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3 家族

 私に過保護な、お父様とイヴァンお兄様。

 二人がそうなってしまった切っ掛けは、私が十歳の時にまで遡る。


 毎年四月一日は、国王陛下主催の夜会が宮殿で開催され、国内全ての成人貴族に参加義務がある。

 その為、私の両親と十五歳の成人を迎えたブレナンお兄様、そして、お父様の弟にあたる叔父様夫妻も、王都の邸宅に滞在していた。


 当時十歳の私と、叔父様夫妻の息子で、十四歳のイヴァンお従兄(にい)様は、ラース辺境伯領の本邸で留守番をしていた。


 六月半ばを過ぎれば、社交も落ち着く。

 お父様は会議があるけれど、お母様とブレナンお兄様、そして、叔父様夫妻は、先に領地へ戻ると早馬で連絡が来た。


「きっと、お二人に沢山のお土産を買って、お戻りになるでしょうね。」


 侍女のサリーから聞いて、毎年お土産を買って来てくれると知っている私とイヴァンお従兄様は、家族の帰りを心待ちにしていた。


 その日は、午前中晴れていたのに、午後からは雨が降りだして、どんどん雨足は強くなった。


「これでは道がぬかるんで、馬車が進めないでしょう。お戻りが遅くなりそうですね。」


 窓の外を、一緒に眺めていた家令のセバスに言われて、私はイヴァンお従兄様と寝るのを我慢して、夜遅くまで待っていた。


 でも、その日、家族は帰って来なかった。

 翌朝には晴れて、昼になってもまだ、帰って来ない。


「きっと何処かで泊まっているのでしょう。今日中には、お戻りになる筈ですよ。」

「遊んでいたら直ぐだよ。フローラは何がしたい?森へ散歩にでも行く?」

「行く!」


 サリーとイヴァンお従兄様に(なだ)められて、私は二人と手を繋いで、森へ散歩に出掛けた。

 雨が葉っぱを濡らして、太陽の光がキラキラと反射している。

 ポタポタと葉っぱから落ちる雫が、虹色に光っていた。


「綺麗……ねぇ、イヴァンお従兄様。皆にも見せてあげたい。」

「そうだね。皆が帰って来たか、邸に戻ってみよう。」


 森から邸へ戻って来ると、帰るとは聞いていなかったお父様が、邸の前で騎士団の人達と話している姿が見えた。


「お父様!」


 駆け寄ると、お父様はずぶ濡れだった。


「お父様、皆は?」

「ん?ああ、今、邸の中に……」

「お母様、ブレナンお兄様?」


 邸に入ると、四人分の棺があった……。


「盗賊に襲われたらしい。斬殺されて身ぐるみ剥がされたとか。」

「お可哀想に。」


 お父様は事故としか言わなかったけれど、心無い大人の噂話は、私達子供の耳にも入って来た。

 あまりにも突然の出来事に、葬儀中、訳も分からず立ち尽くしている私とイヴァンお従兄様を、お父様は抱き締めて言った。


「私がお前達を守る。絶対に。」


 私とイヴァンお従兄様は、その時、失う怖さを実感して、初めて声を上げて泣いた。

 もう、誰も失いたくない。私達は全員そう思っていたと思う。

 お父様は、両親を亡くしたイヴァンお従兄様を養子に迎えて、私達は三人家族になった。


 お父様は仕事に打ち込みながら、私とイヴァンお義兄(にい)様を可愛がる事で。

 イヴァンお義兄様は、ブレナンお兄様の代わりに、ラース辺境伯家の跡取りとして努力しながら、私を可愛がることで。

 私は、お母様から伝えられた秘薬作りに没頭することで、各々寂しさに蓋をして、心を保っていたように思う。


 そして家族の死から、一箇月も経たない、ある新月の夜。

 領地の邸に盗賊が入った。

 辺境騎士団最強と言われる騎士団長のお父様が、国境の見回りに出掛けた隙を狙った犯行だった。


 私は誘拐されそうになったけれど、幸い、サリーが直ぐに気付いて声をあげ、邸周辺を見回っていた辺境騎士団が、直ぐに退治してくれたお陰で、未遂に終わった。


 事件後、イヴァンお義兄……いえ、イヴァンお兄様は、お父様の代わりに私を守れなかった事を悔やんでいた。

 事件を知ったお父様も、もっと邸の警備をしっかりしていれば……と自分を責めて、何度も謝られてしまった。


「お父様や、イヴァンお兄様のせいじゃない。私が弱いから狙われたの。でも、サリーと騎士団が来てくれたから無事だったよ。私はイヴァンお兄様や、お父様が狙われなくて良かった。」


 私が「もう大丈夫だから」と言っても、お父様とイヴァンお兄様は、余程堪えたようで、その日から、やたらと私に対して過保護になった。

 

 元々お父様の跡取りとして、辺境騎士団の団長を目標にしていたイヴァンお兄様は、日頃から剣術の訓練をしているのに「フローラを守れるよう強くなるから」と、更に体力強化や武術等、訓練に力を注ぐようになった。


 お父様は、領地の邸と王都の邸の警備を見直して、私が滞在する邸は、二十四時間、騎士が巡回するようになり、警備が厳重になった。

 そして、私専属の護衛騎士が付けられた。


 私は調薬に没頭していて、暫く周りが見えていなかったので、サリーに教えて貰うまで知らなかった。

 まさか、お父様が邸の使用人全員に、剣術や武術等の戦闘訓練を義務付けていたとは。


「それは大変だったわね。」


「いえいえ、もう誰も失いたくない気持ちは、皆同じですから、積極的に訓練を受けていましたよ。いざとなれば、家令や侍女、庭師や料理人等、邸に仕える全員でお守り致しますからね。」


 サリーに胸を張られて言われた時は、お父様、やり過ぎでは?と思ってしまった。


 私も守られてばかりではいられないから、いざという時、身を守れるよう、護身用品を携帯して、お父様や、イヴァンお兄様の足を引っ張らないように、対策はしている。


 幸い、今日まで危険な目には遭遇しなかった。

 邸の警備も厳重だったから安心していたのに、アニュアス様は私の部屋に、あっさり不法侵入してしまった。


 私は何もされていないけれど、お父様とイヴァンお兄様はきっと、私を失っていたかもしれないと考えて、警備を見直したり、護衛を増やしたりと、益々過保護になるかもしれない。


 私だって、お父様やイヴァンお兄様の部屋に、不法侵入者が現れたらと思うと、最悪の結末を考えて怖くなってしまう。


 失う怖さが分かるだけに、どう説明すれば、冷静に話を聞いて貰えるのか、悩む。

 お父様が激怒して、王子かもしれないアニュアス様を蔑ろにすれば、結果的に私達家族の首が飛ぶかもしれない。


 私がアニュアス様と、家族の未来を守らなければ!


 ふーっと息を整えて、お父様の部屋をノックした。

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