居場所を突き止めましたが……
ほんの少しの間ですが、応援を待っておりますと、どうやら1人の方が駆けつけてきてくださったようです。
どなたがいらっしゃったのかしらと振り返りますと、どうやら見覚えしかないシルエットが、こちらにおいでになりました。
「フレディ様、もういらっしゃったのですか? あら、他の方はどう致しましたの?」
「はぁ〜レイナは相変わらず呑気だな……俺が1番近いから先に来ただけだ。騎士達もすぐに来るだろう」
「そうでございますのね。フレディ様がお一人でいらっしゃたので少し驚きましたの」
このように申し上げましたが、よく見渡しましたら従者のブラウン様も後ろにいらっしゃいましたわ。
ここは前回会うことが出来なかった彼に、今からでも挨拶をしなければなりませんわね。
「ブラウン様、ご機嫌……」
――バタバタバタバタ
――ドンドンドンドン
彼らが今どうやら動き始めたようですわね。
これから一体何をなさるつもりなのでしょうか?
本当に不穏ですわ……ってこちらの方向に向かって来ておりませんこと!?
も、も、もしかして……いや、もしかしなくても私達の居場所が明かされてしまいましたわよ!!
「おい、ここに不届き者がいるぞ」
いえ、貴方達こそ分かっております?
私は単なる庶民……ではございませんでしたわ。
まだ公爵令嬢でしたわね。
そう、私はこの国で1番力を持つという公爵令嬢と、そしてお隣にはこの国の王太子がいらっしゃるのですわよ。
この国を荒らそうとしている貴方達の方が不届き者でございますわ。
しかし、早々と身分を明かすわけにも参りませんわよね……フレディ様は何も仰りませんし。
「レイナ様、王太子殿下もどうぞお逃げください。私が対処します」
「そんなマリアが危険だわ」
マリアは囮になると買って出てくださりましたが、そんなことわたくしが許すはずありませんでしょう。
馬鹿なことはなさらないで……。
「不届き者とは私のことかしら? 不届き者はそちらじゃないの?」
ドゴッードスドス
バンバンバンバン
シャキーンシャキーンシャキーン
止めるどころかかマリアが勝手に戦いを始めてしまいましたわよ。
それも最初は完全に右の拳で思いっきり相手の顔を殴りましたよね――それも銃を向けて来た人に対して……。
そして、相手が気絶している間に銃をさっと奪って近くにいる人達の足を的確に動けなくなるほどに連続で撃ちましたわ。
その後には、倒れた人達が持っていた刀を手にとって、今度はなんと二刀流で残りの人達の腕を思いっきり斬りつけて戦闘不能にしてしまいましたの。
素手でも強く、銃でも強く、そして刀でも強いとは、これはもう無双状態ではありませんこと?
別に公爵家の騎士達が不要なのではと思うほどの実力をお持ちのようでございますわ。
言葉は悪いですが、たかが彼氏の騎士様から教えてもらったぐらいで、ここまで強くなれるのでしょうか。
もしかしたら、騎士様よりも強いではなくて?
恐るべしマリア……絶対にマリアだけはもうこれから怒らせることは出来ませんわ。
えっと……どうやらフレディ様も顔を引きづっているから、わたくしと同じことを思っていらっしゃる模様ですね……。
「レイナ様、どうして逃げなかったのですか!! 危ないじゃないですか」
いや、危ないのは貴女マリアでございますわよ。
驚き過ぎて逃げる力も無かったという方が正しいですもの。
「早く逃げますよ。2人ともモタモタしないで」
マリアの目に強く睨みつけられて怖いですわよ。
先程怒られないように決意しましたのに、早速怒られてしまいました。
それでもねマリア、わたくしはまだしも、フレディ様までそんな視線を向けるのはよろしくないと思いますわよ?
ドタバタドタバタ
「マリア、後ろ!!」
「後ろ? あっ……」
「マリアーーー」
「レイナ、危ない!!」
てっきりマリアが敵を倒してもう終わったと思ってりましたのに、まだいらっしゃったなんて。
後ろから不意打ちに来られましたので、マリアも気づくのが遅れてしまったようですわ。
なんということでしょう。
マリアが……マリアが……捕らえられてしまいましたわ!!
わたくしはマリアを助けようと思いましたが、フレディ様に引き止められてしまいましたの。
もう少し早く気づいていれば、こんなことにはなりませんでしたのに……。
マリアはあっという間に両手を押さえられて、足も蹴られて完全に戦闘不能になってしまったようです。
「お前、この国の王太子のフレディ・クリス・ウェールズだな」
「違いますわよ。ミドルネームはクリストファーでございます。名前を間違えるだなんて失礼ですわ!!」
「そりゃ丁寧なご指摘だな。お陰で王太子だと確信は持てたよ」
「もしかして鎌を掛けましたの?」
「いや偶々だ。だが、本当の王太子殿下ならこれからの取引を受け入れてくれるよな?」
フレディ様がとても渋い顔をされておりますわ。
それはそうですわよわね……間違いなく理不尽なことを仰ることは分かっておりますもの。
「あ、あと5分以内に来なければ、この侍女を殺すからそのつもりで」
「なんて卑怯ですの」
「仲間達が木っ端微塵にやられたんだ。これでも優しい方だぜ」
「それは貴方達が襲ってきたからです!!」
「うるさいお嬢様だな。お前、王太子の婚約者だろう? ならこの状況がどう言う状況か分かるはずだ。それにお前の侍女がこの場で殺されたいのか?」
マリアが殺されるだなんて、そんなことさせるわけには参りませんわ。
かと言って、このまま付いて行けば何をされるか分かりませんし……どうすればよろしいですの?
「分かった……なら貴方達に付いて行こう。だが、もし彼女や他の領民達に手を出したらすぐに戦いになると思え。私の会話は騎士や王宮の者達にも聞かれているからな……この魔法の指輪で。もし手出しをしないなら、こちらからも手出しはしない」
「フレディ様……その指輪は……」
フレディ様、私の口を押さえて何をなさいますの?
急にそんなことをされたら驚きますわよ。
「そのことは黙っておいて。今は大人しくして俺に付いてきて」
これは真剣そのものですわね。
その指輪はわたくしとの連絡を取るためのものであって、そちらからは何も出来ないはずですから、ついそのことを指摘したくなってしまいましたの。
フレディ様はここでハッタリをかけるつもりなのですわね。
それにしても、あんな耳元で美声を聴かされたら、もう惚れてしまうではありませんか。
今はこの恐ろしい場面で鼓動が速くなっていたと言いますのに、加速してしまい胸が引き千切れそうですもの。
場違いですが、抑えることは出来ませんわ。
「何いちゃついているだ。巫山戯ているのか?」
「いや、怯えている彼女に落ち着くよう言っただけだ。彼女は繊細な人だからな」
いえ、寧ろ落ち着きが無くなって挙動不審になってきないかの方が不安なのですが。
しかし、何故かそれで向こうの方も納得されていらっしゃいますね。
落ち着いたように見えているということなのでしょうか……ならどうやら殿下の期待には応えたようですわね。
「では案内してくれ」
わたくしは、フレディ様の手に引かれて彼らが案内する所まで一緒に向かうことになりました。