辺境でまさかの事態でございます!!
さて、ようやく辺境にやって参りましたわ。
これでこの国では最後の旅になりますから目一杯楽しまなくてはなりませんわね。
辺境はどのような場所なのか少し期待を膨らましておりましたが、ハッキリと申し上げまして特別な何かはありません。
住民や騎士様達は多くもありませんが、そこそこいらっしゃいますし、商店も多くあり繁盛しておりますが、王都の商店に比べるとどうしても劣ってしまいます。
それに自然もそれなりに囲まれておりますが、どうしても建物や街灯があるものですから、山の中ほどではありません。
全般的に様々な要素が揃っていらっしゃるというのが、わたくしが抱いた感想でございます。
元々は1ヶ月ほど滞在しようかと思いましたが、新たな刺激は無さそうなので、半分の2週間だけ滞在しようと決めましたわ。
そのため、そうと決まりましたら、マリアとの2人で2週間だけ雇って欲しいとお願い致しまして、無事に仕事に就くことが出来ました。
流石に今日からとは参りませんでしたので、今日は休憩でございますわね。
折角なので、市場へと参りましょう!!
「マリア、市場へ向かうのは久しぶりでございますわね」
「そうですね。約3ヶ月振りというところでしょうか」
「マリアは何か買いたい物はありますの?」
「そうですね……そろそろ日用品を買いたいところです。あと服も何着か買えたら嬉しいですね」
「そうですわね……私もマリアの意見に同意致しますわ。ですが、もう3ヶ月も何もまともに買っておりませんでしたもの。今回ばかりはご褒美で少し奮発してあれを購入させていただきますわ!!」
「あれって……もしかして……」
「はい、緑茶ですわ」
緑茶を購入したのは、初めてのお買い物のみでございます。
勿論大変高価でありますので、大切に頂いてはおりますが、それがもうそろそろ無くなりそうでありまして、購入しようと決めました。
紅茶も美味しいのですが、やはりどうしても定期的に頂きたくなるのが緑茶でございますもの。
こちらでは最初に買った時よりも少しお安く、銅貨7枚で一袋購入出来ました。
そのため、今回は3袋も購入してしまいましたわ。
相変わらず高価なのには違いありませんが、素敵な買い物が出来たと思っております。
他に必要だと思った物は一通り揃えることが出来まして、マリアと共に安心致しましたわ。
マリアはこの辺境地での名物を購入して満足しておりますし、今回はここらで帰ると致しましょうか。
◇◇◇◇◇
「マリア、早速御茶を淹れてくださることは出来ますか? 緑茶を頂きたいですわ」
「勿論です。新茶なのでなお美味しいでしょうね。私も一緒に飲んでも良いですか?」
「勿論でございますわ。これから誘おうと思いましたもの。折角なのでこのお菓子と共に頂きましょう」
「こちらは見たことないお菓子ですね。ただ美味しそうです」
「きっとマリアも煎餅を気に入ると思いますわ」
マリアは直ぐ様にお湯を沸かし始めて、そして茶葉を用意してくださります。
最初は流石に見慣れない御茶でしたので、少し失敗をしておりましたが、次からは普通に理想的な温度で緑茶を淹れてくださるようになりましたの。
マリアには何も出来ないことが無いのではないかと思うほど、すぐに完璧に熟すようになりますわよね。
現在進行系で手際良くしてくださりますから、もう何度感じているのか分かりませんが、やはりマリアは優秀なのだと実感致しますわ。
それにしても、まさかマリアの方から緑茶を飲みたいと仰ってくださるだなんて……わたくし感激致しました!!
