憧れの冒険者生活と何やら違うようですわ
わたくしは、現在冒険者としてマリアと共に外に出ております。
そう、念願の冒険者生活ですわ!!
遂に、マリアのようにチートは発揮する時が来たのです。
ただ、憧れの冒険者生活とは何やら違うようですわ。
それを今説明させていただきますわね。
◇◇◇◇◇
あの時見事にマリアを味方にして、冒険者になれると確信したわたくしは、それはそれはもう喜びましてよ。
そして、その結果が帰ってきたのがちょうど2週間後でございます。
正直遅いと思ったのですが、流石に王家を通してなので時間が掛かってしまったのでしょう。
その報告は、マリアから直接受け取りました。
「レイナ様、何とか外に出る許可をいただいて参りました。これで望んでいた冒険者はなることが出来ます」
ずっと待ち望んでいた言葉がそこで聞かされて、わたくしは心の底からは喜びと安堵しましたの。
流石マリア、本当に優秀な方ですわ。
しかし、そのことをマリアはその後真剣な顔でこのように仰いました。
「ただし途中で、毎日王太子妃教育は受けていただきますから。」
マリア、仰っている意味が分かりませんわよ。
そもそも冒険しているというのに、どうやって王太子妃教育をなさるのです。
それに、そんな旅の途中で王太子妃教育なんて、萎えてしまうじゃないですか。
「マリア、率直に申しまして嫌ですわ」
「今回は、この旅を通して一般的なことを知り、民に寄り添う気持ちを養えるようにしたいからということで許可をいただいておりますので、その間に様々な知識を蓄えながら、様々な体験を通して学んでください」
「マリア、身に付けるのは知識のみですの? 作法やマナーはいかがなさいますの?」
「それに関しては免除されております。どうやら必要無しと判断されたようです」
「なんて素敵なことでしょう!!」
まさか、転生前に16年間無駄にずっと行って来たことがこんなところで役に立つとは夢にも思いませんでしたわ……って違いますわ!!
寧ろ、そのせいで王太子殿下の婚約者になってしまったのですわよ。
わたくし、そんなところで喜ばないでくださいませ。
それは置いときまして、流石に旅をしながら勉強は出来ないと思っておりましたので、旅をしながらこの国について知ることが出来るだなんて、まさに一石二鳥ですわね。
しかしですよ、なんとこの後で今後の冒険ライフを揺るがす衝撃的なことを聞かされてしまったのですわ。
「それと、この旅には王太子殿下も一緒なのでご了承ください」
「はい? マリア、一体それはどういうことですの?」
「どうもこうもそのままです。国王の命もあって王太子殿下も一緒にご同行なさるということです。詳しい理由は知りませんので、気になるようでしたら、直接お尋ねください」
マリア、そんな冷静な態度でアッサリと仰らないでくださいませ。
どうして王太子殿下にご同行されなければなりませんの。
旅というものは1人でするものでしょう。
それを邪魔されるだなんて、耐えられませんわ。
本当にあり得ませんわよ。
それに、王太子殿下をそんな危険な目に合わせることを許す国王も国王ですわ。
この国を疑いたくなりましてよ。
そんな怒りに満ちた状態でわたくし達は準備が整い、 そこから2週間後、つまり王太子殿下の婚約者となってから1ヶ月後に旅が始まることになりました――本当に大変不本意な形ですが。
◇◇◇◇
「マナーズ嬢、お久しぶりです。これからの旅を心待ちにしておりました。これからよろしくお願い致します」
「お久しぶりでございます。こちらはフレディ殿下と一緒に旅をなさるということで、大変複雑な気持ちでこの日を迎えました」
「不安と期待で胸を膨らませていらっしゃったのですね」
ですから、どうしてそんなポジティブに解釈なさるのですか、フレディ殿下!!
わたくしは、本来なら楽しい気持ちで待ち遠しかった冒険を、貴方と一緒に旅をしなければならないという怒りが混じって複雑になったと、嫌味で申し上げましたのよ。
この低い声から何故そのように受け取れますの?
