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凡人戦記― 異世界転生したら崩壊した王国スタート ―  作者: harap1239


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第七話 「凡人、気づかされる」

王国は、静かに分裂を始めていた。


表向きは同じ命令が出ている。同じ旗が掲げられ、同じ言葉が使われている。だが、現場に降りてくる指示の意味が、場所によって違い始めていた。



王国は、静かに分裂を始めていた。


表向きは同じ命令が出ている。同じ旗が掲げられ、同じ言葉が使われている。だが、現場に降りてくる指示の意味が、場所によって違い始めていた。


前線では「持ちこたえろ」。

後方では「消耗を抑えろ」。

城内では「混乱を招く情報は控えろ」。


全部、正しい。全部、同時には成立しない。


それを最初に言葉として認識したのは、俺じゃなかった。


「ねえ、これ……おかしくない?」


例の女が、俺の机に紙束を置いた。第三観測線以外の記録だ。別の観測役が書いたものらしい。


「魔獣が突破した時刻と、撤退命令の時刻が合ってない。二時間ズレてる」


「記録ミスかも」


「でも、こっちも」


彼女は別の紙を指す。


「被害報告は最小限。でも、実際に戻ってきた兵の数が合わない」


俺は黙って紙を並べた。


ズレている。

偶然にしては、揃いすぎている。


「……消えてるな」


「うん」


彼女は即答した。


死者じゃない。行方不明でもない。最初から、そこにいなかったみたいに。


王国は、負けを隠し始めている。


それは恐怖からじゃない。希望を保つためでもない。

ただ、崩れる順番を先延ばしにしているだけだ。


「これ、書く?」


彼女が聞く。


「書く」


「嫌われるよ」


「もう、好かれてない」


それは冗談でも強がりでもなかった。事実だった。


その日から、俺の仕事は変わった。


戦場の出来事を書くのは同じだ。ただし、書かれていないことにも印をつけるようになった。命令が出なかった時間、誰も触れない損失、都合よく丸められた数字。


記録は、証拠じゃない。

けど、矛盾は嘘より雄弁だ。


数日後、呼び出しがかかった。


記録室じゃない。会議室だ。


長机の向こうに、見知らぬ役人が三人。全員、顔色がいい。戦場を知らない顔だ。


「額賀だな」


「はい」


「君の記録は、現場視点として評価されている」


評価。便利な言葉だ。


「ただし」


来た。


「一部、表現が過剰だ。王国の士気に影響する」


「事実です」


「事実でも、書かなくていいことはある」


俺は、一瞬だけ考えた。


前の世界なら、ここで引いていた。空気を読んで、言葉を飲み込んで、何も変えずに終わらせていた。


でも、ここはもう違う。


「じゃあ、書かない代わりに、何を信じればいいんですか」


沈黙が落ちた。


「……王国を」


「王国は、人です」


言い切った。


「人が判断を間違えることを、前提にしないなら、次はもっと壊れます」


誰かが舌打ちした。誰かが目を逸らした。


会議は、それで終わった。


帰り道、城の回廊で、老騎士に呼び止められた。


「余計なことを言ったな」


「はい」


「だが、必要なことでもある」


彼は低い声で続ける。


「上は、もう勝ち方を考えていない。負け方を選ぼうとしている」


それは、戦争の終盤にしか出てこない言葉だった。


夜、記録を閉じる前に、俺は一文だけ、別の紙に書いた。


――この戦争で、一番危険なのは、敵ではない。

――現実を編集し始めた味方だ。


それを、まだ誰にも渡さない。


いつ出すか。

誰に見せるか。

それを決める権利だけは、手放さない。


凡人は、剣を持てない。

魔法も振るえない。


でも、いつ沈むかを決める言葉なら、まだ持っていられる。

第四話が投稿されていなかったので投稿しました。

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