なんせ今までずっとマリアには緑茶を一緒に召し上がって欲しいと頼み込んでおりましたが、折角高値を出して購入されたものだからと、断られる一方でして、ついに前回召し上がってくださるようになりましたの。
やはり緑茶が美味しかったのでしょう。
その結果、マリア自らお召し上がりたいと仰ったのですわ。
緑茶愛好家としては、本望でございます。
本来でありましたら出会った人々、いえ全人類の方々に緑茶を召し上がって頂きたい……そして緑茶の魅了に気づいて欲しいのですわ。
ただ高価で中々買えませんから、簡単に勧めることが出来ないというだけでございまして……うぅ、少し悔しいですわね。
「レイナ様、お湯が沸きましたので御茶をいれますね」
はぁ〜なんて良い香りなのでしょうか。
もうこの時点でリラックスしてしまいますわね。
あ、やはり飲み心地が良いでございますわ。
こんな風に穏やかな気持ちで頂くのも当分はないかもしれませんね。
この国は問題点もありますが、どの地域も生活が充実しており、とても平和ですもの。
他の国に出れば、このように過ごすことが難しくなるかもしれません。
正直に申し上げまして、今はこの素敵な国にずっと過ごしたいとも思いますが、それでもわたくしは旅を続けると決めましたから、続けなければなりませんわ。
それはずっと付いてくると傍に居てくださるマリアと、婚約解消までして応援してくださったフレディ様との約束でございますから。
それにしても、そろそろクリスティアナ様との婚約の話が流れてきそうですのに、全然聞きませんわね。
本来の小説では、わたくしが追放されてすぐにお二人は婚約されましたが、原作が変わったことで進行が遅れていらっしゃるのかもしれません。
どうして、そのことに安心感を覚えてしまうのでしょうね。
もう2度と会わないと決めた方ですのに、たまにふと思い出してしまうのが、悲しくて寂しさを感じてしまいますの。
元気に過ごしてくださると良いのですがね。
「レイナ様、このセンベイというものも美味しいですね。私、これ好きです」
「やっぱり好きだと仰ってくださると思いましたわ」
あら、いけませんわ。
つい思いに馳せてしまって、煎餅を頂くのに1つ遅れを取ってしまいましたわね……やはり煎餅美味しいですわ。
それも緑茶との組み合わせは最高でございますわね。
そのように頂いておりますと、あっという間に緑茶は少なくなりましたわ。
そろそろ名残惜しいですが、御茶会もお開きですわね。
しかし、まさかそんな時に事件が起きてしまいましたの。
「可愛いお姉さん達、俺と一緒に遊ばない? 楽しいよ〜」
なんと1人の男性が、私達にナンパをして参りましたの。
しかし、それは普通の誘い方とは違いまして、何だかお酒でも呑んで完全に酔いしれていらっしゃるかのような高揚感を醸し出して、近づいて参りました。
それでいて、何だか焦点が定まらないようで、顔は私達の方に向いておりますのに、目線が決して合うことはありませんでしたし、別にお酒の臭いは一切しませんから、とても不思議に思いましたわ。
「ほら早くこっちにおいで。これ美味しいよ。一緒に食べようよ」
持って来られたのは、なんとも美味しそうなチョコレートでございました。
しかし、明らかにそれを食べたせいで、その男性が可怪しい状況になっていることが分かりましたの。
「申し訳ございませんが、わたくしには頂くことが出来ませんわ」
とてもそんな怪しい物を口にすることが出来ずに断ってしまいましたが、これはどうすれば良いのかと、私にはどうすることも出来ずに思い悩んでいたとその時でございます。
「おい、食べろよ!!」
なんと固辞したことに大きな腹を立てて、私達に襲いかかろうとしたのです。
マリアはわたくしを守ろうと前に出ようと致しましたが、それよりも前にわたくしは反射的に腕を伸ばして彼をはね避けようとしたところ、持っておりましたカップが彼に傾きまして、残っておりました緑茶が彼の顔面を思いっきり濡らしてしまいましたの。
すると、彼は襲うのをやめて、一気に正気に戻られたのです。
「あれ? どうして収まったんだ? あ……いえ、先程は本当にすまなかった。まさかあんなことをしてしまってなんとお詫びをしたら良いのか……」
彼は全身全霊で頭を下げて来られました。
わたくしは次々と変わる態度について行くことが出来ずに、更に混乱するばかりですわ。
ここは単刀直入に尋ねる方が良さそうですわね。
「何も無かったのでお気になさらなくて大丈夫ですわ。ただ、どうしてこうなったのかお聞かせいただけますか?」
「実はこのチョコレートを食べたら急に気分が良くなって……無性にこれが食べたくなるし、人にも進めたくなったんだ。実際に俺の周りではそのような状況に陥っていて」
「何ですって!?」
まさかまさかの最後の場所でこんな悍ましいことが起こっているなんて夢にも思いませんでしたわ。
こんなの放っておくことなど出来ませんもの。
今すぐに彼の所へ向かうと致しましょう。