる。
「どうでしたか?臨場感満載の最新ゲーム機は。お値段122,080円となっておりますが。」
品定めをするように俺を見る男を尻目に、涙を拭いながら機械から立ち上がる。
「考えておくよ。」
そう言うと早足で店を出た。涙を流すなんていつぶりだろう。感傷に浸りながら俺は帰路に着いた。




