表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凡人戦記― 異世界転生したら崩壊した王国スタート ―  作者: harap1239


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/25

第二十一話 「網の向こう側」

 第三観測線は、地図上ではまだ線だった。だが現場では、もはや“線”として扱える密度を失っている。


 朝、補給が届かなかった。正確には、届くはずの魔力が、途中で消えていた。

 魔力網の節点は生きている。だが、流れてこない。



 第三観測線は、地図上ではまだ線だった。だが現場では、もはや“線”として扱える密度を失っている。


 朝、補給が届かなかった。正確には、届くはずの魔力が、途中で消えていた。魔力網の節点は生きている。だが、流れてこない。

 理由は単純で、王国が魔力を「動かしすぎている」からだ。


「……網が、悲鳴上げてる」


 リィナが低く言った。魔力感知が得意な彼女ですら、流れを追いきれないほど不安定だ。


 魔力網は万能じゃない。元力を通し、命力を補助し、魔力を循環させるための“道”でしかない。

 その道に、過剰な判断と過剰な期待を流し込めば、当然どこかで詰まる。


 昼前、中央からの通達が届いた。


 第三観測線を含む広域で、魔力運用方式を変更する。

 契双を前提とした、短期的な出力引き上げ。


 紙を読んだ瞬間、背中が冷えた。


 契双は、本来、個人が自分に課す生死の契約だ。死の条件を設定し、限界を引き上げる。

 それを、部隊単位で、半ば強制的に運用する。


「……誤用だ」


 思わず声が漏れた。


「でも、勝てるんでしょ」


 リィナが言う。その声に、期待はない。ただ、現実を測ろうとしている。


「短期的にはな。数字は上がる」


「じゃあ」


「その分、壊れる」


 契双は、失敗したら即死する類の力じゃない。だが、条件設定を誤れば、命力の回復が追いつかなくなる。

 戦場では“戦えなくなる”という形で死ぬ。


 午後、実験的な運用が始まった。


 確かに、強い。

 一斉に放たれた魔力は、敵陣を押し返し、前線は久々に前へ進んだ。


 勝っている。

 少なくとも、地図の上では。


 だが、記録を取る俺には見えてしまう。魔力流量の落差、命力の消耗速度、元力の歪み。

 全部、許容範囲を超えている。


「仁之」


 リィナが、少し息を荒くして戻ってきた。


「前、あんたが言ってたでしょ。正解が積み重なると壊れるって」


「ああ」


「今、それ?」


「今、それだ」


 夕方、前線が持ちこたえられなくなった。

 敵の反撃が強まったわけじゃない。こちらが、動けなくなった。


 強化が切れ、回復が遅れ、判断が一拍ずつ遅れる。

 魔法は遅れ、強化は途切れ、連携は紙一枚分、噛み合わない。


 それでも王国は、後退命令を出さなかった。

 勝っているからだ。数字上は。


 夜、俺は記録を書きながら、初めて迷った。

 このまま正確に書けば、明日も同じ判断が繰り返される。


「……ねえ」


 リィナが、珍しく言葉を選びながら言った。


「逃げるって、ありだと思う?」


 初めてだった。選択肢としての逃走を、彼女が口にしたのは。


「個人としては、ありだ」


「部隊としては?」


「……切り捨てられる」


 彼女は、黙って頷いた。


「じゃあさ」


 少し間を置いて、彼女は続けた。


「あなたは、残る?」


「残る」


 即答だった。


「理由は?」


「俺が降りたら、ここはもっと雑に壊れる」


 英雄みたいな理由じゃない。ただ、嫌な未来が見えているだけだ。


 彼女は、少しだけ笑った。


「ほんと、最悪な理由」


「褒め言葉として受け取る」


 外では、勝利を告げる鐘が鳴っている。

 前線は押し返した。戦果は上々だ。


 だが俺は、紙にこう書いた。


 ――本日の勝利は、命力消耗を前借りした結果である。

 ――契双運用、短期的有効。中期的破綻確実。

 ――魔力網、限界近し。


 これを読んだ誰かが、どう判断するかは分からない。

 それでも、書かないという選択肢は、もうない。


 第三観測線は、まだ崩れていない。

 だが王国は、勝ちながら死に始めている。


 俺は英雄にならない。

 王国も救わない。


 ただ、この壊れ方だけは、嘘なく残す。

 最悪を、ほんの少しだけ、遅らせるために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