28 使い魔とアニュアス(アニュアス視点)
アニュアス視点です。
フローラと婚約が成立して、二回目か三回目かの交流で、ラース辺境伯領の森を散策していた時、初めて黒猫のロロに会った。
私は使い魔を使役している影響か、動物には好かれる傾向にある。
だと言うのに、フローラが幼い頃から交流があると言う、このロロは、全く私に懐かない。
フローラは、私が気の毒に思ったらしく、ロロとの交流時間を取れるよう、離れでの昼食に誘ってくれた。
それから私は、ラース辺境伯領へ着くと、本邸ではなく、離れへ直行するようになった。
離れの二階で、ロロを横目に見ながら、フローラと昼食を食べ、その後、フローラと森を散策する。
それが交流の定番となった。
だが、いつまで経っても、ロロは私に近付こうともしない。
私がいると知りながら、無視。いや、敵意すら感じる。
それは『存在消し』の影響で、ラース辺境伯領で過ごすようになった今でも変わらない。
フローラを取られたくないと嫉妬しているのか?
動物も嫉妬するらしいが、それにしても随分と人間的な気が……。
もしかして、ロロは使い魔では?
使い魔は、相手が使い魔であるかが分かり、使い魔同士は、会話も出来るらしい。
私は客室で一人になった時、使い魔で白梟のムーを呼んだ。
ムーという名前の由来は、無表情で、ムッとしているように見えたのと、呼びやすさからだ。
普段、使い魔は自由に過ごしているが、呼べば直ぐにやって来る。
「ムー。フローラの傍にいる黒猫のロロは、使い魔か?」
使い魔は、人の言葉を理解出来るが、話せないらしい。
だから「はい」なら翼を広げ「いいえ」なら無反応と、ジェスチャーを決めている。
ムーは翼を広げた。
やはり、そうか。
長年王家は、魔女様に国へ戻って貰おうと、その方法を模索していた。
そして近年、「使役の魔女」の継承者により、魔女様の使い魔が、我々を見守っていると判明した。
それならばと、継承者の使役する使い魔で、魔女様の使い魔を捕える試みがなされた。
だが、魔女様の使い魔の方が上手らしく、逃げられて、捕獲出来ない。
そこで、使役者の好物に目が無い使い魔の性質を利用して、好物で交渉すると決まった。
現在、王都内で見かける使い魔の使役者が、何の魔女か、好物は何かが調べられている。
魔女様の使い魔はよく王都に現れるらしく、調査は王都中心で行われている。
もし、ラース辺境伯領に使い魔がいるとしたら、使役者は「薬の魔女」の可能性が高い。
何故なら、ラース辺境伯家に縁が深い魔女様は「薬の魔女」だけだからだ。
フローラとの交流を終えて、宮殿へ戻ったその足で書庫へ行き、魔女様が王都にいた時代の書物を読み漁った。
「もしかして、ヴィンテージワインか?」
「薬の魔女」は他の魔女様と違って、ワイングラスを手にしている絵が多く残っていた。
そして、王家で客をもてなす時は、ヴィンテージワインがよく出されていたと記述があった。
それは今も変わらない。
試してみたいが、使い魔を捕まえて魔女様と会う為の交渉に使おうとしている事は、「使役の魔女」の継承者と王家の秘密で、余程の理由がない限り、婚約者のフローラにも話せない。
この事を父上に報告するべきか……。
しかし「使役の魔女」の継承者に知られれば、何かしらの形で「薬の魔女」に悟られて、ロロが逃げる可能性もある。
結婚後、フローラに話して、成果が出たら父上に報告すればいい。
今はまだ動く時ではない。
ムーにも口止めしておこう。
「ムー、私がロロの正体に気付いていると、ロロに教えるなよ。」
ムーは翼を広げて了解してくれた。
「あと、ロロには近付くな。もし出会ったら、仲良くしろよ。」
ムーは目を閉じて首を背けた。
何だ?その反応。今までそんな反応したことが無い。
「ムー?もしや、ロロと何かあったのか?」
ムーが翼を広げる。
使い魔は使役者に嘘をつけない。
「おいおい、私がロロの正体に気付いていると、バレたのでは?」
ムーは無反応か。
「なら、良い。兎に角、私が正体を知っている事は隠し通してくれよ。」
ムーはしっかりと翼を広げてくれた。
フローラと結婚するまで、ロロを静観するつもりでいた。
だが、結婚式当日に、何故か全ての人間に忘れられ、宮殿を追われる羽目になった。
私の為に『存在消し』の無効化方法を探しているフローラが、解決方法に行き詰まりを感じている姿を見ると、魔女様に直接聞けるなら、この際、使い魔との交渉を試しても良いのではないか、と思えてきた。
幸い、ヴィンテージワインは手元にあった。
私を一応、第二王子だと認めてくれた父上と叔父上が、世話になるラース辺境伯家に渡すよう、王家御用達の品々を持たせてくれた為だ。
今は緊急事態と言える。
フローラに話しても良いだろう。
試しにヴィンテージワインでロロを釣ったら、見事に成功した。
そして、ロロと交渉して「薬の魔女」ドリーに会わせて貰えた。
お陰で『存在消し』の無効化方法は分かったが、まさか、皆に忘れられた原因が『存在消し』ではなく『甦り』のせいだったとは。
フローラが全ての記憶を取り戻した事で、私も暗殺された日の出来事を思い出した。
存在も認知され、面倒ごとはあるが、元の生活に戻れるだろう。
離れに戻る前、「薬の魔女」ドリーについて、全てを他言しないと約束する契約を結んだ。
長年、魔女様との直接交流は、王家の悲願だったが、私や国益の為にはやむを得ない。
契約によって、ドリーとの関係が密になり、使い魔のロロとは以前よりも会う機会は増えたものの、相変わらず私に塩対応だった。
それは別に構わないが、私に見せつけるように、フローラに甘える仕草に、若干イラっとする。
いやいや、たかが猫に私が嫉妬?はは、まさか。
私の心はそんなに狭くはない。
そう思っていたのだが……。
まさか、私の知らない所で、ムーがロロに会う度、フローラに近付くなと牽制しまくったり、フローラをストーキングしていたとは。
ロロに文句を言われて、初めて私は自分の内面を知ったのだった。
今回も、つきよみさんに、イメージイラストを描いて頂きました。
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