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貶すことってここまで難しいことなのですね


 まずはどうやら王太子殿下と庭を散策ということらしいですわ。

 確かここは、植わっている植物に何の興味を示さずに、寧ろ貶すところでしたわね。

 そんなことで好感度が下がるならお安い御用です。

 気を軽く構えておきましょう。


「マナーズ嬢、こちらが王宮の庭です」

「………………なんて美しいのでしょう」

「マナーズ嬢?」


 王太子殿下が案内してくださったところは、王宮の庭でしたが、わたくしはあまりにもその美しさに息を呑んでしまいました。

 転生前のわたくしの実家でも、今の公爵家でも立派は庭はありました。

 しかし、これほど壮大で全てが行き渡っている庭を見るのは、生まれて初めてな気がします。

 これは庭師の方々が、とても丁寧に愛を持って世話をしてくださっているからでしょう。

 それにも関わらず、アリスが何故こんな素敵な庭に興味を示さないどころか、あそこまで貶していたのか、わたくしには全く持って納得は出来ませんでした。


「これは、アメジストスターでしょうか?」

「マナーズ嬢、よくご存知で。マイナーな花なのに」

「勿論知っております。これは回復する上でこれ以上にないほど優れていて、尚且つ中々取れないから入手困難ですもの。買うとしてもかなり高価だと伺っております」


 冒険者となる者としては当然、いえ小説ファンなら当然の知識でございますわ。

 なんせアリスは、このアメジストスターを手に入れるために危険を顧みずに、果敢に採りに行かれますもの。

 そこのシーンが何とも格好良いのですわ〜。

 実際に見ることが出来て幸運としか言いようがありませんわね。

 うぅ、猛烈に欲しいです。

 でも、そんなことを言うのは失礼……あ、失礼になるのなら言うべきですわね。


「フレディ殿下、わたくしはこのアメジストスターが欲しいですの」

「確かに綺麗ですものね。お気持ちはお察しします」

「お一ついただけませんの?」

「流石に王宮の物なので勝手には……。ですが王太子妃になられたら、少しぐらいなら何の問題はないかと」

「王太子妃? それなら無理ですわ」

「王太子妃候補の方が何故そのようなことを仰るのですか?」

「わたくしは王太子妃の器はありませんので。先ほどの話は水にお流しください」


 王太子妃とか、たまったもんではありませんわよ!!

 わたくしは冒険者になる身で、今は王太子妃候補から外れるために絶賛努力中ですの。

 王太子妃になるぐらいでしたら、そんなアメジストスターは不要ですし。

 そもそも、後でアメジストスターを採るための楽しいクエストがありますもの。

 お楽しみは取って置かないといけません。


「では話を元に戻しますが、そこまで知っていらっしゃるとは驚きました。もしかしてお花に興味があるのですか?」

「いえ、確かに花は好きではありますが、そこまで興味があると言うわけではありませんわ」

「あら、そうなのですか。もし興味がおありなら、関係者しか入れない温室にご案内しようかと思いましたが」

「もしかして、ブラックアップルやキャットレッドなどもございますの」

「それはまたマイナーですね。勿論ございますよ」 

「本当ですか? それならば、是非今1度お目にかかりたいですわ」

「では、ご案内致しますね」


 わたくしは返事をした後に、しまったと後悔してしまいました。

 どうして、そこで断らなかったのでしょうか。

 そこは大したこともないのでしょうと申して、素っ気ない態度を取るべきでしたのに。

 それにしても、この後で特別な温室に入りましたが、そこはそこで大変素晴らしいところでございまして、また褒めてしまいました。

 やはりこんな素晴らしいものをどう貶したら良いの分かりませんわ。

 これは、こんな素晴らしい所に伺うことが出来て良かったと喜ぶべきなのか、それとも好感度を下げるチャンスを1つ潰したと考えるべきなのか、もう頭が痛いですわね。

 早く終わらせて帰りたいものです。


 ◇◇◇◇◇


 次はどうやら殿下とお食事のようです。

 確かにアリスはここで、食事中に不快な音を立て、挙句の果てに美味しくないと貶す場面でしたわね。

 今度こそ上手くして好感度を下げなければ。


「いただきます」


 わたくしはハッキリとした言葉で、両手を合わせました。

 西洋料理ではこんなこといたしませんもの。

 さぞ失礼でございましょう。

 

