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凡人戦記― 異世界転生したら崩壊した王国スタート ―  作者: harap1239


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第二十話 「読み違え」

第三観測線は、まだ崩れていない。だが、崩れ方は変わった。


 耐えているのではない。削られ、調整され、偶然残っているだけだ。



 第三観測線は、まだ崩れていない。だが、崩れ方は変わった。


 耐えているのではない。削られ、調整され、偶然残っているだけだ。

 それでも地図の上では、線は線として存在している。その事実が、王国の判断を一段階押し上げていた。


 朝、詰所に入った瞬間に違和感を覚えた。机の配置が変わり、地図が増え、記録の束が整理されている。

 その中心に、俺の文字だけがまとめられていた。


 参照されている。

 それも、かなりの頻度で。


「第三観測線の記録は、今後こちらで再編する」


 中枢から派遣された将校は、淡々とそう言った。前線の人間特有の、焦りや疲労が声にない。


「再編、とは」


「判断に使いやすくするだけだ」


 机の上の地図を見て、嫌な予感が確信に変わった。赤線と青線の間に、黄色い印がいくつも増えている。


「この印は?」


「持たせる地点だ。攻める必要はない。崩れなければいい」


 言葉自体は理解できる。だが、位置がおかしい。


「ここは魔力流量が足りません。記録にも——」


「局地的には余裕があると書いてある」


「全体としては落ちています。波があります」


「全体判断はこちらで行う」


 そこで会話は終わった。

 遮られたというより、切り離された感覚だった。


 昼過ぎ、そのズレは即座に形になった。


 命令は迅速だった。魔力供給も間に合い、強化も届いた。

 それでも、持たせるはずの地点で人が足りなかった。


 削りすぎていた。


 前線が耐えた時間は、俺の想定より短い。撤退命令が出た時点で、戻れない位置にいる部隊があった。


「……仁之!」


 リィナの声が、戦場の騒音に混じる。

 七人。取り残された数だ。


 生死は確認できない。だが、戻ってこない。


 戦闘後、将校は地図を見ながら言った。


「想定より消耗が大きい」


「想定が違います」


「君の記録では、持つはずだった」


 その一言で、はっきりした。


 俺の記録は、補助ではなく前提として扱われている。

 だが、その前提を成立させる条件が、現場から削られている。


 夜、詰所の外でリィナが言った。


「今日の判断、あなたのせいじゃない」


「俺の書き方が、甘かった」


「違う」


 彼女は即座に否定した。


「読む側が、考えるのをやめた」


 否定できなかった。正しい記録は、正しく読む力を要求する。

 王国はもう、その余力を失い始めている。


「このままだとさ」


 リィナが続ける。


「あなたの記録、便利な正解になるよ」


「……それが一番危ない」


 曖昧さを残せば、都合よく切られる。

 余白を与えれば、そこに希望を書き足される。


「どうするの」


「書き方を変える」


「変えるって?」


「判断を、突きつける形にする」


 逃げ道のある文章をやめる。

 選ばせるための記録にする。


 第三観測線は、まだ崩れていない。だが、崩れ方は確実に変わった。

 王国は間違っていない。ただ、読む力が足りていない。


 それでも俺は書く。

 使われると分かっていても、次に削られる場所が見えてしまっても。


 ここから先は、正解が積み重なって、壊れていく段階だ。

 その過程を、俺は一行ずつ残していく。

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