表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凡人戦記― 異世界転生したら崩壊した王国スタート ―  作者: harap1239


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/25

第十八話 「壊れる速度」


 第三観測線が、観測線として機能していた時間は、もう終わっていた。



 第三観測線が、観測線として機能していた時間は、もう終わっていた。


 前線は押し返されてはいない。ただ、削られている。音もなく、確実に、判断の余地を一つずつ奪われていく。魔法の発動が遅れ、命力強化の維持が不安定になり、連携は回数を重ねるごとに荒れていった。


 敗北の兆候は、派手には現れない。まず「迷い」として出る。


「……次、どっちだ?」


 誰かがそう呟いた瞬間、もう遅れている。


 俺は後方から全体を見ていた。いや、見えてしまっていた。魔力の流れが、地形と噛み合っていない。魔力網は生き物みたいに揺れていて、修復より消耗の方が早い。


 数字にすれば単純だ。

 魔力総流量、前日比マイナス二八パーセント。

 供給源は生きているが、流れが死に始めている。


「仁之!」


 リィナが叫んだ。声が少しだけ掠れている。


「右、もう持たない!」


「分かってる」


 俺は地図を見た。紙の上では、まだ線は保たれている。でも現実は違う。線は、引かれているだけじゃ意味がない。人が立てなくなった瞬間、そこはもう空白だ。


「一段、下げる。右は捨てろ」


「……それ、命令?」


「提案だ。聞くかは任せる」


 一瞬の沈黙。だが、リィナは迷わなかった。


「聞く。下がる!」


 その判断で、数人は生き延びた。だが同時に、第三観測線は“前線”になった。


 撤退路が細る。補給が止まる。魔力網の再構築が追いつかない。


 壊れる速度が、加速する。


 その最中、王国本陣から伝令が来た。顔色が悪い。声も落ち着いていない。


「第三観測線の記録を……即時提出しろと」


 俺は一瞬、言葉を失った。


「即時?」


「はい。戦況判断に使うそうです」


 使う。

 捨て駒の記録を、ようやく。


 皮肉だと思うより先に、理解してしまった。王国は、もう賭けに出ている。正確な情報を欲しがる段階は、とっくに過ぎている。ただ、「どこまで壊せばいいか」を測っているだけだ。


 俺は紙をまとめ、渡した。


 渡した瞬間、立場が変わったのを感じた。

 守られる側から、使われる側へ。

 だが同時に、無視されない位置に来た。


「……なあ、仁之」


 夜、短い休止の合間に、リィナが隣に座った。鎧を外す余裕はない。ただ、背中を壁に預ける。


「私さ、正直、よく分かってない」


「何が」


「魔力のことも、この戦争の終わり方も」


 彼女はそう言って、少しだけ笑った。


「でもさ。あなたが“これはもう駄目だ”って顔するときと、“まだ崩れきってない”って顔するときの違いは、分かるようになった」


 胸の奥が、わずかに痛んだ。


「今は?」


「……まだ、後者」


 俺は息を吐いた。


「なら、立て直しじゃない。遅延だ」


「遅延?」


「終わりを、少し後ろにずらすだけの作業」


「それ、意味ある?」


 俺は答えた。


「ある。生き残るやつが、変わる」


 彼女はその言葉を、ゆっくり噛みしめた。


 遠くで爆音が鳴る。第三観測線のさらに前が、完全に潰れた合図だ。


 戦争は、次の段階に入った。


 もう、防ぐ話じゃない。

 どこで、誰を、どう残すかの話だ。


 そして俺は、その中心に立たされ始めている。


 記録係として。

 判断の補助として。

 壊れる速度を、測る人間として。


 凡人が、最前線に立つ理由なんて、それで十分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