表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凡人戦記― 異世界転生したら崩壊した王国スタート ―  作者: harap1239


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/25

第二十五話(最終話) 「凡人戦記、終末の王国」

王都は、静かだった。


戦争が終わった都市特有の騒がしさはない。勝利を祝う旗も、英雄を讃える声も上がらない。ただ、人が生きている音だけがある。瓦礫を踏む足音、水を汲む音、遠くで誰かが泣く気配。



王都は、静かだった。


戦争が終わった都市特有の騒がしさはない。勝利を祝う旗も、英雄を讃える声も上がらない。ただ、人が生きている音だけがある。瓦礫を踏む足音、水を汲む音、遠くで誰かが泣く気配。


国家は存続した。

だが、国家としての機能は終わった。


魔力塔は半数が停止し、残りも最低限の維持に回されている。契双は再起不能。命力運用は制度として廃止された。王国はもう、魔力によって拡張される国ではない。


それでも、国は崩れなかった。

敵国も引いた。彼らの目的は達成されたからだ。


「……勝った、んだよね」


記録庫の窓から街を見下ろしながら、リィナが言った。

包帯の下、肩はまだ動きづらそうだ。前線で限界を越えた体は、今も静かに痛みを主張している。


「軍事的には」

仁之は、いつものように補足する。

「政治的には……終わった」


「国家が?」

「うん。王国は残る。でも、拡張も、征服も、できない」


「じゃあ、普通の国になる?」


仁之は、少し考えた。


「普通、よりは脆い」

「でも、魔力に殺されない」


その言葉に、リィナは小さく笑った。


「皮肉だね。魔力で守ってきた国が、魔力を失って生き延びるなんて」


「正しい判断の積み重ねは、いつも最後に別の正しさを要求する」


彼は机に積まれた記録を見た。

第三観測線から始まった、数え切れない紙束。壊れ方、速度、判断の理由と結果。その全てが、ここにある。


「これ、どうするの」

リィナが訊いた。

「燃やされる?」


「残す」

「王国にとって、不都合じゃない?」


「だから残す」


仁之は、最後の署名を書き入れた。

英雄の名ではない。功績でもない。ただの記録者として。


「この国は、正しく壊れた」

「それを、忘れないために」


外では、王都再編の会議が始まっている。新しい税制、魔力に依存しない産業、国境線の再定義。未来の話ばかりだ。


ここには、もう戦争は戻ってこない。


「……ねえ」

リィナが、少し躊躇ってから言った。

「これから、どうする?」


仁之は、答えを用意していなかった。

記録を書くことだけが、彼の役割だったからだ。


「記録は、ここで終わる」

「仕事、なくなるね」


「仕事じゃない」

「じゃあ、何?」


「……習慣」


リィナは、彼の横に立った。

肩が触れるほど近い距離。だが、触れない。


「前線に戻れって言われたら」

「止める」

「理由は?」


「失う前提の配置だから」


「私が、もう役に立たないって?」


「違う」

仁之は首を振った。

「役に立つから、失われる」


彼女は黙った。

少しだけ、呼吸が深くなる。


「仁之」

「うん」


「この戦争で、私たち、何を守れたと思う?」


彼は、窓の外を見た。

子どもが瓦礫の上を走っている。笑っているわけでも、泣いているわけでもない。ただ、生きている。


「選択肢」

「……それだけ?」


「それだけで、十分だ」


リィナは、しばらく彼を見ていた。

前線で見せる強さでも、皮肉でもない、素の目で。


「凡人だね」

「知ってる」


「英雄じゃない」

「なれなかった」


「国も救ってない」

「壊れるのを、遅らせただけ」


彼女は、静かに息を吐いた。


「それで、よかったんだと思う」


その言葉は、慰めではなかった。

評価でも、妥協でもない。ただの事実として、そこに置かれた。


夕暮れが、王都を染める。

終末の色は、思っていたより穏やかだ。


「……どこか、行く?」

リィナが言った。

「国境、開いたらしい」


「記録者は?」

「もう、役目は終わったでしょ」


仁之は、最後に記録庫を振り返った。

紙は残る。言葉も残る。だが、自分が縛られる理由は、もうない。


「行こう」

短く、そう言った。


二人は並んで歩き出す。

肩は触れない。手も取らない。


それでも、歩幅は自然と揃っていた。


終末の王国に、英雄はいない。

救済もない。世界は救われない。


だが、人が人を選ぶ余地だけは、最後まで残った。


それで、この物語は終わる。

良ければ感想、評価をお願いします。今までありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