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王城へ参るには、念入りのお洒落が必要ですわ


 やはり予想通り、まともに眠ることは出来ずに寝不足でございます。

 鏡を見ると、目の下に大きな隈が出来ているのが確認出来まして、本当に嫌になってしまいますわ。

 約束は取り付けてはおりませんものの、今日はフレディ様と出会うのですから、それなりの装いで行かなければなりませんわよね。

 となりますと、やはり化粧ぐらいはした方がよろしいでしょう。

 化粧なんて時間は掛かりますし、何よりもお金が掛かるため、庶民になったわたくしには贅沢品以外の何物でもなく、半年ほどすることはございませんでした。

 こうなるのであれば、安い物でも購入しておけば良かったですわね。

 今手元にございますのは、最高級の化粧水に乳液、そしてファンデーションとリップと、最低限のものしかありませんもの。

 どうせなら、アイシャドウやチークなども欲しいところでしたが、今更買いに参るわけにもいきませんしね。

 折角なのでしっかりとおめかししたかったですが、せめて寝不足で心配されないように、隈だけはしっかりと隠して最低限の化粧をすることに致しましょう。


 そして、あとは衣装もそれなりの物にしなくてはなりませんわよね。

 一応そんなこともあろうかと、一着だけ残してはありますが、これは持ちやすさを重視したため、厚みもないワンピースみたいなドレスと、そこまで豪華ではなく、王城に入るには及第点と言えるほどですわ。


 まあ、一応これでコーデネートは出来ましたが、本当に及第点であり、質素感は否めません。

 とてもじゃありませんが、これだと公爵令嬢ではなく、斜陽貴族の令嬢みたいな装いになってしまいましたわね。

 でも別に何の問題もないでしょう。

 何と言っても一応及第点には達しておりますからね。


 ◇◇◇◇◇


「辺境伯様、おはようございます」 

「マナーズ嬢、おはようございます……えっとそれが今回の装いですか?」

「はい、そうでございますが」


 これ明らかにドン引きしていらっしゃいますわね。 

 確かに公爵令嬢でフレディ様の婚約者が、王城に行こうとしているのに、こんな装いだと驚かれるのは当然なのしれませんが、致し方ありませんでしょう。

 わたくしは今お金もありませんし、そんなに多くの荷物を運べないのですから。


「マナーズ嬢、もしよろしければ、娘が着ていたドレスをお召になりませんか? 娘が嫁いだのは最近なので、ドレスかなり最近のものですし、サイズも近いので大丈夫かと」

「いえ、そんなの申し訳……」

「辺境伯令嬢様のドレスがあるのですね。是非拝借したいです」


 マリア、一体何を仰っておりますの!?

 流石に借りるのは後ろめたいのですわよ……って勝手に2人で話を進めないでくださいます?

 マリア、こっちに来てじゃありませんわよ。


「ここが娘の部屋ですので、クローゼットの中から選んでくださいね。あと、ドレッサーにある物も好きにご使用ください。それでは失礼致します」


 あぁ、まさか辺境伯様に気を使わせてしまうとは、何と言う失態なのかしら。

 こんなことなら、夜に抜け駆けてドレスや化粧品を見繕うべきでしたわね。


「うわ〜。本当に素敵なドレスばかりですよ。公爵家のドレスに劣らないほど立派です。レイナ様ならこれとか、いやこれも、いやいやこれも似合いそうですわね。本当にどれに致しましょう」


