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凡人戦記― 異世界転生したら崩壊した王国スタート ―  作者: harap1239


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第二十四話 「国家は、勝ったまま死ぬ」

首都戦は、戦争としては奇妙な形で始まった。


砲声は少なく、突撃の合図もない。

あるのは、魔力塔の過負荷を知らせる鐘と、補助線が引き直される音だけだった。



首都戦は、戦争としては奇妙な形で始まった。


砲声は少なく、突撃の合図もない。

あるのは、魔力塔の過負荷を知らせる鐘と、補助線が引き直される音だけだった。


「南第二塔、停止」

「北区画、命力供給率が七割を切りました」

「契双部隊、待機命令。理由不明」


報告は淡々と積み上がっていく。

混乱はない。恐慌も起きていない。


それが、この戦争の最終局面だった。


「……敵、どこにいる」


指揮室で誰かが呟いた。

答えは出ない。敵軍は王都を包囲しているが、決定的な一撃を加えない。結界の薄い場所を狙うこともない。魔力塔を破壊すれば、戦いは一気に終わるはずなのに。


「来ないんじゃない」

リィナが言った。

「終わらせに、来てない」


仁之は、中央司令部から回ってきた判断記録を読んでいた。

どれも正しい。数字上、理論上、過去の成功例に照らして。


「魔力網を維持すれば、王都は守れる」

「契双を切れば、戦線は押し返せる」

「命力を追加投入すれば、短期決戦に持ち込める」


すべて、間違っていない。


「ねえ」

リィナは机に腰を預けた。

「勝ってるよね、私たち」


「勝ってる」

仁之は即答した。

「軍事的には」


「じゃあ、なんでこんなに——」


言葉が続かなかった。

代わりに、遠くで魔力塔が唸りを上げる。


「国家が、耐えられない」

仁之が言った。

「勝利を維持するための構造が、もう限界だ」


敵国の目的は、ここで初めてはっきりした。

彼らは魔力を否定しない。ただ、依存を終わらせに来た。


「魔力を使えば守れる。でも、使い続ければ壊れる」

「使わなければ、短期的には負ける」

「だから王国は、使い続けるしかない」


それが、この国の“正しさ”だった。


「敵は、それを理解してる」

仁之は続けた。

「だから攻めない。私たちが自分で壊れるのを、待ってる」


その瞬間、中央塔からの緊急通信が割り込んだ。


「命力調整班より。契双の再起動、不可。人格崩壊例が多発」

「代替案は?」

「ありません」


沈黙が落ちた。


誰もが理解した。

もう、“次の正しい判断”が存在しない。


「……逃げる、って」

リィナが小さく言った。

「やっぱり、選択肢だったんだね」


「個人にはな」

「国家には?」

「ない」


外で、初めて爆音が響いた。

敵の攻撃ではない。魔力塔の自壊だった。


「前線に戻る」

リィナは剣を取った。

「まだ、できることがある」


「無理をするな」

「無理をしないと、ここには立てない」


彼女は振り返った。


「仁之。もし私が戻らなかったら」

「戻る」

「もし、戻らなかったら」


仁之は、少しだけ間を置いた。


「記録する」

「……それでいい」


それが、二人の間で交わされた、最も率直な言葉だった。


首都は守られた。

敵軍は後退し、包囲は解かれた。


戦況図には、はっきりと「王国軍勝利」と書き込まれる。

だがその裏で、魔力網は再構築不能となり、契双運用は凍結され、命力管理機構は停止した。


国家は、生き延びた。

だが、戦争を続ける力を失った。


夜、仁之は最後の一文を書き加える。


――この戦争は、勝利で終わる。

――だが、国家はここで役目を終える。

――正しい判断が積み重なった結果として。


遠くで、負傷兵を運ぶ足音が続いている。

その中に、リィナの姿は、まだ見えなかった。


それでも彼は、ページを閉じなかった。

終わりは、まだ先にある。


ここはただ、終戦の前夜にすぎない。

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