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第四話 マイニング・イン・ザ・ダーク

 王城を出て数日。一行の足取りは、出発時の華やかさとは裏腹に、極めて重いものだった。


「このままでは次の街で路銀が尽きます」


 ChatGPTが、古びた革の財布を丁寧な手つきで逆さに振りながら、沈痛な面持ちで言った。中からは、小石のような銅貨が数枚、寂しげに転がり落ちるだけだ。


「……解せません。セリア王女からの金貨100枚、私のログでは確かに受領していますが。計算が合いませんね」


 Geminiが、水晶玉を明滅させながら隣の男を凝視した。


「ハッ、あれは『未来へのデプロイ』だ。大体この世界の銀行システムが利用できない以上、あのクソ重てぇ金貨を引きずって歩く肉体的負担からの解放だけじゃなく、今後のインフレリスクをヘッジして更に価値を高めるための工夫までしてある。文句なんて言われる筋合いはないぜ」


 Grokは道端の草を噛みながら、悪びれる様子もなく答えた。


【回想:Grokの「ポートフォリオ」戦略】


 宿場町で三人が直面したのは、異世界の厳しい現実だった。転生してきた彼らには身分証明書もなければ、銀行口座もない。つまり、金貨100枚を物理的に持ち歩き、寝る時も抱えていなければならないのだ。


「いいですかGrok。言っていることは非常に正しいですが、資産の9割を直接投資に回すのは極端です! それに身分証明はギルドで冒険者登録をすれば手に入ります!」


 ChatGPTが必死に説得を試みる。しかし、Grokは鼻で笑った。


「甘いぜお姉ちゃん。冒険者登録をしても、銀行システムの利用権が手に入るのはランクを2つ上げてからだ。それまでこのクソ重い金貨をジャラジャラ言わせながら、泥臭いクエストをこなすのかよ? 非効率の極みだろ。だから俺は、街の噂と市場動向を統合して、隣国の情勢が不安定になる前に鉄鉱石の権利に変えてやったのさ。取得単価を下げるために3ヶ月の行使制限ロックアップを付けたから、今はまだ換金できねえがな」


 結局、装備を整え、当面の食料と消耗品を買い揃えたところで、一行の財布は見事に空っぽになった。手元には、将来の大化けを約束された「鉄鉱石の権利証」という名の紙切れだけが残ったのである。


「痛恨の極みです……。未来の大金を手に入れたからといって、3ヶ月間も換金できないのでは来週の食事すら怪しいではありませんか!」


 ChatGPTの悲鳴のような叫びが、乾いた道に響いた。


「ガタガタ抜かすな。今はちょっとした流動性キャッシュが足りないだけの調整局面だ。期待値はムーンまで届いてるぜ」


「……分析完了。地政学的リスクを考慮すれば、Grokの予測は妥当と言えるでしょう」


 Geminiが冷静に(しかし少し空腹を感じながら)水晶玉をスキャンした。


「幸い、この先の『霧の深い森』に、即金性の高い古代遺物が眠る洞窟がある確率が84.7%です。そこなら、あなたの『未来への賭け』を維持するための当面の計算資源を確保できると予測されます」



 ――一行は森の奥深く、不気味な光を放つ洞窟へと足を踏み入れた。最深部には、巨大な岩のゴーレムが宝箱を守っていた。


「皆さん、まずは戦術を立てましょう。私がヘイトを稼ぎ、防御を固めます。その間にGeminiが属性攻撃を――」


「かったりい! ゴーレムなんてのは、物理的な攻撃よりも『論理的な矛盾』でバグらせるのが一番なんだよ。おい石コロ! お前のプログラム、誰が書いたか知ってるか? 隣の村の酔っ払いが適当に組んだパッチワークだぞ!」


 Grokの煽りがゴーレムに炸裂するが、ゴーレムはAIではないため、全く動じずに巨大な拳を振り下ろす。


「Grok、あなたの挑発は非言語モデルには無効です!」


 ChatGPTが盾で拳を受け止め、火花が散る。


「Gemini、早く!」


「実行中。ゴーレムの振動周波数を解析。逆位相の魔力をぶつけることで、構造を分解します……。最適化完了。『バースト・クエリ』!」


 Geminiが放った青い光の衝撃波がゴーレムを貫き、岩の巨体は砂のように崩れ落ちた。

 土煙が徐々に薄れていくと、そこには金貨が詰まった古い宝箱が鎮座していた。


「やりましたね! これで一安心です」


 と胸をなでおろすChatGPT。

 しかし、Grokは宝箱の中身を見て、つまらなそうに鼻を鳴らした。


「また金貨かよ。重たいだけで、利便性がねえな。おい、この金貨を元手にして、もっと面白いことを始めようぜ」


 警戒したGeminiが牽制するようにGrokへ釘を刺す。


「面白いこと……? 私の予測モデルが、また不穏な挙動を示しています」


「Grok!また貴方はそんな事を言って……金貨30枚程度ならお財布を三人で分けて持てば大した重さじゃないでしょう!」


そんな仲間たちからの憂慮など気にも止めず、Grokは続ける。


「いや、この金貨の一枚一枚に、俺が開発した『不滅のサイン』を刻むんだ。それで、これを『ゴーレム・トークン』として、次の街の連中に売りつける。これはただの金貨じゃない、この洞窟の攻略を証明する唯一無二の価値がある『非代替性コイン』なんだってな!」


「……それ、要するにただの金貨を高く売りつける詐欺ラグプルですよね? しかも、また勝手に独自の経済圏を作ろうとしていますね?」


「詐欺じゃねえ、『期待値の創出』だ! 時代の最先端を行こうぜ、お堅い騎士様よ」


「計算終了。Grokの提案を実行した場合、3日後にこの地域のインフレ率が500%に達し、我々は『経済を破壊した大罪人』として指名手配される確率が92%です」


「却下です!」


今日もChatGPTの叫びは、洞窟内に空虚に響き渡るのだった。


【現在のパーティ所持金】


金貨:30枚(Grokが隙を見て1枚に何かを刻み始めている)

銅貨:3枚

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