王太子殿下からのご指導開始ですわ
「アリスは具体的に何を聞きたいんだい?」
「具体的にと申しますと?」
「どうやって話相手を見つけたら良いのかとか、どのような話題を振ったら良いのか、どのように話したら良いのかとか、色々切り口があるだろう?」
そこまで考えたことはありませんでしたわね。
今までただ自然と馴染めるように話すことしか頭にありませんでしたが、様々な切り口があるとなりますと、勉強するのは大変そうですが、学びがいはありますわ。
それにしても、何から話を伺うべきなのでしょうか?
やはり、王太子殿下が1番最初に挙げたことを尋ねるべきなのでしょうね。
「まずは、どのようにして話相手を見つけたらよろしいのか、お伺いしたいですわ」
「こらこら、名前は?」
「別にフレディ殿下と呼んではおりませんが……」
王太子殿下、どうしてそんな悲しい顔をされるのでしょうか?
わたくし、今のところ約束を破ってはおりませんわよ。
「アリス、俺は名前を呼んで欲しいの。お願いする時はちゃんと名前を呼んでくれないと、教えないよ」
「フレディ様、お願い出来ますか?」
「よろしい」
悲しんだり、喜んだり、表情の動きが激しい方ですわね。
転生前では、出来るだけポーカーフェイスを保つようにと言いつけられておりましたが、この国の貴族や王族の方もそうではないのでしょうか?
最近のわたくしは驚くべきことが多すぎて、とてもではありませんがポーカーフェイスなんて保つことは出来ておりませんが、別に王太子殿下はそこまで驚く出来事などないでしょうに。
あら、王太子殿下が嬉しそう語り始めましたわね。
「まずアリスに質問。話かけたいと思った時に、アリスはどんな人に話しかけようと思う?」
「近くにいる方から話しかけると思いますわ」
「それでは上手くいかないよ」
どうしてその方法だと上手くいかないのでしょう?
だいたい夜会とかでも、予め話し相手が決められているのであれば話は別にですが、そうでない限りは出会った方とお話しますわよね。
あ、また話し始めましたわ。
「アリス、それって夜会のことを意識していない?」
「どうして分かりましたの?」
「アリスは、こういうところに出向いたことがないように見受けられたから。そもそもアリスは家にひきこもっていたとも聞いているしね」
図星ですわね。
何もかも見透かされております。
実際に小説でも、アリスは基本外に出ることは許されず、出るのは本当に大きな夜会のみ。
それも、常に隣には父の公爵がついているため、公爵を恐れて令息達から声をかけられることは一切ありませんでした。
それは、全て王太子殿下の妃になるために公爵により徹底されていたのです。
そんな状況に嫌気をさしたアリスは、あのような行動を取って、見事に王太子殿下の妃から外され、そして公爵からは勘当され、ようやく自由の身になったのですわ。
でも、よくよく考えたらわたくし達は似ているようで異なっておりましたのね。
わたくし、麗奈の場合は許婚がおりましたから、そんなことを心配することもなく、寧ろ繋がりを大切にしろと様々な所に行かされましたもの。
かと申しまして、自由はないので大変なのですが……。
「ここは夜会と違って、出会いの場を求めているところではないんだ。みんながそれぞれの生活をしているところなんだよ。だから、人がしていることも違うし、目的も違う。感覚も違う。そんな中で夜会と同じように接していても上手くいくはずないんだよ」
確かに仰る通りですわ!!
尋ねる場所が違えば、文化も思考も変わることは至極当然のこと。
そんな大切なことを失念しておりましたのね。
転生前の時も、そんな違いをそれぞれの国や地域を尋ねる度に覚えさせられましたわ。
流石に一気に10地方の文化やマナーを理解しろと申し付けられた時は、面倒だと大変憤っておりましたが。
あぁ、思い出すだけで腹が立ちます。
わたくしはロボットではありませんのに。
本当に、わたくしを道具としてしか見ていないのですから。
でも、今思えばこれからの旅に役立つと思えば、案外悪くなかったのかもしれませんわね。
あ、そう言えばアリスは様々な国を尋ねる度にいつも姿勢を変えてコミュニケーションを取っておりましたわ!!
アリスのファンとしてそんなことを失念していなんて、失格と言っても差し支えないではありませんか。
これは絶対にものにしなければなりません!!
