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凡人戦記― 異世界転生したら崩壊した王国スタート ―  作者: harap1239


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第十四話 「理解されない戦争」


 城に戻っても、安心できる空気はなかった。門は閉じられ、負傷兵が運び込まれ、廊下には消毒と血の匂いが混じっている。誰も声を張り上げない。張り上げる元気が、もう残っていない。



 城に戻っても、安心できる空気はなかった。門は閉じられ、負傷兵が運び込まれ、廊下には消毒と血の匂いが混じっている。誰も声を張り上げない。張り上げる元気が、もう残っていない。


 俺は第三観測線の記録を整理しながら、違和感を反芻していた。敵の動きが、どうにも噛み合わない。いや、噛み合いすぎていると言った方が正しい。


 強くない。圧倒的でもない。だが、無駄がない。


 魔力を使わない前提で編成された部隊は、王国軍の「当然」をことごとく裏切ってくる。魔法が来る距離に踏み込まない。強化が切れる瞬間を待つ。連携が乱れたところだけを、正確に削る。


 勝とうとしていない。壊そうとしている。


「ねえ、仁之」


 リィナが、記録用の紙束を覗き込みながら言った。


「これ、敵の行動……偶然じゃないよね」


「偶然なら、もっと派手に失敗してる」


 俺はそう答えた。敵は失敗しない。少なくとも、俺たちが期待する種類の失敗をしない。


「王国軍の魔力網、回復する前提で動いてる。でも敵は、回復しない前提で動いてる」


「……つまり?」


「時間を味方につけてる」


 それに気づいた瞬間、背中に冷たいものが走った。王国は持久戦に弱い。魔力網を維持するための資源も、人も、すでに削られている。一方で敵は、最初から“枯れた状態”で戦っている。


 その差は、時間が経つほど広がる。


 その日の夕方、会議室に呼び出された。観測役として、という名目だが、実際は情報の穴埋め要員だ。上にいる人間ほど、現場の実感を失っている。


「敵は魔力を封じる術を持っているのか?」


 高官の一人がそう言った。


「いいえ」


 俺は首を振った。


「封じていません。使わないだけです」


 空気が一瞬、止まった。


「使わない、とは?」


「魔力は便利です。でも依存すると、流れが乱れた瞬間に判断が止まる。敵はそれを理解している。だから、こちらの魔力が“足りなくなる瞬間”だけを狙って動く」


 誰かが舌打ちをした。


「つまり、我々の戦い方そのものが読まれていると?」


「読まれている、というより……前提にされてます」


 会議は、結論の出ないまま終わった。戦術を変えるには時間が足りない。変えなければ、確実に削られる。分かっていても、止まれない。


 夜、城壁の上で、俺とリィナは並んで立っていた。遠くに、敵陣の灯りが見える。整然としている。無駄な動きがない。


「ねえ」


 リィナが小さく言った。


「この戦争、敵は何を欲しがってると思う?」


 少し考えてから、俺は答えた。


「土地でも、資源でもない」


「じゃあ何?」


「俺たちの“やり方”だ」


 彼女は眉をひそめた。


「どういうこと?」


「魔力に依存した王国を、魔力なしでも戦える形に“作り変える”気なんだと思う。抵抗できないくらい、削りながら」


 言葉にすると、余計に残酷だった。殺し尽くす必要はない。生かしたまま、別の形に歪めればいい。


「……それって」


「教育だよ。最悪の形の」


 沈黙が落ちる。風が城壁を撫で、遠くで鐘が鳴る。その音は、もう合図に聞こえない。ただの確認だ。まだ壊れていない、というだけの。


 その時、伝令が走ってきた。


「前線、再接触! 敵部隊、想定より早い!」


 リィナが息を呑む。


「また……?」


「違う」


 俺は、記録を抱え直した。


「今回は、試されてる」


 敵は、こちらが何を学んだかを見に来ている。王国が変われるか、それとも変われないまま壊れるか。その確認だ。


 城の中で、兵が動き出す。だがその動きは、まだ昨日と同じだ。魔力網の回復を待ち、強化を前提に配置を組む。


 間に合わない。


 それを分かっているのに、止められない。


 俺は紙に書きながら、はっきりと理解していた。


 この戦争は、もう始まっている。

 だが本当の意味での戦争は、これからだ。


 そして次に来るのは、戦闘じゃない。

 選択だ。


 間違えれば、王国は負ける。

 正しく選んでも、救われるとは限らない。


 それでも、選ばなきゃならない。


 俺は、そういう段階に来ていることを、誰よりも先に理解してしまっただけだった。

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