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この世には珍しい物が多くございますのね


 わたくしは部屋に帰る途中で、侍女に出会いまして、これはすぐに頼むことが出来るチャンスだと思い、尽かさずに、国外追放される際に持っていく物を頼みました。


「あの今すぐに、身軽に動かせる服を3セットと、水筒、タオル3枚、マッチ、テント、寝袋、ライト、お皿、スプーン、フォーク、ナイフ、ロープ、保存食、そして金貨10枚と銀貨30枚、銅貨100枚を用意してくださいな!! 」


 小説がないのにも関わらず、一言も噛まずにスラスラ言うことが出来たなんて、流石わたくしですわね。

 何だか誇らしいですわ〜。

 

「お嬢様、急に一体どうしました? 何故そんなキャンプグッズが必要なのですか? お嬢様は今安静にしなければなりませんのに」

()()()()欲しいのですわ。勿論安静にしますからよろしくお願いいたしますね」


 確かにどうやらわたくしは体調不良のようですが、残された時間は1週間。

 1秒だって惜しいものです。

 こんなところで躓いたら全てが終わりですもの。

 どうか私の願いを叶えてくださいませ。


「はあ〜。こうなったらお嬢様は意見を変えませんものね。後で持って行きますので、()()()()お部屋にお戻りください」


 まさかわたくしが強調して申しました「今すぐに」が、強調されて返ってくるとは思いませんでしたが、どうやら受け入れてもらえたようで安心しましたわ。

 ここは素直に部屋に戻るといたしま……あれ、 わたくしの部屋は何処にあるのでしょうか?

 分かりませんわ〜。


 ◇◇◇◇◇


 他の近くにいらっしゃった侍女に何とか部屋に連れて行ってもらいましたものの、今度は大変心配をかけてしまったようで、しっかりとベッドに寝かされてしまいました。

 それにしても、このベッドフカフカで気持ち良いですわね。

 前のわたくしのところのベッドと良い勝負ですこと。

 彼女が物を届けてくださるのも、もう少し時間がかかるでしょうし、少し眠ろうかしら?


「お嬢様、例の物をお届けしました。入ってもよろしいでしょうか?」

「ええ、勿論です。早くご入室なさってください」


 まさかこんなに早く物を届けてくださるなんて、何と優秀なお方でしょう!!

 もうこんなの感動ですわね!!


「ところで貴女のお名前は何と仰るのでしょうか? わたくしは、マナーズ公爵の娘であるアリス・ブリジット・マナーズと申します」

「はあ? お嬢様、熱に浮かされて頭のネジでも外れましたか? 私はマリア・スミス。ナニーであるクレアの娘で、今は貴女の侍女です! 幼い時から一緒にいる私の名前を忘れるなんて……。それに何故自分の名前を堂々と紹介するのかも意味不明です」


 これは不味いですわ。

 そんないつもお世話になっている方の名前を忘れるなんて、怒って当然ですわよね。

 わたくしが名前を名乗ってしまったのは、淑女として名前を聞く際は自分の名前を明かしてからというのがお決まりでしたから、つい流れで言ってしまったのですが。

 取り敢えずこの状況をどうにかしませんと……。


「マリア、ごめんなさい。まだどうやら熱が冷めてないようです」

「そのようですね。何故かキャンプグッズを持って越させますし。やはりこれらは持ち帰りますね」


 折角実物に触ることが出来るのに、そのままお持ち帰りなんて困りますわ!!

