まさか初めて稼いだお金であれを購入するとは思いませんでしたわ
「1カ月お疲れ様。これが今月の給金ね」
「ありがとうございます!!」
遂に念願のお金が手に入りました。
この封筒に入っている硬貨の重みがこんなに嬉しく思う日が来るだなんて、夢にも思いませんでしたわ。
さて、旅館に戻ってマリアと一緒に確認致しましょう。
◇◇◇◇◇
「1枚、2枚、3枚、4枚、5枚………………1枚、2枚、3枚、4枚、5枚…………1、2、3、4、5……1、2……」
「レイナ様、どんなに数え直しても稼いだお金は変わりませんよ」
「マリア、これは渡し忘れとかではありませんよね?」
「違いありません。庶民の給金はこれぐらいです。まあ、少なめではありますが、レイナ様は簡単な仕事しかしていないので」
「確かにそうではありますが……ここまで少ないとは思いませんでしたわ」
「どのぐらい貰えると思っていたのですか?」
「銀貨50枚くらいかしら?」
「……世間知らずにもほどがありますね。私の公爵家メイドとしての初任給が銀貨10枚ですよ」
わたくしが世間知らずなのは前からですもの。
それはわたくし自身も自覚はしておりましたが、ただ……ここまで感覚がズレていたとは夢にも思いませんでしたわ。
本当に皆様は、苦労してお金を稼いでいらっしゃるのですわね。
それに比べてわたくしときましたら、チートを使って簡単にお金を稼ごうという野望しか抱いていなかったように思われます。
なんと浅はかな考えだったのでしょう。
わたくしは本当に世間を知らな過ぎますわ。
「レイナ様はこの生活にずっと耐えられますか? 私は素直に王太子妃になった方が賢明かと思います」
「いいえ、寧ろ反対ですわ。国民のことを存じ上げませんのに、将来の国母になる方が問題でございましょう」
「しかしもう期限がありませんのに……」
「マリア、もうそれ以上は仰らないでくださいませ」
「レイナ様……分かりました。私からはもうこれ以上は言いません。覚悟を受け取りました」
マリアごめんなさい。
強い口調になりましたが、わたくしはもう王太子妃になる覚悟がありませんわ。
こんなこの国の政治も経済もハッキリと分かっていないわたくしが、フレディ様の隣に立つのに相応しくはないでしょう。
マリアは不本意だと思われますが、同意してくださり……嬉しく……えぇ嬉しく思います……わ。
あら、旅を理由に王太子妃になりたくないと思ったのは初めてですわね……どうしてなのでしょうか?
◇◇◇◇◇
「マリアは今回の給金どれぐらいお受け取りなさいましたの? 」
「私は今回で銀貨12枚ですね」
「12枚ですって!? 先程公爵家のメイド時代の初任給が銀貨10枚と仰っていたじゃないですか」
「様々な仕事を熟したらそれぐらい稼げました」
マリア、貴女はやはり有能なのですね!!
いえ、有能にもほどがありませんこと?
公爵家のメイドはけして安くはないと言いますか、寧ろ高い方ですわよね?
