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どうやら小説の主人公に転生したようです


「わたくしが王太子の婚約者ですって!? 嘘でございますよね?」

「いいえ、アリス・ブリジット・マナーズ嬢が選ばれました」

「嘘ですわ! わたくしはこの後冒険者になるはずですの。このようなことはあってはなりませんのに……」


 わたくしは、ショックのあまり淑女らしからぬ形でその場で倒れてしまいました。


 ◇◇◇◇◇


 わたくしの現在の名前は、アリス・ブリジット・マナーズと申しまして、ライカ国のマナーズ公爵家の長女でございます。

 実はわたくし、「公爵令嬢は国外追放されましたが、持っているチートで世界一の冒険者になりました」というライトノベル小説の世界に転生いたしましたの。

 言っている意味が分からないですって。

 それなら、まずは転生する前のわたくしのことについてお話致しましょう。




 わたくしが転生する前の名前は宝月麗奈と、旧宝月財閥の社長の長女として生まれ育ちました。

 旧宝月財閥は戦前は勿論のこと、戦後の今でも日本では1・2を争うほどの大きい会社で、世界でも大きな影響を与えているところです。

 そんなところで生まれ育ったのなら、さぞいい思いをしてきたのではないかと思う方もいらっしゃることでしょう。

 確かに衣食住に困ることは一切ありませんし、お金に困るという感覚は全く持って分かりはしません。

 しかし、その代わりと申し上げて良いのでしょうか。

 わたくしには、自由というのは一切ありませんでした。

 わたくしの周りには常に誰かがそばにいらっしゃって、1人で行動することを許されませんでしたし、基本着替えや入浴ですら誰かが行っていらっしゃったので、自分が出来ることと言えば、勉強やマナーを身につけることぐらいです。

 趣味として行えることと言えば、由緒正しき本を読むことやわたくしと同じく令嬢であるご友人とお茶会をすることでした。

 そこでわたくしの唯一の楽しみは、ご友人とのお茶会。

 この時は気を使う人がいらっしゃらなかったため、息抜きとしては最高の一時です。

 そんな中で1番惹かれたのは、鷹宮カンパニーのご令嬢いらっしゃる綾華様でありまして、わたくし達とは異なる存在の方でございました。

 彼女のところは格式張らないのか、彼女自身もかなり自由奔放な方で、一般常識を持つお方です。

 そのため、馴染みのないわたくし達には大変興味深いもので、その時は見える世界が広がるような気がしました。

 そんな中で彼女が教えてくださった1冊の本が、先程紹介しました「公爵令嬢は国外追放されましたが、持っているチートで世界一の冒険者になりました」でございます。

 これこそが人生の価値観を大きく変える運命の一冊だったのです!!


 この本は本当にタイトル通りでして、王太子妃筆頭の公爵令嬢が婚約者選定会で王太子妃になる身として相応しくない行動ばかりを行ったことにより候補から外れてしまい、それに腹を立てた公爵が2度とこの国に帰って来るなと国外追放となったものの、持っているチートを活かしてバリバリ活躍し、世界一の冒険者になるというお話です。

 この本自体はあまり人気は無かったみたいですが、私にとってはこれ以上になく素敵な物語でございました。

 

 どんな状況でも前を向いて歩み続ける美しい姿勢。

 持っているスキルを無駄なく使い熟せる聡明さ。

 最初から最後まで釘付けになってしまう素晴らしいストーリー。

 見ていて惚れてしまう繊細なイラスト。

 もう何もかもがパーフェクトですわ!!


 おっと、これは失礼しました。

 この本のことを思うとどうやら熱くなってしまうようでして。

 どうやらわたくしはオタクと呼ばれるものの素質があるのだと思われますの。

 このままだと、この小説だけであと100万文字は余裕で語ってしまいそうな勢いですので、話を元に戻しますわね。

 この作品に出会った後、わたくしはこっそりとその本を買いまして何度もこそこそと拝読しておりました。

 こんな時でさえ、両親にバレないようにするのは本当に大変で疲れましたわ。  

 ここまでがわたくしが転生する前のお話でございます。

 

 ここからはわたくしが転生した時のお話に移りましょう。

 そんな中で、あの小説を楽しむこと以外は特に変わることなく窮屈な日々を過ごしておりましたが、なんと2024年9月11日16時頃に図書館で調べ物をしておりましたところに、突如本棚が倒れてしまいまして、そのまま意識が途絶えてしまいました。

 そして目を覚ますと、全く見覚えのないベッドの上で横になっておりましたわ。

 勿論最初は夢でも見ているのかと思い、何度も寝て起きて寝て起きて寝て起きてを10回ほど繰り返しましたの。

 しかし、何故かその景色から変わることはありません。

 そのため、取り敢えず部屋から出てみることに致しました。

 すると部屋を出てすぐに1人の男性と出会いまして、その方からこのような言葉を承りましたわ。


「アリス、何故歩き回っている!! 少しでも寝てさっさと体を休ませんか! 来週は王太子妃の選定会だぞ!」


 わたくしはこの方が何を仰っているのか分かりませんでしたし、また名前を間違えた挙げ句に呼び捨てと聞き捨てならなかったので、親切に教えてあげました。


「お初目にかかります。わたくしは株式会社宝月の代表取締役会長の娘である、宝月麗奈と申します。決してアリスというお名前ではありませんので、お気をつけくださいませ」

「何を言っている? お前は私の娘であるアリス・ブリジット・マナーズだ。公爵の娘であるのに変な名前を言うな!」

「アリス・ブリジット・マナーズ…………もしかして、貴方はマーク・リー・マナーズ様でございますか?」

「父の名前を確認する馬鹿が何処にいる? 肺炎を起こしたせいで意識がとんだとでも言うまいな」

「…………えー、どうやらわたくしは寝ぼけていたようですわ。そのため再び部屋に戻ろうと思います」

「さっさと戻れ! もし選定会までに治らなかったら、その時点で追い出すからな」


 なんと衝撃的な返事をいただいてしまいました。

 どうやらわたくしは大好き小説の主人公に転生したようです。

 何とも公爵のお言葉は物騒でございますが、それ以上の嬉しさでどうでも良いことでした。

 正直転生したなんて信じられませんが、あそこまで何度と起床と就寝を繰り替えてしても変わらないのですから間違いはないのでしょう。

 それにしても、もう少しで王太子の選定会なんて何とも素敵なこと!!

 それはすぐに冒険者になれるということであり、自由の身になれるということでありました。

 こんなに楽しみなことはありません。

 追放を宣言された時にすぐに持ち運べるように準備をしなくてはなりませんわ。

 このようにして転生したわたくしは、転生した直後にまずは"準備物は揃えよ"のクエストが開始しましたの。


 

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― 新着の感想 ―
おもしろかったです!
[良い点] 旧財閥のお嬢様が転生して…その言葉遣いがとても物腰柔らかで印象的ですね。そして、途中で本のことになると熱くなっていくところも、凄く面白かったです。 一話目から作品の中に引きこまれました。…
[一言] 転生前からお嬢様というのは、斬新ですね!
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