 わたくしよりも、マリアの方が全然張り切っていらっしゃるのは一体どういうことなのでしょうか。

 わたくしもフレディ様に失礼のないように気を張っておりましたのに、何だか負けた気分で悔しいですわ。


「そうだレイナ様、王太子殿下のお好みはどんなものなのですか?」

「フレディ様のお好み……そう言えばあまりゴテゴテしすぎるものは好きじゃないと言っていた気がしますがね。あと、落ち着いた青や緑が好みだと仰っていた気がしますわ」

「成る程……でしたらこれが1番ピッタリですわ。この淡い水色に鈴蘭が刺繍されたドレス……控えめながらエレガントですよ」


 確かにマリアが選んでくださったドレスは、先程申し上げた要点を押さえた、素敵なドレスですわね。

 今着ているドレスと比較するのが烏滸がましいほど立派でございますわ。


「レイナ様、あとはこちらのサファイアのネックレスとイヤリングは如何でしょう? 王太子殿下の瞳の色とピッタリですし」

「マリア、もしかしてフレディ様とのよりを戻そうとなさっております?」

「いえいえ、そんなことあるわけないじゃないですか。レイナ様の幸せが1番ですから、望んでないことを無理強いなんかしませんよ」

「その言い方ですと、やはりフレディ様と結婚をして欲しくはあったのですね」

「それは否めませんがね。ですが、折角王太子殿下と会うのですから、しっかりとした装いで行きましょう。立派なレディに仕上げて見せますよ」


 正直に申し上げまして、マリアの思考には呆れざるを得ませんわね。

 どう足掻いてもフレディ様と元の関係に戻るのは無理だとずっと申しておりますのに。

 それでも、折角辺境伯様が機会をご用意してくださったのですから、それを無下にしないためにもしっかりとした装いをさせていただきましょう。


「レイナ様、お美しいです。世界一、いえ宇宙一美しいですわ!!」

「マリア、流石にそれは言い過ぎです……ってこれは確かに世界一お美しいですわね。アリス、本当にお美しいわ」


 流石に大げさだと思いましたが、いざ鏡を見れば先程のわたくしは何処に行ったのかと思うほど、見違えましたわね。 

 ドレスやアクセサリーは勿論のことなのですが、化粧もマリアが勝手に使用して完璧に仕上げましたので、まるでお人形がいるかのような透明感のあるアリスが誕生致しましたの。

 神かがっているアリスの容貌は、磨けばここまで輝くものになりますのね。

 流石、わたくしが憧れたアリス様ですわ!!

 そして、ここまで美しくしてくださった優秀なマリアに大きな拍手!!

 王太子妃の選定会の時の装いと匹敵するほど、磨きがかかっているのではないと思うほどですわね。


 お洒落ってこんなに楽しいことでしたのね。

 今までは当たり前過ぎて気づきませんでしたが、究極に美しくなるためには、莫大なお金が必要なのかもしれませんわ。

 きっとこれが最後のお洒落。

 もうこんな姿は最後だと思うと、寂しく感じてしまいますわね。

 

 

「辺境伯様、少し時間が掛かり申し訳ありません。お待たせ致しましたわ」

「あぁ……先程も美しかったですが、更に美しくなりましたね。そろそろ時間ですから、王城へ参りましょう」


 あまりにの変化に一瞬声を発するのが遅れましたわね。

 それはまあ、あのビフォーアフターを見たらこうなりますか。

 辺境伯様のお眼鏡にかなったようで安心致しましたわ。

 さて、王城に参ると致しましょうか。


 ◇◇◇◇◇


 約3時間かけて王都へ、そして約1時間半をかけて王城へやって参りました。

 久しぶりに王城を拝見しましたが、改めて拝見致しますと、とても大きくて威厳がありますわ。

 これから王城に入ると思いますと、やはり緊張が高まってきますわね。

 いくら見た目は公爵令嬢でも、本当は現実単なる庶民ですもの。

 虚偽罪で訴えられたらどうしようかという不安を打ち消すことはまだ出来ませんし。

 でも、フレディ様ならしっかりと話を聞いてくださるはずですから、ここは一旦落ち着かなくては。



 辺境伯様の介在と、立派な装いで何も疑われることもなく、普通に王城の中へと入ることが出来ました。

 これで、辺境伯様と共にフレディ様に会うことが出来ると思いながら彼に付いて行きますと、途中の十字路で辺境伯様が突如歩くのを止められてしまい、そしてわたくしの予期せぬことを仰りました。


「私はこれから陛下の所へ参ります。先程マナーズ嬢は、殿下の部屋へ向かってくださいとの通達をいただきましたので、ここからは別れましょう。それでは失礼致します」


 まさかまさかまさかの、わたくしが向かう先は執務室ではなく、フレディ様の部屋ですって!?

 それもわたくし1人でございますの?

 何故そうなるのでしょうか?

 でも、辺境伯様の言葉からだと、上からの命令の感じが致します。

 ということは、フレディ様からの指示なのでしようか?

 とにかく、どうやらわたくしは辺境伯様抜きでマリアと一緒に向かわなければならないようですわね。

 先程何とか心を落ち着かせましたのに、一気に緊張が増してしまいましたわ。

 流石にフレディ様の部屋には何度か入ったことはありますので、何処にあるのは分かりますが、婚約者でもないわたくしが入るだなんて、躊躇いがございます。  

 しかし、わたくしには拒否権はございませんし、何よりも頼み事をしなければならないのですわ。

 もう腹を決めていざ突入するのみでございますわね。


 

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― 新着の感想 ―
うおおお、いっけええええ!!!!
辺境伯とともに王城、そしてフレディ様のところへ向かうレイナ、旅先からの急遽の往訪となり、夜眠れないところに戸惑いや緊張が窺われます。 辺境伯の心遣いと、マリアがここでも助けてくれましたね。お洒落の楽…
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