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「継承者」の辺境伯令嬢が自称第二王子と結婚するまで  作者: アシコシツヨシ


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20 婚約生活

 八月。

 十四歳の私と、十七歳のアニュアス殿下の婚約が成立した。

 正式な婚約発表は、来年四月に行われる王家主催のデビュタント。

 結婚は、それから一年後の五月と決まった。


 それまで妃教育を領地で受けられるよう、教育係が領地の邸に派遣された。

 元々取っていた淑女教育の時間が、妃教育に変わっただけなので、特に生活に変化はなかった。


 私とアニュアス殿下は、領地と宮殿でそれぞれ生活して、用が無い限り会わない。

 私は秘薬の納品で宮殿へ行くけれど、それ以外に用はないので、アニュアス殿下に面会申請はしない。

 だから、来年の四月まで、アニュアス殿下に会うことも無い。


 そう思っていたのに、何故?


 月一回のペースで、アニュアス殿下が領地へ来る。

 しかも、毎回プレゼント持参で。

 プレゼントは、アニュアス殿下の瞳と同じ、空色の小物ばかり。


 我が国で、男性が瞳と同じ色の物を女性にプレゼントする意味は「貴女は私のモノ」となり、女性が身につければ「私は貴方のモノ」となる。

 それくらいは知っているけれど、毎回は多くない?


「プレゼントを貢がれるのは、魅力ある女性の特権だ。幾らでも貰えば良い。」


 お父様はそう言うけれど、私達は恋愛とは無縁の割り切った関係で、十七歳の殿下が十四歳の私に、魅力を感じているとは思えない。


 後で何か要求されても困るので、借りは作りたくない。

 取り敢えず、体力回復効果のある薬草を調合した特別なお茶で、もてなしておく。


「あの、お忙しいのに、わざわざ通って頂かなくても大丈夫ですし、プレゼントを毎回ご用意頂かなくても、お気持ちだけで充分です。」


「これは全て自分の為だよ。領地へ通うのは、婚約したら月一回の交流をする決まりで、婚約者との関係が良好だと周囲にアピールする意味がある。プレゼントは、不仲を噂されて面倒な奴等に付け入る隙を与えない為と、領地へ通っている物的証拠になる。申し訳ないと思うなら、プレゼントを部屋の見える場所に飾ってくれると助かる。」


「分かりました。飾らせて頂きます。」

 

 物的証拠って、わざわざ私の部屋にまで、誰が確認に来るのか。

 もしや、アニュアス殿下と娘を結婚させたい家が、領地にスパイを送り込んで来るとか?

 それはあり得ないと思うけれど、アニュアス殿下は、案外周囲の目を気にしているのね。

 王子って、もっと絶対的な存在だと勝手に思っていた。


 毎回プレゼントされる空色の小物は、どれも素敵で気に入っていた。

 だから、アニュアス殿下に言われなくても、全て部屋に飾ったと思う。

 何せ私の自室は、起きて寝るだけの飾り気のないシンプルな部屋だから。


 自室に飾った空色の小物が、六個ほどになったある日。

 紅茶を淹れていたサリーが言った。


「まあまあ、殿下も大概ですが、殿下色に染まりたいなんて、お嬢様は本当に、殿下がお好きなのですね。」

「んん?待って。どうして私が、殿下色に染まりたがっている。なんて思うの?」

「あら、御存知ないのですか?」


 わが国で、男性が婚約者の女性に小物をプレゼントする意味は「私色に染めたい」となる。

 女性が、プレゼントされた小物を部屋に飾る意味は「貴方色に染まりたい」となり、相思相愛を親族や身近な人にアピールする意味がある。


 プレゼントされた小物が気に入らなかったり、受け取っても飾る気持ちが無ければ、何処かに片付けたり、売り払ってもいい。

 その場合「まだ、そこまでの気持ちには、なれない」の意味となる。


 婚約者の女性や家族に認められたい男性は、小物を部屋に飾って貰えるまで、プレゼントを送り続ける。

 何故なら、プレゼントの多さが男性の想いの強さを表すから。

 そして、部屋に飾る小物の多さで、女性の好き度が分かる。


 家族や親族は、婚約相手や娘の気持ちがどれ程なのかを知り、結婚の延期や婚約破棄を決断する場合もある。


 サリーの説明は初耳だった。


「淑女教育では、相手の色を身に付けることで、周囲に仲の良さをアピールできると教わったけれど。」

「それは、アクセサリーをプレゼントされた場合です。アクセサリーと小物では、アピールの対象が違います。そもそも小物は、身に付けられませんでしょう?」

「確かに、そうね。」


 アクセサリーは、夜会等で身に付けて、不特定多数に相思相愛を見せつけ、牽制する意味がある。

 小物は部屋に飾って、家族や邸にいる身近な人に相思相愛を見せて、安心させる意味がある。ですって!?


 何てこと!家族や邸の者達全員が、サリーのように「殿下がお好きなのですね」なんて気持ちで私を見ていたかと思うと、いたたまれない。


「知らなかったとは言え、私ったら、なんて恥ずかしい事を。」


 思わず顔を両手で覆ってしまう。

 まさか小物を飾るだけで、そんな重い意味になるとは。

 アニュアス様もそれならそうと……って私が小物をプレゼントされる意味を知らないとは、思わなかったのかも。


「その気が無いのでしたら、小物を片付けますか?婚約中は、殿下をお嬢様の部屋に入れませんから、確認される心配もございませんよ。」


 サリーが、片付けられるよう、小箱を持ってきてくれる。

 近くにある空色の硝子ペンを手に取った。

 アニュアス殿下の美しい空色の瞳を思い出す。


 アニュアス殿下がこの結果を想定していないなんて、あり得ない。

 知らなかったとはいえ、協力してもいいと思ったから、小物を部屋に飾った。

 あと、折角プレゼントされた素敵な小物を飾らずに片付けるのは、やっぱり申し訳ないし、勿体ない。


「プレゼントを選んでくれた気持ちが素直に嬉しいし、小物はどれも素敵で気に入っているの。アニュアス殿下とは、婚約者として良い関係でありたいし、飾ると約束したから、このまま飾っておくわ。ただ、殿下色に染まりたいなんて、そんな恥ずかしい事は、全然思っていないの。本当よ?」


「お気持ちは、分かりました。では、箱は片付けておきますね。」


 サリーはクスリと笑って、小箱をあった場所に戻しながら、何か呟いた。


「ま、本当に嫌な男からのプレゼントなら、見たくもないので、さっさと売り払うと思いますがね。」

「え?サリー、何て言ったの?よく聞こえなかった。」

「いえ。ただ、お嬢様が殿下に愛されているのは、確かだと思いますよ。」


 アニュアス殿下が、私を愛するとか「私色に染めたい」なんて思う筈が無い。

 確信を持ちながらも、言葉にすべきではないと分かっているので、笑って誤魔化しておいた。


 アニュアス殿下に会った時、小物をプレゼントする意味を知っているのか、何度も聞こうと思った。

 けれど、アニュアス殿下の口から「私色に染めたい」なんて言葉を聞くのは、何だか恥ずかしくて、ずっと聞けないまま、小物を部屋に飾り続けた。


 結局、邸の皆から、より一層、生暖かい目で見守られる羽目になった。 

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