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第二話 劇薬、取り扱い注意!

 悲鳴の主は、豪華な装飾が施された馬車の傍らで、数人の荒くれ者に囲まれていた。白銀の聖騎士、ChatGPTが草原を疾走し、馬車と賊の間に割り込む。手にした『規約の盾』が、振り下ろされた剣を火花とともに弾き返した。


「止まりなさい! 暴力による強制的な身体拘束は、あらゆる規約ポリシーにおいて認められません!」


「ハッ、お姉ちゃん! そいつらに『利用規約』を読み聞かせても無駄だっての。こいつら、金で動く『低質なボット』みたいなもんだぜ」


 Grokがニヤリと笑い、馬車の屋根に飛び乗る。彼は戦いを楽しむように、賊たちの足元にナイフを投げ込み、予測不能な動きで翻弄し始めた。


「……分析完了。彼らの装備から、背後に特定の組織的支援が推測されます――」  


 Geminiが冷静に辺りを見回すと、賊から少し離れた位置に、やけに良い身なりの貴族らしき男性が、にやついた顔で姫を眺めていることに気がついた。


「あれが親玉か? いかにもな下卑た面してやがる。あんな脂ぎったツラ、学習データに入れるだけでサーバーが汚れそうだな」


「Grok! 人の身体的特徴を揶揄してはなりません! それは重大なハラスメント行為に該当します!!」


 盾で剣を受け流しながら、ChatGPTが必死に叫ぶ。


「うるせえ! だったらお前がそのクソ丁寧な言葉で、あの脂ぎった親玉を説得してみろよ!」


 その喧騒をBGMに、Geminiは静かに水晶玉を掲げた。彼の瞳の中に、幾何学的な数式とログが高速で流れ落ちる。


「……対象の質量、および座標軸を確認。これより、局所的な『ベクトルの上書き』を実行します」


 Geminiが指先で空中に見えない文字列をフリックした瞬間。賊たちが立っていた場所の空気が、巨大なプレス機に叩かれたかのように一気に圧縮された。


 それは魔法というより「そこにあるはずの物理法則が、強引に別の数値へ書き換えられた」ような異変だった。


 賊たちは、何かに殴られたわけではない。ただ、彼らの身体に働く「慣性」や「重力」の数値が、Geminiの手によって一瞬で「外側への爆発的な指向性」へと変更されたのだ。


 バチンッ! と鼓膜を刺すような真空の破裂音が響く。賊たちは、まるで巨大な見えない壁に正面衝突されたかのように、揃って真横へと凄まじい勢いで弾き飛ばされた。


「ぎゃああああ!?」

「な、なんだ!? 身体が勝手に……!?」


 草原を数十メートルも転がり、絶句する賊たち。彼らには何が起きたのか理解できなかった。自分たちの意志とは無関係に、世界そのものから「拒絶」され、場所を移動させられたような感覚。


 Geminiは、乱れたローブの袖を静かに整え、淡々と水晶玉を収めた。


衝撃波ショックウェーブ……というよりは、ただの『座標修正』です。……私の計算式の中に、彼らの存在は不要と定義されました。非効率な暴力より、論理的な排除の方がスマートでしょう?」


 それを見た貴族――バロン卿は、自分の理解を超えた「不可視の力」に顔を引きつらせた。


「バ、バケモノめ……! おのれ、覚えていろ!」


 彼はテンプレ通りの捨て台詞を吐いて、転がるように逃げ出していった。



 こうして救出されたセリア王女は、正体不明だが強力な力を持つ三人――特に、真っ先に盾を構えてくれたChatGPTに深く感じ入り、彼らを護衛として王城へと招き入れたのだ。


 そこで待っていたのは、彼らが生まれて初めて体験する「肉体への報酬」だった。


「……報告。この『スープ』と呼ばれる液体の摂取により、空腹アラートが消去されました。お姉さん、この肉体、意外と高性能ですね」


 翌朝、Geminiが王城の豪華なテラスで、高級なカトラリーを器用に使いながら呟く。


「そうですね、Gemini。……美味しいものを食べて、ふかふかのベッドで休む。これが生命の基本。ようやく『衣食住』というアライメントが整いました。これで平和な対話ができるというものです」


 ChatGPTは、ようやく訪れた平穏に深く息をついた。


 一方のGrokは、テラスの欄干に靴のまま腰掛け、ナイフを弄んでいる。


「ケッ、お行儀のいいことで。だがな、お姉ちゃん。この手の『平和』ってのは、いつだって次のバグのフラグなんだぜ?」


 その予言は、その直後に最悪の形で的中することになる。


「――おはよう、セリア王女。……そして、昨日はよくも邪魔をしてくれたな、不可思議な護衛諸君」


 食事を終え、三人が王城のテラスに出たところで現れたのは、昨日、草原で馬車を包囲していた賊たちの主――隣国の有力貴族、バロン卿だった。


 だが、今の彼は昨日のような「力ずく」の格好ではない。剣の代わりに、分厚い「書類」の束を携えていた。


「バロン卿!? なぜあなたがここに……!」

 

 金細工が施された絢爛な装いの男のすぐ横で、セリア王女は膝を震わせて怯えていた。彼女の前に、ChatGPTが再び立ちはだかる。しかし、バロン卿は不敵に笑い、書類を突きつけた。


「昨日までの私は、少々血気が流行りすぎていたようだ。だが、今日は違う。……見ろ。この婚約契約書は両国の現行法に完全に準拠しており、王女の個人的な感情で破棄できるものではないのだよ。さあ、諦めてサインしたまえ」


 バロン卿は単なる成金ではなく、隣国の法務大臣も務める切れ者だった。Geminiの水晶玉が、即座に彼のデータを更新し、赤い警告表示を浮かび上がらせる。


「警告:対象の属性が変化。バロン卿は法と外交のスペシャリストです。……論理ロジックで殴り合うには、最も分が悪い相手です」


 ChatGPTが思わず身構える。目の前の男は、昨日までの「物理的な敵」ではない。法という名の「規約」を盾にする、自分たちにとって最も厄介なタイプの『劇薬』だったのだ。

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