「フレディ殿下、単刀直入に伺いますが、何故この旅を一緒に同行されますの? 不思議でたまりませんわ」
「あはは、貴女は本当にストレートですわね」
「笑い事ではありませんわ。こちらは真剣ですの」
「失敬。ならこちらも真面目に話します」
本当に失礼なお方ですわ。
始めから真剣に聞いてくださいませ。
「今回の目的は、マナーズ嬢と同じく民に寄り添って直接世の情勢を学ぶことです。最近は中々外に出ることが出来なかったので良い機会かと思いまして。それに、またマナーズ嬢と親睦も深めたいと考えております」
「…………前者は理解致しました。しかし、後者に関しては大変困ります。わたくしは、フレディ殿下と仲を深めるつもりはさらさらございませんの」
本当にこの方には、ハッキリと申し出てないとこの後お得意のポジティブな解釈で、面倒なことになりそうですわ。
これなら嫌でも関わる気が失せますわよね。
わたくし、この2週間考えましたが、王太子殿下に嫌われたら1番早い話だと気づきましたもの。
そうすれば晴れて国外追放の冒険者になれますわ。
さあ、嫌な顔をなさってくださいませ。
「まあまあ、そのように仰らないでください。貴女と仲良くしないと後で父や宰相達から怒られてしまいますし、何より私はマナーズ嬢のことを知りたいのですよ」
「わたくしはフレディ殿下のことは気になりませんので、お気遣いなく」
「本当に釣れない方ですね。流石、氷の女王と呼ばれるだけあります」
もしか致しますと、アリス時代の頃についた「氷の女王」という異名のせいで、この態度が受け入れられていらっしゃるというわけですの?
わたくしは普段はこんな態度は取りませんわ。
実際に侍女のマリアに対しては、普通の態度で接しておりますもの。
わたくしが現在、王太子殿下に冷たく当たっているのは、ただ貴方に関わりたくないだけでございます。
決して、わたくしが「氷の女王」だからではありませんわよ。
この異名で引き下がらないと仰るのならば、今アリスが大変恨めしいですわ。
更にアリスへの好感度が下がり、悲しいですわよ。
「マナーズ嬢、これからはアリスとお呼びしてもよろしいでしょうか? まずは仲良くなるには呼び方から変えるのが第一歩だと思いまして。是非私のこともフレディと呼び捨てしてください。それとタメ口で話しましょう」
「わたくしのことは好きにお呼びになられて構いませんし、タメ口でも構いません。ただ、わたくしはフレディ殿下への呼び方も話し方もは変えませんわ。呼び捨てやタメ口なんてわたくしの性に合いませんので」
「それは残念。まあ折角許可をいただいたからタメ口で話すけど、性に合わないとはどういうこと? 嫌なら悲しいけど、まあ……納得は出来るけどね」
納得は出来ると仰ったということは、自分が嫌われているという自覚はあるのでしょうか。
なら、嫌い同士でサッサと両想いになって欲しいものです。
それにしても、何故そんな当たり前のことを伺うのか分かりませんわ。
「勿論フレディ殿下が目上の方だからですわ。呼び捨てにタメ口なんて許されるわけありませんでしょう。それにわたくしは呼び捨てやタメ口は慣れておりませんしね」
「え? 俺より目上である父や母でも、プライベートではタメ口だけど。隣国の国王は呼び捨てだし。これから夫婦になるからさ、気軽に話そうよ」
「そんな馬鹿なことありますの。呼び捨てやタメ口だと周りの皆様に怒られないのですか?」
「怒られるわけないよ。マナーズ家ではもしかして呼び捨てやタメ口は禁止しているの?」
「ええ、そうで………」
「そんなことはありません。ただお嬢様は慎み深い方でして、常に相手の立場を考えて接しているだけでございます。マナーズ家でそのような禁止事項はありませんので。お話を途中で割り込んでしまい、申し訳ありませんでした」
マリア、何故急にここで登場致しますの?
そんなにタメ口が禁止していることがバレたら不味いのでしょうか?
転生前では、少しでもタメ口を言おうものなら、怒られておりましたからね、婚約者の方には常に敬語でしたわ。
相手は呼び捨てのタメ口でしたが。
あぁ〜、本当に疲れてしまいますわね。
もう王太子殿下を置いて、勝手に旅に参りますわ。
「アリス、行き先はそっちじゃないよ。向かうのは反対方向のこっち」
「もう……言われなくても分かっておりますわ!!」
ただ間違えただけなのに、王太子殿下、そこまで笑わなくてよろしいでしょう。
これからわたくしは無事に旅が出来るか不安で致し方がないですわ。