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凡人戦記― 異世界転生したら崩壊した王国スタート ―  作者: harap1239


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第二十三話 「首都は燃えない」

首都は、まだ燃えていなかった。


それは安心ではなく、違和感だった。

周縁都市は次々と崩れ、第三観測線はもはや線と呼べる形を失い、魔力網は補修と断線を繰り返している。それでも王都だけは、結界が張られ、塔が立ち、人々は「持ちこたえている」という言葉を疑わずに使っていた。



首都は、まだ燃えていなかった。


それは安心ではなく、違和感だった。

周縁都市は次々と崩れ、第三観測線はもはや線と呼べる形を失い、魔力網は補修と断線を繰り返している。それでも王都だけは、結界が張られ、塔が立ち、人々は「持ちこたえている」という言葉を疑わずに使っていた。


「……変だな」


仁之は観測室の高窓から王都を見下ろし、そう漏らした。

夜明け前の空気は澄んでいる。戦時下にしては、あまりに静かだった。


「敵は、来ない」


背後でリィナが言った。

鎧は着けているが、剣は壁に立て掛けたまま。前線に立つ者の姿勢ではない。


「包囲はしてる。でも、突撃はない。魔力塔も狙ってない」

「避けてる、の間違いじゃないか」

「同じこと」


仁之は机に戻り、記録紙を一枚広げた。

魔力流量の推移、結界維持率、命力消費。どれも数値だけを見れば“成功”の範囲に収まっている。


「王都は守れてる。正しい判断の結果だ」

「その言い方、嫌い」

「俺もだ」


リィナは地図に指を置いた。

敵国軍の配置は、王都を避けるように円を描いている。


「ねえ。向こう、勝つ気ないんじゃない」

「勝つ定義による」

「私たちが思ってる“勝利”じゃない、って意味」


仁之は少し考えてから、頷いた。


「敵の目的は、制圧でも殲滅でもない」

「じゃあ、何?」

「選択肢を奪うことだ」


彼は別の記録を取り出す。

敵国の歩兵部隊編成。魔力行使者は最小限。契双使用例はほぼなし。


「魔力を使わない戦争を、見せつけてる」

「……私たちに?」

「王国に、だ」


リィナは黙り込んだ。

やがて、低い声で言う。


「魔力を使えば守れる。でも使うほど、内部が壊れる」

「だから中央は使う。今まで成功してきた方法だから」

「正しい判断を、積み重ねてる」


その言葉は、刃物みたいだった。


「正しいよ。全部」

仁之は言った。

「短期的には、全部正しい。だから誰も止められない」


外で鐘が鳴った。

結界強化の合図。今日もまた、魔力が注ぎ込まれる。


「ねえ、仁之」


リィナは彼を見た。

前線で人を斬ってきた目ではなく、一人の人間の目だった。


「逃げるって選択肢、あると思う?」

「……ある」

「私たちに?」

「ある。でも、選ばれない」


彼女は小さく笑った。


「だよね。選ばれない。だって——」

「“今はまだ大丈夫”だから」


その瞬間、通信兵が駆け込んできた。


「南区画、魔力塔一本沈黙。原因、過負荷」

「敵の攻撃は?」

「確認されていません」


誰も驚かなかった。

それが、いちばん重かった。


「また、記録が一行増えるな」

リィナが言う。

「“誰も悪くなかった”ってやつ」


仁之はペンを取った。


「違う」

「?」

「悪い判断じゃない。正しい判断の結果だ」


彼は書く。

王都はまだ立っている。

だが、国家は内側から静かに崩れている、と。


首都は、まだ燃えない。

だからこそ、終わりが見えない。


その事実だけが、今日の記録だった。

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