それよりも高いとは本当に恐ろしい方ですわ。
何だかわたくしの側に付いていただくのは、忍びないと申しますか……縛り付けているような感覚に陥ると申しますか……。
麗奈の時は、どんなにお手伝いさんが有能であったと致しましても、そんなことを思ったことがございませんでしたのに。
アリスになってから、考え方や認識がガラッと変わった気がします。
本当に一緒に過ごしてもらうのは申し訳ないと思いますが、マリアはずっと側にいると誓ってくださったのです。
ここで改めて尋ねるのは、野暮というものでしょう。
だから今はこれだけは申し上げたいのです。
「マリア、本当にわたくしの側にいてくださいまして、ありがとうございます」
「レイナ様、急に何を言いますの? 少し不気味です」
「何が不気味ですの? 私はただ感謝を申し上げたかっただけですのに」
「あはは……そこまでムキにならなくても。ただ素直に嬉しいです。こちらこそレイナ様の側にいられて幸せですからね」
マリア、貴女は本当に泣かせ上手ですわね。
わたくしは泣きはしないものの、痛く感動致しましたわ。
「マリア、これからが本題ですわね」
「本題とは一体なんですか?」
「本題とは……勿論稼いだお金の使い方ですわ!! 今までの使い方は出来ませんもの。」
「そうですね……まず絶対に使うお金は食費、そしてこのままのスタイルだと宿泊費。そしてたまに散髪などのサービス料、あとは趣味でを残りのお金を使う形だと思われますが……」
はぁ〜、困りましたわ。
そもそもチートが目覚めて、各国の旅を行う予定でしたから、家を持ったり契約して買ったりする方法は考えたこともありませんでしたもの。
このままですと、とてもではありませんが宿泊費は免れることはありませんわね。
ただ宿泊費はかなりかかりますから、悩ましいところですわ。
もしこの国にずっと滞在するのであれば良いのですが、今は持つつもりもありませんもの。
使用するお金削りたくても中々出来ないものですわね。
◇◇◇◇◇
今日は仕事もありませんので、マリアと共に久しぶりの市場に来ております。
来るのは本当に1ヶ月ぶり。
初任給も入りましたし、少しくらいならご褒美として使っても良いとマリアが仰ってくださいましたの。
自分の稼いだお金で物を買ってどのような感覚なのでしょうかね?
えっと……そもそも散財していた頃に好きなものや欲しいものを買っておりましたので、中々惹かれるものがありませんわね。
多少なら購入しようと思いましたのに、もう3時間もあっという間に経ってしまいましたわ。
まあ、眺めているだけでも楽しいのは間違いないのですがね。
それでも中々欲しいものがなく、このまま何もなく宿に帰ろうとガッカリしていたのですが、そんな矢先にわたくしは気になるものを見つけてしまいました。
「これは緑茶!?」
「リョクチャ? そんな名前のものではないよ。これは確かにかなり珍しくて中々手に入らないから高価だけどね」
「希少なのですか……」
「希少だよ。次いつか入るか分からないからね」
「これはどのように御茶を作りますの?」
「あぁ、これはね……この変わったポットと取ってはないコップを使うみたいなんだよね」
「やはり、それは間違いなく緑茶ですわ!!それを可能な限り買わせていただきます」
「今あるのは10個だから、銀貨が1枚だね」
「1つ購入するだけで、銅貨が10枚と必要なのですか?」
「本当に無いからね。それぐらいは必要だね」
本来なら全て買い占めたいところですが、マリアからは銅貨30枚ぐらいが限度だと仰られましたし……ここは我慢するしか無さそうですわね。
「それでは2つの茶葉をくださいな」
「全部買わないのかい。なら銅貨20枚ね……毎度あり」
これで買い物は無事終了ですわね。
まさか初めて自分の力で稼いだお金で購入したのが緑茶だなんて、不思議な縁ですわ。
ただわたくしは緑茶が大好きでありますので、この世界でも飲むことが出来るだなんて喜びしかありませんわね。
こんなに自分の稼いだお金で、物を買うというのは奥深いものですわ。
◇◇◇◇◇
「マリア、私が今日買った御茶を入れてくださりますか?」
「はい、今から入れますね」
もう封を明けただけで、とてもいい香りがしますよね。
充満した緑茶の匂いがとても懐かしく感じます。
これはもう今から楽しみですわね。
――数分後
「マリア、これは熱すぎます!!」
「いつも通りに入れましたが……」
「緑茶は紅茶よりも20度ほど低く入れないと美味しくないのですわ」
「それは前もって仰ってくださらないと分かりませんよ。ただ20度より低いというのは入れたことがないので難しいかもしれません」
わたくしが入れることが出来たら何の問題もないのでが……やはり美味しい緑茶を飲むのはまだ道のりが遠そうですわ……。
緑茶を1番最初に購入したのは失敗かもしれませんわね……。