「それは東洋の方でのマナーですよね。少し驚きました」


 あら、これは中々良い反応なのではないでしょうか。

 では、このままアピールしたら勝ちですわね。


「わたくしは、如何なる場合でもこれを行いますの」

「それは常に感謝の意を立ててということでしょうか?」

「ええ、それもありますわね。ただ、わたくしの場合は習慣みたいなものですから」

「素晴らしい心掛けですね。私も見習いたいものです」


 出会った時もそうでしたが、これも嫌味で間違いありませんわよね?

 何か言い方が褒めているように聞こえますので、何だかむず痒いのですが、これで確実に好感度も下がったはずですわ。

 後は食事で音を立てたら、この勝負はわたくしの勝ち。

 では、まずはスープを音を立てて啜りますか。


 ――あの、これどうやったら音を出せますの?

 食べるのではなく、紅茶を飲む時のように飲んでおりますが、音が立たないのですが。

 そもそも紅茶を飲む際に、音を立てるやり方も忘れてしまいましたわ。

 それに、このスープとても美味しいのですが、どうやって貶せと仰いますの?

 本当に無理なのですが……。



 次はメインのお肉がやって来ましたわね。

 ここでは、フォークやナイフがお皿に当たって不快な音を出すはずです。

 こちらは当てたら良いだけなので簡単そうですわ。


 ――あの普通にしていたら、音立てられませんわよね。

 えっと、少し力でも入れてみますか。


 キィー、キュー


「きゃっ!!」


 何ですの、この音は!!

 こんなに不快な音でしたっけ?

 昔は音を立てると、その度に怒られて無理矢理矯正されましたが、これなら分かる気がしますわね。

 少し音を立てただけでこれって、もし思いっきり音を立てていたらどうなっていたことか。

 本当はもっと音を立てたいところですが、これ以上にしたらわたくしの精神が先にやられてしまいますわ。


「マリーズ嬢、声を上げて大丈夫ですか?」

「いえ、わたくしが不快な音を立ててしまい、その音に驚いただけですわ」

「もしかして緊張なさっていますか? 緊張をほぐせなくてすみません」


 いや、別に王太子殿下には緊張しておりませんわよ。

 ただ、緊張をほぐしたいと仰るのなら、選定会取りやめてくださらないかしら?

 はい分かっておりますわ、無理なんですよね。

 はぁ、なんかどっと疲れました。

 ここは悔しいですが、引き下がりましょう。

 取り敢えず食べて平常心を取り戻さなければ。


「……美味しいですわね」


 それにしてもこのお肉、とても柔らかくてすぐに口の中で溶けますし、また脂も多く乗っていて、幸せなのですが。

 美味しいものはどんなに食べても美味しいですから、これをどう貶したら良いのでしょう。

 やはり、わたくしには貶すなんて無理そうですわね。


 それにしても、いくら王太子妃になりたくないからって、ここまで出来るアリスを尊敬もしますが、逆に人格が破綻しているのではと疑いたくなってしまうなんて……。

 何だかわたくしの敬愛するアリスのイメージ像が崩れていくのがしひしひと伝わってきて辛いです。

 早くもうこんな選定会、終わってくださいませ。

 これ以上アリスのイメージを壊されたくありません。

 わたくしのアリスを返してください!!


 しかし、残念ながらこの選定会はまだ続きますの。

 今日1日はここで終えましたが、まだ明日があるなんて憂鬱です。

 それでも今日は出来ることは行いましたし、明日はより頑張れば良いだけのお話ですもの。

 気を取り直して、引き続き頑張りますわ!!


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― 新着の感想 ―
[一言] まさか前世の記憶が逆に障害になるとは!w
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