普通に楽しんでしまいましたわ
次の日は、20名と多くの令嬢を纏めて選定会をするなんて、大雑把すぎません?
小説を拝読している際は、何にも疑問に思いませんでしたが、最初から纏めてするか、1人ずつするかどちらかにすれば宜しいのではありませんか。
はぁ〜、この上なく面倒くさいですわ。
これからどうやら王太子妃として相応しい知識を身に着けているかどうか見極めるようですが、ここはやる気がなく、馬鹿であることを証明すれば良いだけです。
確かアリスは、ここで爆睡して教師の反感を買った後、教師からの質問にデタラメで答える場面でした。
そして、そのことにより教師も含めて令嬢達からも馬鹿にされ、しっかりと好感度を下げたのです。
これはもう失敗しようがございませんもの。
そろそろ講義も始まるようですし、眠る準備でもいたしますか。
――何ということでございますの。
こんなに面白い講義は初めてですわ!!
あの小説は、アリスや冒険者仲間のこと、スキルやアイテム、そして目指す場所のことについては、大変詳しく書かれておりました。
しかし、根本的なこの国については殆ど触れられておらず、地理や人口、制度の仕組みなど多くの新しい情報がこの講義に詰まっております。
勿論王太子妃を目指す者ならこれぐらいは、知っていて当然の知識で、知らなければ大変不味いことなのでしょう。
そのため、他の令嬢は全員興味の無さそうに講義を受けておりました。
本来なら、彼女達のように眠りはしないものの、余裕の態度を取るのが正しいのでしょうね。
ただ、わたくしはこんな素敵な機会を逃すわけには行かず、ただ単純に楽しんで講義を受けてしまいました。
きっと、教師の方もさぞわたくしの態度には呆れていらっしゃるに違いありません。
それにしても、ここにメモ用紙が無いのが本当に残念でございます。
どんどんメモしたいのに、この出来ない禁断症状をどうにかして欲しいものですわね。
それにしても様々な質問をすぐにしたいですが、周りの令嬢方の時間を奪うわけには参りませんし……いえ、ここで質問を続けてしたら失礼にあたりますわ!!
ならばここは好感度を下げるためにも、どんどん質問をするべきですわね。
「失礼致します。わたくしは、マナーズ公爵の娘であるアリス・ブリジット・マナーズと申します。今回、テイラー先生に伺いたいことがありまして、挙手させていただきました」
わたくしが、突如質問したことにより、多くの令嬢の意識が戻ってきたようで、わたくしを冷ややかな目で見つめておりました。
どうやら、非常識だと思われているようですわね。
「…………マナーズ令嬢、質問を承りましょう」
教師の方も、目を大きく開けて驚いていらっしゃるようですわね。
ならこのまま、追い打ちをかけることに致しましょう。
「先ほどそれぞれの土地について説明されておりましたが、3つほど説明されていらっしゃいませんでしたよね。わたくしはそれらの土地について存じ上げませんので、特色を教えて欲しいと思います」
「成る程……実はその3つは敢えて割愛しておりました。1つは詳しく教えなければならないため、あまりにも時間がかかること。また1つは大した地域でないため、話す必要性もないこと。そして最後の1つは分かっていないことが多くあり、わたくしでは詳しく話せないのです」
「話が長くなるために1つの地域が省略されたのは分かりました。しかし、平凡過ぎて話す必要が無いとはどう言うことでしょう? 何を持って平凡なのでしょうか? また、分からないことが多いというのはどういうことでしょうか?」
「平凡過ぎるというのは、そこには田んぼや山しかないためです。そして、分からないことが多いというのは、そこは深い崖があり、危険で調べることが困難だからです」
「田んぼや山に囲まれていらっしゃるなんて、それは自然に囲まれているということではありませんか。わたくしには平凡な土地だとは思えませんわ。また、深い崖があるため難しいのは分かりましたが、やはり国のことが全て分からないというのは恐ろしいものです。どうにかして解明出来ないのでしょうか? あと、経済の面でも伺いたいことがあるのですが……」