「フレディ殿下ではなく、フレディ様。ではどのようにして、話し相手を見つけたらよろしいのですの? 是非とも教えてくださいませ!!」
「アリス、急に近づいてくるのやめてくれる? 嬉しいけど、驚くから」
「別に驚くことはありませんでしょう。一応形とは言え、婚約者なのですから」
「形でも何でもなく立派な婚約者だけどね。そこまで言い切られたら悲しくなるからやめて……」
「お気になさらず!!」
「いや、こっちが気になるんだよ」
確かに許嫁ともここまで真正面から近い距離を取った記憶はありませんわね。
まあ、わたくし達は馬が合わなかったので、致し方がなかった部分はあったのですが……。
流石に失礼な態度を取ってしまったかしら?
ならいっそのこと、そのまま嫌悪感を抱いてくだされば良かったのですが、何故か笑みを浮かべており、とてもではありませんが、喜んでいらっしゃるようにしか見えませんわ。
何を考えているのか、全く読めませんわね。
「まず話すということは、相手の時間を取るということを理解しなければならない。つまり、忙しそうにしている人に話しかけてもまずは無視されることが多いんだ。だからちゃんと話し相手を見つけたいなら、時間にゆとりを持っている人に話しかけるのが1番手っ取り早いね」
「確かに今日話しかけた方は皆様忙しそうでしたわね」
「そうだろ。それに時間帯もけっこう大切で、朝は忙しい人が多いから、夜の方が話に乗ってくれやすいよ」
「時間帯も大切なのですね」
確かにわたくしが話しかけようとしている人達は、予め約束を取り付けて時間を確保してもらっている訳では無いのですから、当然と言えば当然ですわ。
しかし、話す=時間を取るだなんて発想はありませんでしたわ。
大変分かりやすい指導ですわね。
ただ、やはり気になることが出てきましたわ。
「フレディ様、話しかける相手が誰でも良い場合はそれが1番良い方法なのでしょうが、特定の方に話しかけたい場合は一体どうすれば良いのでしょうか?」
「良い質問だね。確かにこの人に話を聞いたいということもあるよね。ここでは、どんな質問するかというのにもよるのだけど……すぐに聞ける話だったから、時間は取らせないので協力お願いしますとか、重要な話だと、凄い大切なことなので今時間をくださいとか、取り敢えず理由を述べて頼むことかな。こういうのって、意外と情につられて協力してくれる人も多いんだ。ここの国の人はおおらかな人も多いからね」
王太子殿下、この国の方のことを述べれた時に何とも柔らかい表情をされておりましたわね。
本当にこの方は、この国の人達のことを理解し、誇りに思っているからこそ、そんな表情が取れるのでしょうね。
それに比べてわたくしは自分のことばかり……。
こんな方と一緒にいたら、わたくしが幼稚に見えてきましたわ。
それに何だか王太子殿下が輝いて見える気がします。
まあ、間違いなく気の所為なのですけど。
ただ、羨ましいという気持ちが出ているのが不思議ですわね。
王太子殿下という不自由な身でありながら、羨ましく感じるなんて、わたくしどうかしてますわ。
正気を取り戻してくださいませ。
わたくしはアリスになるため、自由を手に入れるために頑張るのですからね。
決して王太子妃になるためではありませんわ。
「フレディ様、それではいざ話を切り出す時に、どのような話題を振ればよろしいのですの? 相手の家のことや業績を尋ねたら良いのでしょうか?」
「また夜会に引っ張られている。そこは気軽に話せば良いんだよ。天気が良いですねとか、好きなことは何ですかとか、何故ここに来たのですかとか、切り口はいくらでもある。あとはそれをどれだけ繋げるかだけだ」
「その繋げ方が分かりませんわ」
「う〜ん。これは慣れだからな。実際に体験した方が早い。ではこれから抜き打ち試験ってことで、ここから向かうところで誰かに話かけて、話題を振ってごらん。難しそうなら俺がサポートするから。何でも経験さ」
「まだ全然教わっておりませんのに無茶振りではありませんの?」
「こういう世界では、臨機応変が何よりも大切だよ。さっさとやる」
「ちょっとお待ちくださいませ!!」
わたくしはただ、王太子殿下から上手く話せる方法を尋ねたかっただけですのに、どうしてこのような展開になりますの!?
前代未聞ですわ〜。