回復能力と攻撃能力は素晴らしいものですわね
アリスは治癒回復も出来ましたから、今のわたくしならばマリアを治すことが出来るはずですよね。
「フレディ様、どうすればマリアの怪我を治すことが出来ますの?」
「さあ、分からない」
「分からないだなんて……フレディ様はチートが使えますでしょう?」
「まあ使えるけど、治癒回復は俺の専門外だから分からないんだ」
「ではどうすれば使えますのよ」
「だから分からない」
「知識だけでもございませんの?」
「だから分からないって。何度も言っているだろう。魔力じゃなくて、聖力だから念じたどうとでもなりそうだけどね」
もうどうしてそう適当なことを仰りますのよ!!
う〜ん、それにしても困りましたわね。
このままだと永遠に分からないのやり取りを繰り返すだけになりますわ。
それならば、フレディ様の言葉の通り念じたら治すことが出来るのでしょうか?
それならば実際に行うしかありませんわよね。
確かにアリスは手を当てて治していたはずですから……って念じるってどうすれば良いのでしょうか?
「えっと……」
「レイナ様、ありがとうございます!! レイナ様のお陰でさっきまで死にかけていたのが嘘のように……いえ戦う前よりも元気になりました!!」
マリア、手が……手が痛いですわよ。
そんなに強く握らないでくださります……ってもう治りましたの!?
いえ、本当にマリアが完治したことはこれ以上に無く嬉しく思いますわ。
しかしながら、わたくし何も呪文を唱えないまま完治してしまうだなんて……。
ここは大抵英語でヒールとか、ラテン語でラナーレとか唱える場面でございますわよね?
確かに小説で呪文を唱える場面はありませんでしたが、先程洞窟を崩してしまったことと言い、こんなにアッサリと治るものなのでしょうか?
これはこれで寂しく感じてしまいます。
せめて開けゴマのような意味不明な呪文でも良かったので、唱えたかったですわ!!
いや、今からでも遅くありませんわよね……ここはもう唱えてみましょう。
「ヒール!!」
「レイナ様、一体何をされておりますの?」
「あの〜もう私は完治しましたが……」
「そうですわよね……混乱させて申し訳ありませんわ」
やけに元気でありますから不要かなとは思いましたが、もしかしたら完治していない可能性もあると信じて行ってみましたところ、結果は全く不要どころか、マリアに呆れた目を向けられてしまいましたわ。
それでも善意で助けようとしたのですから、温かい目で見守ってくださるぐらい良いじゃないですの。
酷いですわ!!
「ぉれも……たすけて……くれ………」
「あら、確かに大怪我をなさっておりますわね。では、今度はラナーレと唱えましょうか……ラナーレ!!」
「いや、こんな奴助けなくていいぞって……もう綺麗に治ってる!! なんで侍女に酷い目に遭わせた奴を治療するのか……」
「あ、そうですわよね。つい呪文を唱えたくて反射的に治してしまいましたわ。では先程よりも酷い状態にしておきますわ……アングリフ!!」
今回は攻撃の呪文を唱えてみましたが……今回は呪文ありで上手くいったようですわね。
流石に今回の戦犯でございますから、このまま殺すわけには参りませんし……かと言ってこのまま無傷なのも癪に障りますもの。
本当にお美しい顔も含めて全身が悲惨な目になっておりますわね。
まあ、どのように悲惨になっていらっしゃるかは、とてもとてもわたくしの口からでは告げることが出来ませんから、読者様のご想像にお任せすることに致しましょう。
しかし、これもわたくしのとても大切なマリアと、そして大事な領民を傷つけた代償ですわ。
お亡くなりになる直前に止めて差し上げましたので、優しい方でございますからね。
「殺された方がマシな気が……レイナ怖いな、怒らせないようにしないと……」
「フレディ様、何か仰いましたか?」
「いや何も」
フレディ様、明らかにわたくしのことを恐怖の目で、ご覧になられておりますわよね。
別にフレディ様にはそのようなことをするつもりは微塵もありませんのに、本当に心外ですわよ。
「レイナ、そう拗ねないで。確かに驚いたけど……でもレイナの体力が心配なんだ。無理してないか」
「いいえ、体力はまだまだありますから」
「そうか……でも疲れただろう? 今は隊員達に任せてここから離れて体を休めよう」
「確かに疲れてしまいましたわ。お言葉に甘えて宿を探そうと思います」
「じゃあ行こっか」
「きゃっ!」
急に体が浮いたと思いましたら、フレディ様がわたくしの体を持ち上げましたの。
確かに疲れてはおりますが、それは精神的な疲れでございまして、決して肉体的な疲れではございませんのに。
寧ろ聖力が漲ったのか、前よりも元気になったような気もしますし……わたくしの話も聞かずに急に持ち上げるだなんて早とちりし過ぎですわ。
それに何よりもこれを隊員様達に見られると思いますと……。
それに何より美し過ぎる顔が間近にありますので、逆にとても精神的に疲れてしまいますわ!!
