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8 難航

『私も同行しよう……』

 アニュアス様と森の中、どこかへ向かっている。


『私は好かれて無いようだ……』

 離れに来たロロに、アニュアス様が手を伸ばしている。


 ズキン……

「痛っ!」


 最近夢を見ると頭痛が起きる。

 でも、目覚めて直ぐに痛みは消える。

 珍しく夢の内容を覚えていた。

 アニュアス様と過ごす、辺境での日常……って王子の送る日常ではない。


「お目覚めでしたか。」


 起こしに来てくれたサリーが、カーテンを開けてくれる。

 部屋に日差しが入って、ぱっと室内が明るくなる。

 窓辺では小鳥達が(さえ)ずり、すぐ近くに見える木の枝には、一羽の白い梟が止まっている。

 庭園の花には蝶や蜜蜂が飛び交い始めていた。


 外の穏やかな景色を眺めながら、サリーの淹れてくれたハーブティーを飲むと、疲れが取れて、また新しい朝を迎えられる気がする。


「お嬢様、つかぬことを伺いますが、アニュアス様は、いつまで滞在されるのですか?領地に来て既に、一箇月ほど滞在されておりますが、いい加減、お帰りにならないのでしょうか。」


 サリーに現実を突き付けられて、唸りそうになる。

 アニュアス様に使われたと思われる『存在消し』の効果が、一箇月を過ぎても、まだ継続している。

 つまり、五滴以上使われた可能性が高い。

 このままでは数年、または、それ以上、効果が続くかもしれない。


「アニュアス様には事情があると言ったでしょう?それが解決するまで、領地の滞在は、仕方がないの。本人も好きで滞在している訳ではないのよ。」


 私の身支度を手伝うサリーの手が、一瞬止まった気がした。


「そうでしょうか。私には滞在を利用して、お嬢様を口説いているようにしか見えません。」


 サリーは大いに誤解している。


「多分、アニュアス様の距離感がおかしいから、そう見えるだけで、実際は、唯一事情を知っている私を頼っているだけよ。」


 何も力になれていないけれど、と思いつつ溜め息が出てしまう。


 今まで、作業場で調薬をしながら、薬の魔女から受け継いだ、薬草辞典や秘薬のレシピを読み漁って、毎日少しずつ『存在消し』を無効化できる方法がないか調べていた。

 でも、今のところ、何も分からない。


「う~ん、この中にも手がかりは無いか。」


 今日も作業場に籠って、調べ終わった山積みの本を眺めては、途方にくれる。

 成果もなく、本を片付けるだけの時間が、地味に精神力を削る。

 効果が切れない限り、アニュアス様は宮殿に戻れない。

 最悪、一生領地生活になってしまう。


 『存在消し』を無効化出来れば、瞬時に全ての人が、アニュアス様を思い出す。

 だから、ずっと無効化に(こだわ)っていた。


 でも、国王陛下だけでもアニュアス様を息子だと認識できれば、アニュアス様は王家の一員として、宮殿に戻れる筈。


 その為には、先ず私がアニュアス様を第二王子だと思い出して、その方法を国王陛下に伝える。

 思い出す方が『存在消し』を無効化するより、出来る気がする。


「今まで作った秘薬で、何とかなるかもしれない。」


 薬棚を眺めて目についたのは『思い出しの薬』

 忘れている事を、思い出せる効果がある。


「アニュアス様、私に記憶力テストをして頂けませんか?」

「記憶力テスト?」


 離れの二階で昼食を取った後、人払いをしてから、アニュアス様に『思い出しの薬』が入った小瓶を見せて、何がしたいかを説明する。


 最初は薬を使わずに、アニュアス様が覚えていて、私が忘れていそうな質問をして貰う。

 質問の内容は、アニュアス様とは関係のない事柄にしてもらう。

 その後『思い出しの薬』を使って、先ほど答えられなかった質問に答えられるかを検証する。


『思い出しの薬』が有効と判断出来れば、アニュアス様と私が関わっていた出来事について質問をして貰い、思い出せるか検証する。


「こんな流れで調べたいのです。」

「なるほど、了解した。では、早速始めようか。」


 アニュアス様は少し考えて、質問を始めた。


「王家の馬車に描かれている紋章は何処にある?去年の四月に行われた王家主催の夜会で、国王と王妃は何色の衣装を着ていた?参加者全員に配られた飲み物は何?最初に演奏された曲名は?」


「う~ん、何一つ分かりません。去年のことなんて、よく覚えていますね。」

「フローラが、デビューした夜会だから、覚えていた。」


「デビューの時は緊張していたので、早く終わらないかな、しか覚えていません。」

「フローラらしい。」


 クスリとアニュアス様に、笑われてしまった。


「では、この薬を飲んでみますね。」


 小瓶の蓋を開けて『思い出しの薬』を飲み、先ほどの質問を思い出す。

 自分で作って効果は確認済みだけど、やっぱり驚く。

 信じられない位、頭に次々と映像が浮かんで、全ての質問に答えられた。


「凄い。全て正解だ。」

「これならば、アニュアス様との出来事も、思い出せるかもしれません。」


 秘薬の効果が効いている間に、アニュアス様と私の思い出に関する質問をして貰った。


「私達が初めて会った場所は?初めて森を案内してくれたのは、いつ?私達は何回、交流した?私が今年、フローラに贈ったドレスは何色?」

「……ご免なさい、全然分かりません。」


 アニュアス様に関係のない事ならば、幾らでも思い出せるのに。


「そうか、残念。答えは秘密だ。」

「え!?教えて下さらないのですか?」

「思い出す事が目的なら、答えを知らない方が良いのでは?」

「確かにそう、ですね。」


 でも、気になる!

 ドレスまで贈られていたなんて。

 ドレスがあるとしたら、王都の邸よね。

 でも、今の状況では、きっと見つけられない。


「う~ん、やっぱり何も浮かばない。」


 アニュアス様との事柄は、何一つ思い出せなかった。

 よし。次よ、次!

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