表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凡人戦記― 異世界転生したら崩壊した王国スタート ―  作者: harap1239


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/25

第四話 「凡人、配置される」



結論から言えば、俺たちは猶予を与えられている立場じゃなかった。


観測役とか、記録係とか、聞こえはいいが実態は違う。

要するに、戦争が本格化する前に「使えるか」「壊れるか」「何もできず終わるか」を振り分けるための、予備選別だ。


それを理解したのは、配属から三日目の朝だった。


城の鐘が鳴った。

時間も回数も不規則で、前日までのそれとは明らかに違う鳴り方だった。音に余裕がない。急かすようで、切羽詰まっている。


兵舎の空気が一気に変わる。


誰かが小声で言った。


「……来たな」


来た、という言葉に具体的な意味を持たせる前に、外が騒がしくなった。騎士が走り、伝令が叫び、訓練場では集合がかかる。説明はない。ただ急げ、だけだ。


丘の上に立たされた俺たちは、嫌でも見せつけられることになる。


遠く、地平線の端が黒く滲んでいた。

最初は雲かと思った。だが動きが違う。遅く、重く、確実にこちらへ近づいてくる。


「敵影確認!」


誰かの声が裏返る。


双眼鏡を持った騎士が、歯を食いしばりながら報告する。


「魔獣混成部隊だ……数が多すぎる」


その瞬間、ようやく理解した。

この国が、もう「戦争をしている」段階じゃないことを。


すでに、防衛戦ですらない。

耐久戦だ。崩れるまでの。


転生者の中から、誰かが呟いた。


「……俺たち、間に合ってないよな」


否定できるやつはいなかった。


その場で指示が飛ぶ。

前線に出る者、城内に残る者、後方支援に回される者。


そして俺は、例によって中途半端な位置に置かれた。


「額賀。第三観測線だ」


観測線。

要するに、実戦に近いが、前線ではない。逃げ道はあるが、逃げ切れる保証はない場所。


皮肉な話だ。

前の世界でも、俺はいつもそうだった。責任からは逃げ切れず、中心にもなれない位置。


第三観測線に着くと、すでに数人の転生者がいた。

昨日、力を暴走させかけた女。

怖くて訓練を拒否した男。

そして、何も発現しないまま、ただ立ち尽くしているやつ。


全員、顔が青白い。


「記録を取る」


俺は、そう言って紙を広げた。

震える手を抑えながら。


戦闘は、想像以上にあっさり始まった。


空が裂ける音。

地面を揺らす衝撃。

遠くで上がる炎と悲鳴。


魔法も、剣も、命力も、全部が同時に使われて、全部が追いついていない。

整った戦術なんてものは、もう存在しなかった。


「来る……!」


観測線の前方、魔獣が一体、突破してきた。

巨体。牙。血に濡れた毛皮。


騎士が迎撃に出る。

転生者の一人が、反射的に力を使った。


風が歪み、魔獣の脚が切り裂かれる。


「やった……!」


声を上げた次の瞬間、魔獣が暴れ、別の騎士が吹き飛ばされた。


成功と失敗が、同時に起きる。

それが戦場だった。


俺は、ただ見ていた。

見て、書いた。


誰が何を見て、どう判断し、どうなったか。


怖くなって動けなかった者。

怖いまま、それでも前に出た者。

何も考えず、体が先に動いた者。


その全部を、俺は否定も肯定もせず、紙に落とす。


不思議なことに、その作業をしている間だけは、頭が妙に冷えていた。


「額賀!」


名前を呼ばれる。


振り向くと、あの女がいた。

手が血に染まっている。自分のものか、他人のものか、分からない。


「……私、逃げなかった」


報告するような声だった。


「うん」


それだけ答える。


「でも、怖かった」


「それも、書く」


その言葉に、彼女は一瞬だけ目を見開き、次に、力なく笑った。


「……ありがとう」


戦闘は、長くは続かなかった。

というより、こちらが耐えきれなかった。


撤退命令。

勝利でも敗北でもない、ただの後退。


城へ戻る途中、誰も喋らなかった。

生きていること自体が、偶然に近かったからだ。


夜、記録をまとめながら、俺は思った。


この世界は、前の世界より残酷だ。

でも同時に、誤魔化しがきかない。


才能がないこと。

怖いこと。

逃げたいこと。


全部、隠さずに表に出る。


そして俺は、その全部を見て、書いている。


戦えない凡人が、戦場で生き残る方法なんて、普通は存在しない。

でも、ここでは違うらしい。


戦えないからこそ、壊れない。

壊れないからこそ、見続けられる。


紙の最後に、俺はこう書いた。


――恐怖は、敗北ではない。

――判断を放棄した瞬間が、敗北だ。


誰に読まれるかは分からない。

もしかしたら、誰にも読まれないかもしれない。


それでもいい。


少なくともこの世界で、俺はもう「何もしていない存在」ではなかった。


凡人でも、立っていられる場所はある。

それが戦場のど真ん中じゃなくても。


そう思えた夜だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