マリア、その勝負お受け致しますわ
それにしても何故こうなってしまったのでしょう。
1番最初の想定は、わたくし1人が楽しく旅をするはずでした。
そして、それが出来なくなってしまったからと、仕方なく妥協した案が、侍女のマリアと2人で旅をすることでした。
しかし、現在は王太子殿下と王太子殿下の従者1人の合計4名で旅をしております。
これは一体どういうことですの?
もう、婚前の新婚旅行みたいな雰囲気を醸し出して!!
わたくしは、こんな旅は一切望んでおりませんわよ。
「アリス、あの景色綺麗じゃない?」
こんな不機嫌なわたくしに対して、よくも抜け抜けと話しかけられますわね、王太子殿下。
もうその手には乗りませんわ。
「そうは思いませんわ……なんと素敵なところでしょう。あの光加減は素晴らしいですわ」
ここで、綺麗ですわなんて言ったら話に乗せられて、王太子殿下の思うツボですものね。
わたくし、前回でしっかりと同じ失敗は繰り返しませんわよって……………………どうしてここでアッサリと素直に申してしまいますの。
愚かにもほどがありませんか?
それに、王太子殿下もクスクスと笑っておりますし……そんなにわたくしの反応が面白いでしょうか?
「ねぇ、あそこにいるリス可愛いよな」
「あそこにある果物、美味しそうだな」
勝手に話しかけて楽しんでいる王太子殿下に乗せられながらも、反面で苛立ちも募ってしまいました。
このフランク過ぎる王太子殿下を誰か止めて欲しいものですわ。
いえ、こうなったらわたくしが王太子殿下を止めさせていただきますわ。
わたくしなら出来ます、わたくしなら出来ます、わたくしなら出来ます……わよね?
もう取り敢えず止めて見せますわ!!
「フレディ殿下、もう話すのは止めましょう。これだと目的地に何時まで経っても到達しませんわよ」
「目的地って……そんなものないだろう」
「しっかりとありますわよ!! 取り敢えずこの国から出ることが目的ですもの」
「え? 国を出てって……」
そうですわ、わたくしはこの国から出ることが目的ですから、こんなところでウジウジとしている場合ではありませんわよ。
早く、国から出ることに尽力しなくては。
「王太子殿下、お嬢様が国に出たいというのは比喩なのでお気になさらないでください。お嬢様はただいつもの暮らしから抜け出したいと仰っているだけですわ」
また、マリアが王太子殿下に向かって慌てて口を挟んでおりますわ。
そこまで隠すべきことですの?
「お嬢様、少しお疲れでしょう。王太子殿下、少しだけここから離れさせていただきます。すぐに帰ってきますから、ご心配なさらず……ではお嬢様、参りましょう」
「え? ちょっとマリア?」
わたくしは何故かマリアに手を取られて、奥の方への連れて行かれてしまいました。
マリアの手を握る力はかなり強く、少し痛みも感じますわね。
どうやら、マリアは怒っているようですわ。
いや、わたくし何もしておりませんわよね?
「レイナ様、王太子殿下の前であんな発言をなさらないでください!!」
「誤って素敵だとか、素晴らしいとか申したことですわね。それは本当に申し訳なく思っているわ……でもマリア、わたくしは反省しておりますのよ。だから次は……」
「それは良い反応ですから、これからも続けてください」
「 あれが良い反応とはどういうことですの。間違いなく、100点満点中0点の回答ですわ」
どうやらマリアの機嫌が悪化したご様子。
目が、目が怖いですわよ、マリア。
「レイナ様、私が言っているのは、王太子殿下に国外に出たいと仰ったことです」
「それは100点満点中100点満点の回答ですわ。わたくしの目的を可怪しいと思っていただかなくてなりませんもの」
「はい? そんなことをして王太子殿下に嫌われたらどうするのです? 無事に王太子妃にはなれませんわ」
そういうことでございましたか、マリア。
貴女はとても純粋ね。
しかし、わたくしがそんな素直に受け入れると思ったら大間違いでしてよ。
「マリア、確かにわたくしはこの旅が終われば王太子妃になると申しました。しかし、この旅はわたくしの自由に行うと申しましたし、何よりもフレディ殿下から断られれば、そもそも出来なくなりますでしょう。だからこれからは自由にさせて欲しいですわ」
マリア、どうやら言い返せないようですわね。
本当に素直に聞き入れてくださる方で安心しました……マリア、まだ何か仰りたいことがありますの?
「確かにレイナ様はそのように仰っておりました。ただ、レイナ様を旅に出来るように私が尽力したのも確かです。だか
らここは、お互いに自由にするのはどうでしょう。レイナ様は自由に行動されて、私はその行動を良い方向に向くように尽力させていただきます。今回みたいに咎めることは致しません」
確かにマリアの言う通り、この旅が出来たのはマリアのお陰で間違いありませんわ。
もし、マリアの尽力がなければ、わたくしは今頃王宮詰めでしょうからね。
うぅ、こういうことを言われてしまうとわたくしの良心が痛んでしまいます。
でも……わたくしがチートに目覚めればそれで済むことでございますし……………………しょうがありませんわね。
「マリア、その勝負お受け致しますわ。お互い好きに致しましょう」
マリアはまだ少し不満がありそうですが、これで折衷案が出来ましたし、後はチートが目覚めるように楽しんで旅をしましょう。
もうこれ以上は、フレディ殿下の調子には絶対に乗りませんからね。
勿論、マリアだって振り切ってみせますわよ。
さて、元の場所へ戻りましょうか。
「レイナ様、そちらではなくこちらです」
「もう……言われなくても分かっておりますわ!!」
ただ間違えただけなのに、マリア、そんな冷ややかな目で見ないでよろしいでしょう。
何だかデジャブのようなやり取りですが……気の所為ですわね。
では王太子殿下がいらっしゃるところに戻りますわよ…………って戻ってどう致しますの。
先程の間違いは、マリア達から離れるチャンスだったのではないのでしょうか。
そう考えると、大変惜しいことをしてしまいましたわ!!
マリアにははぐれないようにと、しっかりと手を握られておりますから、もう1人で離れることが出来ませんし……。
もうこのまま帰るしかありませんね……。
「2人ともお帰り。リフレッシュは出来た?」
「いえ、寧ろ疲れてしまいましたわ」
マリアは目を細めてわたくしを睨んでおりますが、どうやら先程の約束を守って何も怒りはしないようですわね。
何も言い返して来ないのは少し意外でしたが。
「そっか。まだ疲れが取れていないんだね。ならそろそろ今日の旅は終わりにしようか」
「旅を終わらせるですって……旅はずっと続きますわ!!」
「あはは……そんなに怒らなくても。旅はまだまだ続くのだからさ。さあ行こう」
「え? ちょっとどこへ参りますの?」
わたくしは、王太子殿下に手を取られて、勝手に誘導されてしまいました。
やはり旅を終わらすつもりですわよね、王太子殿下。
あの、わたくしが申し上げた疲れたという言葉はマリアと話していて疲れたという意味でありまして、決して旅に疲れたという意味はないのですが。
わたくしは、まだまだ旅を続けたいのです。
そのため、こんなところで帰されたら溜まったものではありませんわ!!
手を離してくださいませ。
勿論王太子殿下から手を離す意思は一切見せずに、力の差で負けてしまったわたくしは、そのまま引きずられる形となってしまいました。
というか、わたくしマリアにも負けておりますし、まだ誰にも力で勝っておりませんわね……。
今度こそ2人の手を振り切って、1人で自由気ままな旅生活が始めさせていただきますわ。
あぁもう、早くチート力目覚めてくださいませ!!