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凡人戦記― 異世界転生したら崩壊した王国スタート ―  作者: harap1239


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第十三話 「戦争として崩れる順番」

 戦争というものは、始まった瞬間にすべてが混乱すると思っていた。だが実際は逆だった。少し前理解した通り、混乱はすでに終わっていて、あとは決まった順番で壊れていくだけだった。



 戦争というものは、始まった瞬間にすべてが混乱すると思っていた。だが実際は逆だった。少し前理解した通り、混乱はすでに終わっていて、あとは決まった順番で壊れていくだけだった。


 城壁が落ちるより先に、指揮系統が死に、指揮が死ぬより先に、判断が鈍り、判断が鈍るより先に、

人が自分の立ち位置を見失う。


 俺は第三観測線に戻されていた。だが、そこはもう観測線と呼べる場所じゃなかった。前線が後退し、後方が前線になり、役割の境界が溶けて、全員が半端な位置に立たされている。


 地面には、前日の戦闘で焼け焦げた跡が残っている。黒く固まった土は、魔力が無理に流された証拠だ。流量が足りないところに、無理やり力を通せば、地面だろうが人間だろうが、同じように壊れる。


「……魔力網、完全に戻ってない」


 リィナが低い声で言った。彼女は前に出る役割じゃない。それでも、俺の隣にいる。逃げなかった、

という事実を、彼女自身が手放していない。


「戻らないだろうな」


 俺は紙をめくりながら答えた。


「敵は壊したんじゃなく、書き換えた。応急処置でどうにかなる構造じゃない」


 王国軍は再編を試みていた。部隊を小分けにし、魔力に頼らない剣主体の戦闘へ切り替える。

だがそれは、魔力を前提に組まれた兵たちにとって、自分の半分を捨てて戦えと言われているようなものだった。


 前線から運ばれてくる報告は、どれも似ている。


 魔法が遅れ、強化は途切れ、連携は噛み合わず、判断が一瞬遅れたところを突かれて、崩れる。誰かが死んだ、ではなく、誰かが抜け落ちた、という感覚に近い。


「……ねえ、仁之」


 リィナが、珍しく俺の名前を呼んだ。


「この戦争、勝てると思う?」


 即答はできなかった。できなかったから、正直に答えた。


「勝つ、って言葉の定義次第だ」


「どういう意味?」


「国が残るかどうかなら、五分以下だ。人がどれだけ生き残るかなら、もっと低い。英雄譚として語れるかどうかなら……ほぼゼロだ」


 彼女は何も言わなかった。ただ、視線を前に向けたまま、拳を握りしめている。


 その時、前方で叫び声が上がった。


「敵、来るぞ!」


 魔獣じゃない。人間の部隊だ。装備は簡素で、魔力反応も薄い。だが動きが揃っている。魔力を使わない前提で、最初から組まれた軍だ。


 王国軍が迎え撃つ。剣が交わり、盾がぶつかり合う。魔法は控えめに、最低限だけ使われる。それでも、戦況は一方的だった。


 理由は単純だ。王国軍は、魔力がある前提で“考える癖”が染みついている。敵は、最初からそれを捨てている。


 前線が押し返される。後退命令が出る。だが、その命令が届く前に、別の部隊が孤立する。


 俺は見て、書いた。


 誰が、どの判断をしたか。

 その判断が、何を前提にしていたか。

 そして、その前提が、どこで崩れていたか。


「……仁之、あれ」


 リィナが指差した先で、一人の騎士が立ち尽くしていた。若い。剣を握ったまま、動けないでいる。魔力強化が発動しない。発動しない前提で戦う訓練を、彼は受けていない。


 敵兵が迫る。


 誰も助けに行けない。行けば、自分の列が崩れる。


 騎士は、最後まで剣を振り上げることはなかった。


 その場で、戦線は切れた。


 撤退が決まる。だが撤退は、逃走とは違う。秩序がなければ、ただの散開だ。


 城へ戻る途中、俺は記録を抱えたまま、立ち止まった。


 この戦争は、派手な破壊で語られることはない。だが確実に、人の選択を削っていく。選べる未来を、静かに奪っていく。


「……俺さ」


 不意に、リィナが言った。


「前の世界で、何も成し遂げられなかったって言ってたよね」


「ああ」


「でも今は、違う」


 彼女は俺を見なかった。ただ、前を向いたまま続ける。


「誰かが死ぬ理由を、ちゃんと残してる。それって……逃げてないと思う」


 胸の奥が、少しだけ痛んだ。


 英雄じゃない。戦えもしない。

 それでも、崩れていく順番を知っている。


 それが、この戦争での俺の立ち位置だった。


 そしてこの先、もっと多くが壊れる。国も、人も、きっと彼女自身も。


 それでも俺は、書くのをやめない。

 やめた瞬間、この戦争はただの数字になる。


 それだけは、許せなかった。

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