くねくねひとりしばい
一人芝居とは、一般的な演劇のように複数人での出演はなく、一人の演者で全ての人物を演じ分けるもの。
霜月透子様主催「ひだまり童話館」「くねくねな話」の参加作品です。
むかしむかし、ある村に長者さまがすんでいました。
その娘は、いつも商人から貝を買っていて、村の人は貝姫さまとよんでいました。
でも、貝姫さまは、貝を食べません。
川に行って、ひとつずつにがしてあげていたのです。
あるとき、村では雨がまったくふらなくなりました。
田んぼは乾いて、稲もかれそうです。
長者さまは田んぼのまえで、竜神さまにおいのりしました。
「どうか、雨をふらせてください……」
そのときです。
どこからか不思議な男があらわれて、こう言いました。
「オレが雨をふらせてやろう。そのかわり、娘をよめにもらうぞ」
長者さまはこまりました。
「一日、かんがえさせてくれ」
男はにやりとわらって、どこかへきえていきました。
その夜、長者さまはねむれませんでした。
いっしょうけんめい、どうすればいいかを考えていたのです。
つぎの朝……
なんと、かわいていた田んぼに、水がいっぱいに、はられているではありませんか!
村の人たちもおどろいて、よろこびました。
そこへ、また男があらわれました。
「さあ、娘を出してもらおうか」
「まってくれ。雨のことはかんしゃする。だが、むすめをやるとは、まだ言っておらんぞ」
「そんなのは関係ない! さあさあ、娘を出せ!」
男のからだが、くねくねと動きはじめました。
すると、なんと大きなへびになったのです!
「お父さま、なにごとですかっ! きゃあっ!」
かけつけた貝姫さまも、おどろきました。
へびは貝姫に言いました。
「そなたの村の田んぼに水をあげたのはオレだ。そのおれいに、いっしょにきてもらうぞ」
「そんなやくそく、していません!」
長者さまは手をひろげて、貝姫さまをまもります。
「お父さま……わたし……」
貝姫さまが考えていると――
パラパラパラ……
田んぼから、小さな石のようなものがとびだしてきました。
それはなんと、たくさんの貝だったのです!
何百もの貝が、へびのからだにとびつきました。
「うわっ! やめろ、なにをする! オレは竜神のつかいだぞ!」
へびのからだは、どんどん小さくなっていきました。
そして、ばたんとたおれたのは、あの男です。
目をまわして動かなくなりました。
そのまんなかに、ひときわ大きな貝がころがってきました。
『かいひめさま。このへびは竜神さまにないしょで、たからの玉をつかって、ひでりをおこしていたのです。竜神さまには、しっかりおこってもらいますので、ごあんしんください。いつもなかまをにがしてくれて、ほんとうにありがとう』
そして、貝たちはたおれた男をかこんで、くるくるころがりながら、山のほうへもどっていきました。
そのあとも、貝姫さまは川に貝をにがすことをつづけました。
村の人たちも、貝を食べるのをやめて、かわりに貝の形のおかしを楽しむようになったそうな。
* * *
僕は朗読を終えた。くねくねと手をうごかして、ひとりしばいになっていた。
小学生の従妹のふたりがパチパチと手をたたく。
安アパートでひとりぐらしをしている僕の部屋に、暦ちゃんとその姉の胡桃ちゃんが遊びに来ている。
僕は自分で考えた絵本の案を読んだところだ。
「偉文くん。貝姫って佐賀県の佐用姫?」
暦ちゃんが僕にきいた。佐用姫を知っているんだね。
「同じ佐賀県の昔ばなしだけど、佐用姫とは違う話。でも。おかしは佐用姫のやつがモデルだね」
この貝姫のお話は九州の佐賀県に伝わる昔ばなしだ。
佐賀県には他に佐用姫という人の伝説もある。佐用姫のだんなさんが戦争に行って帰ってこなかった、という悲しいお話。
後で佐用姫のお話をもとに、貝のおかしが作られたんだ。
その時、暦ちゃんの姉の胡桃ちゃんが口を開いた。
「ねぇねぇ、偉文くん。貝のおかしってマドレーヌ?」
そういえばマドレーヌも貝の形をしているな。
「いや、『らくがん』っていう、米や麦の粉を使ったおかしだよ。こういう感じ」
僕はふたりに駄菓子屋で買ってきた『らくがん』を出した。
ふたりは手にとって口にいれた。
暦ちゃんは、おかしをポリポリ食べながら、僕の方を見てニコッとわらった。
この顔はまた何かへんなことを言おうとしているのか?
「貝のなかまとかけまして、ウインクと解きます」
いきなりなぞかけ? 何だろう?
ウインクは何かの合図かな。アサリ……シジミ……ホタテ……ハマグリ……サザエ……。わからん。
「その心は?」
「カタツムリなんだよ」
なるほど、かためをとじてカタツムリか。