 どうにかしてして引き止めなくては……。


「いえ、それらは必要なのです。持って来てくれてありがとうございます。今からそれらについて1つずつ説明を頼みますわ」

「は〜あ? お嬢様自ら仰いましたのに、何故私が説明をしなければならないのです?」

「わたくしは名前しか知らないため、どれがどれだか分からないのです」


 実物を触ることは勿論、間近で見るのも初めてですから、そりゃ分かりませんわよ。

 説明していただけなければ、理解できませんもの。

 分からないまま、持っていても猫に小判でございますし。


「何故名前しか知らない物が必要なのですか? 意味不明です」

「その理由はどうでも良いのです。取り敢えず今すぐにこれらの物について説明してくださいませ」

「あー! もう分かりました! こうなったら説明するまで意思を曲げませんもの。私がご親切に分かりやすーく教えてさしあげましょうか」

「 マリアはなんて優しいの!!」


 親切に分かりやすくだなんて、なんて優しい方なのでしょう。

 あのマリア様のように、本物のマリア様に見えますわね。

 なんて名前がピッタリなことでしょうか。


「あの〜お嬢様、私が嫌味で言ったことに気づかれていらっしゃらないってことではありませんわよね」

「あら、もしかして嫌味でしたの。そうだといたしましても、親切に分かりやすく教えてくださるのであれば、これ以上に嬉しいことはありませんわ」


 嬉しすぎて嫌味だということですら気づきませんでしたわね。

 普段のわたくしなら気づいていたでしょうが、何せ普段と状況が違って興奮ばかりしてしまいますもの。


 ◇◇◇◇◇


「これがテントを組み立てる素材です」

「まあ、こんなに多くの素材がございますのね。今すぐ組み立てて……」

「ここでは無理です。次回にしてください」


 こんな薄い布から住まいが出来るだなんて不思議ですわね。

 ここで出来ないのが残念ですわ。

 それにしても組み立てが難しそうですが、わたくしに出来るのか少し不安になりますわね。


「これが寝袋です。このチャックで開け閉めをします」

「これが寝袋……なんだか思った以上に薄いですわ。寝心地はっと………………全く心地良くないですわね。ベッドの方が気持ちいいですわ」

「当たり前です!! あくまでもこれは寝袋です。お嬢様が普段使用しているベッドと比べるなんて持って他ですよ」


 これだと体が痛くなりそうですが、冒険者はこれを用いることも多々あるなんて凄いですわ。

 わたくしがこんな中で寝て大丈夫かと、少し不安になりますわね。


「そして説明不要だとは思いますが、こちら右からライト、ロープ、マッチでございます。他はもう紹介しなくても大丈夫ですよね?」

「あら、これがマッチなのですね。どうやって火をおこしますの?」

「マッチも知らなかったのですか……使い方としては隣にあるザラザラとしたところで、マッチの頭の部分で擦ると火が点きます」

「えっと………こうかしら? 全然火が点かないわ……」

「勢いが足りませんね。貸してください……こうです。ふぅ」

「そんなに早くスライドしなくてはなりませんの? なんか難しそうですわね」

「今のお嬢様では無理かと。それに火事になられても困りますので、ご遠慮願ください」

「火事を起こすだなんて失礼な……まあ今回は大人しく引き下がりますわ」


 本当は火を点けてみたかったのですが、マリアのやっているのを見ると、火が指に移らないかと少し怖さを感じてしまいましたので。


「あら……これがお金ですの?」

「はい、名前の通り金色が金貨で、銀色が銀貨、銅色が銅貨です」 

「これってどれぐらいの価値がありますの?」

「銀貨1枚が銅貨100枚分、金貨1枚が銀貨100枚分です。銅貨が2〜5枚あれば食べ物や雑誌などを基本買えますわね。銀貨だとかなり良いものを買えますし、金貨だと高級な物を買うことが出来ます」


 確かに小説の中のアリスも基本銅貨で支払いをされておりましたが、その理由が納得しましたわ。

 それにしても金貨の価値って相当なものですのね。


「紙幣などはないのでしょう」

「はあ? 何ですか、紙幣とは」

「いえ、何でもですわ」


 そう言えば、こちらの世界では紙幣はありませんでした。

 わたくしのところでは紙幣が主流でしたからつい。

 と言ってもお金を間近で見たことがないので、少し前にお札が変わったと言われても全く分かりませんでしたが。

 それにしても、現金なんて使ったことがありませんから、ちゃんと使えるか不安ですわね。



 それにしてもわたくし、こんなに不安と恐怖を抱えて本当に冒険者になれるのでしょうか?

 いえ、この不安と恐怖を乗り越えてこそ自由が手に入りますもの。

 それにわたくしはこのあとチートで解決しますもの。

 そうチートに目覚めて、わたくしは世界一の冒険者になるのです!!

 物の準備も揃いましたし、大丈夫ですわ。  

 と言っても多少は不安ですから、残り1週間で出来るところまではしなくては。


「マリア、やはりわたくし外に出て色々と練習がしたいわ」

「絶対に絶対に駄目です。今日のお嬢様は変なのですから、これ以上変になられても困ります!!」

「あら、残念ですわ」 


 今日はここで引き下がるしかなさそうですね。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 世界一の冒険者を目指して、準備に余念がないアリスと、侍女のマリアのやりとりが面白かったです。 たしかにマリアも急に自己紹介されてびっくりしたでしょうし、アリスとしては人に名前を聞く前に名…
[一言] 可愛いですわ( ˘ω˘ )
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