これはすぐに下ろしてもらわければ。
「フレディ様も疲れていらっしゃるのに悪いですわ。わたくしは普通に自力で歩くことが出来ますもの」
「それは気にするな。疲れているのは事実だけど、レイナは羽のように軽くて……というのは全く持って嘘だけど、とても軽くて全然問題ないから」
全く思っていらっしゃらないのであれば、小説でよくあります典型的なフレーズを無理矢理入れ込まなくて大丈夫ですわ。
いえ、入れ込もうとして完全に失敗しておりますし……一瞬だけ憧れのセリフを仰ってくださるという淡い想いを返してくださいませ!!
しかし、フレディ様はそんな失言をものとも言わずに、こんな質問をされましたわ。
「ねえレイナ、ちゃんとご飯食べているの?」
「ちゃんと1日3食いただいておりますわ。まあ本当は節約するためにも1日2食にしようと思っておりましたが、そこまで節約したいなら私の食事の回数を減らしてくださいとマリアに懇願されて取り止めになりましたの」
「本当に無茶をしようとして……マリアがいて本当に良かったよ。ただでさえ細いのに更に細くなるところだった。不健康になるのではないかと心配になる」
これは慣れない労働や質素な食事で生理が2ヶ月飛んで今までにないほど悶え苦しんだことは言わないほうが賢明ですわね。
そんなことを申し上げたら更に心配させてしまうでしょうから。
それにしても、どうしてフレディ様はそこまで心配されるのでしょうかね。
「何を言っているんだ。気にするに決まっているだろう!! 婚約者なんだから」
五月蝿いですわ!!
どうやら無意識のうちに口にしていたようで、そのことに対しての反応だったようですわね。
わたくしをもう少しで落としてしまうのではないかと思うほど、荒げた声でお叱りを受けてしまいました。
あまりにも声が大きかったので、一瞬鼓膜が破れるかと思いましたわ。
まさかそれほど心配してくださったなんて、全く思っておりませんでした。
別れた時に助けになると仰りましたが、あれは単に社交辞令に近いものだと思っておりましたから。
本当にアリスは愛されておりますわね。
ただそれは公爵家令嬢のアリスだから……もっというのであればフレディ様の婚約者だから心配されるのですわね。
それならばこれから婚約解消するわたくしに、それから心配されることは無くなるということ。
それはフレディ様の心配事を無くなりますし、喜ばしいことではありませんか。
それなのに、どうしてここまで胸が痛むのでしょうか。
そんなことを考えておりますと、フレディ様がとある宿まで連れてきてくださりました。
羞恥心をまともに感じないまま、いつの間にか到着しておりましたのね。
折角なら羞恥心を体験してみたかった……なんてそんなわけありませんわよ!!
そんなの感じない方が良いのに決まっておりますのに、どうしてそんな考えに至ってしまいますの。
本当に調子が変ですわ。
どうしてまだこの状態でいたいと思ってしまうのでしょう。
「まだこの状態を保って良いの? レイナが望むならずっとこうしていても良いけど」
「……そんなわけありませんわ。すぐに下ろしてくださいませ!!」
「そこまですぐに否定しなくても……もう少し駄目?」
「駄目、駄目でございます。すぐに下ろしてください」
ようやくフレディ様の腕から離れることが出来ました。
何だかフレディ様は浮かない顔をされていらっしゃいますわね。
その一方でわたくしはホッと一息をつけたはずですのに、こちらも笑顔を向けることは出来ませんでした。
何故なら少し寂しさを感じてしまったからです。
本当にとことんおかしなお話ですわね。
こうしてわたくし達は、無事に?事なきを得まして、また別れることになりました。
そしてまた、大きな戦争になることもなく、問題はあっという間に解決されることになったのです。