わたくしは、質問したいことが次々と溢れ出てしまい、他の令嬢達には構わずに質問を続けてしまいました。
実は質問は全てすることは出来ず、メイドが終わりの時間を告げたことで、強制的に終了してしまい、わたくしは満足が出来ないまま、部屋を出ることになってしまいました。
本来ならば、今すぐにでもメモを取りたいところですし、また質問もしたいです。
また、質問が出来ないのであれば、本など自分で調べたいとも思いましたの。
しかし、残念ながらわたくしは選定会のスケジュールには抗うことが出来ず、その場では断念せざるを得ませんでした。
後で、マリアなどに伺い、もっと調べることに致しましょう。
取り敢えず、これで王太子妃候補の脱落に王手をかけたも同然ですわ。
後は適当に望みましょう。
◇◇◇◇◇
次はダンスでございますか。
これは1人の令嬢が3種類のダンスを踊るのですわね。
わたくしはかなり出番は後なので、最初は見学なのですが、拝見したところ、やはり皆様ダンスがお上手ですわ。
正直誰か1人や2人ぐらいは下手なダンスをされるかと思ったのですが、どうやら普段から練習されていらっしゃるのか綺麗に仕上がっておりますわね。
しかし、表情は少しずつ違いがあるようです。
最初の簡単なダンスから頬が引き攣っていらっしゃる方から、最後の難しいダンスで頬を引き攣らせる方まで幅は広いようです。
最初から最後まで、余裕を持って踊ることが出来ていらっしゃるのは2名だけですわね。
やはり、王太子妃の選定会ですから、緊張されていらっしゃる方が多いのでしょうかね。
それにしても、王太子殿下は、これだけ多くの令嬢と複数のダンスを踊っているのにも関わらず、何1つ不満を零さずに常に笑顔と、紳士の対応をされていらっしゃるところは流石ですわ。
正直王太子殿下は、わたくしの好みですから、あんな笑顔を間近でされたら、流石に正常な心は保てないかもしれませんわね。
あ〜、そこだけが悩ましいですわ。
それは気をつけなければなりませんわね。
あら、どうやらそうこうしている内に、わたくしの出番になっと模様です。
アリスはここで、王太子殿下の足を踏みまくって、挙句の果てには派手に転ぶところですわ。
意識さえすれば大丈夫ですわね。
さぁ王太子殿下、ご対面願いますわ!!
「フレディ殿下、よろしくお願い致します」
「マナーズ令嬢、こちらこそよろしくお願い致します」
お互いに礼をして、後はダンスの体勢を取って準備は完了。
すると、音楽が流れてきて、ゆっくりと動くことになりました。
さて、どのタイミングで足を踏みましょうか。
――あの、これはどう足を踏めばよろしいのでしょうか?
――あと、これはどう転べば良いのでしょうか?
正直、王太子殿下のリードが上手過ぎて踏みようも、転びようもありませんが……。
逆にこのリードで足を踏んで転ぶって、アリス器用過ぎません?
わたくしには、不可能ですわ。
それにしても、ダンスは楽しいですし、何よりもこの胸のトキメキは何ですの。
本当に恐れていたことになってしまいました。
いっそのこと王太子殿下が不細工でしたら……いえ、間近で不細工は見たくはないので、普通でしたら何の問題もありませんのに!!
もしくはイケメンでも、好みでなければこんなことになりませんのに!!
大変悔しいですわ……。
もうこうなったら、開き直って楽しんでやりますわよ。
楽しまなくては、損な気がしますもの。
だって、こんなにダンスが上手い方と踊るのは、転生前と比べても最初で最後でしょうから、折角なので、ダンスだけでなく、王太子殿下も堪能させていただきます。
それに今まで行為で、好感度を下げたので、ここで普通に踊ったところで問題はありませんわ。
こうして、楽しいダンスは一瞬にして終わってしまい、また無事に選定会を終えることが出来たのございます。
それにしてもまさか選定会を楽しいと思うだなんて不思議でしたが、悪くはありませんでしたわ。
後は追放を待つのみですわね。
もう今から楽しみですわ!!