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【完結】ループ5回目にして、登場人物に第3皇子殿下が増えてしまいました  作者: えくれあ
番外編

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11/12

はじめての……(前編)

 

 これは、私がカミユ様と結婚してから、数年後の話である。




 その日は、皇后陛下からの呼び出しがあって、皇后宮を訪れていた。

 そして、用件も一通り終わって、皇子宮へと戻ろうとした時のことだった。


「あ、れ……?」

「おっと」


 気が緩んだのだろうか。

 ふと眩暈を覚えて立ち止まると、強い力で支えられるのを感じた。


「シェリル、大丈夫?」

「え?あ……皇太子殿下!?も、申し訳ありませんっ!!」


 顔をあげると、すぐ傍に皇太子殿下の顔があった。

 そして、どうやらふらついたらしい私は、しっかりと皇太子殿下に凭れ掛かってしまっていて、慌てて飛び退いた。


「大丈夫?具合、悪いの?」

「い、いえ。少しふらついただけです。お騒がせしてすみません」


 私は大丈夫だとアピールしながら、勢いよく頭を下げた。


「うーん……他人行儀だなぁ」

「え?」

「そろそろ、呼び方も変えない?お兄様、って呼ばれたいなぁ。うち、男ばっかりで、妹欲しかったし」

「はぁ……」


 そろそろ、なんて言うけれど、この日唐突に出た話である。

 あまりにも突然だったし、カミユ様のお兄様だとわかっていても、一国の皇太子を兄と呼ぶ気にもなれなくて、戸惑ってしまう。


「あ、あの……」

「やっぱりダメ?メアリーにもこの前お願いしたんだけど、絶対嫌だって言われちゃって……」

「そう、なんですか……」


 メアリー様というのは、第2皇子殿下の妃である。

 同じ皇子妃ということで私にはすごく親切にしてくださる方なのだけれど、気が強い女性で、なぜか自身の夫である第2皇子殿下も含め、皇子殿下たちへのあたりが非常に強い。

 そのため、カミユ様は強い苦手意識を持っているようだが、皇太子殿下は何かとちょっかいをかけては邪険にされている。


「ねぇ、ダメかなぁ?シェリルしかいないんだよ」

「えっと、では、セドリックお兄様、でいいですか?」


 もう一人はお兄様、とは呼んでいないものの、一応私には義理の兄となる方が二人はいるわけで。

 一応ややこしくないようにとお名前もつけて呼んでみたところ、皇太子殿下、もといセドリックお兄様は満足そうに笑ってくださった。


「いいね。よかったよ、片方だけでも、お兄様って呼んでくれるかわいい妹を連れて来てくれて」


 二人とも気の強い妃を選んでたらどうしようかと思った、なんて呟くセドリックお兄様を見ながら、私はこの場にメアリー様が居なくて本当によかったと思った。


「では、私はこれで」


 再度お辞儀をして、私はこの場を立ち去ろうとした。

 しかしながら、再び眩暈を感じ、私は気づけばセドリックお兄様の腕の中だった。


「す、すみません……っ」


 慌てて、すぐに離れようとしたのだけれど、今度はセドリックお兄様の強い力がそれを許してはくれなかった。


「うーん、やっぱり具合が悪いんじゃない?送っていこうか?」

「い、いえ、そんな……っ!本当に、なんとも……っ」

「あーっ!!兄上、シェリルに何してるの!?」

「えっ?」


 私とセドリックお兄様の会話は、突然のカミユ様の特大の声に遮られた。

 カミユ様はセドリックお兄様よりもさらに強い力で、私たちを引き離し、私の身体は今度はカミユ様の腕の中にすっぽりと収まっていた。


「あ、あの、カミユ様?」

「カミユ、誤解だって。シェリルが眩暈を起こしたから、支えてあげてただけだよ」


 かわいい弟に睨まれたことにショックを受けながらも、セドリックお兄様は誤解を解こうと必死だった。


「ホント?」


 カミユ様が問いかけた相手は、セドリックお兄様ではなく私だった。

 そのことにもまた、セドリックお兄様はショックを受けたようである。


「はい」

「具合、悪いの?大丈夫?」

「はい、大丈夫です。なんとも……って、え!?」


 気がつけば私の身体は宙に浮いていて、カミユ様にしっかりとお姫様抱っこをされてしまっている。


「か、カミユ、様……?」

「心配だから、このまま部屋に連れていくね」


 カミユ様はそう言うと、その場にセドリックお兄様の姿なんてなかったかのように、セドリックお兄様には声をかけないどころか、視線一つ向けないままに歩きはじめてしまう。


「あ、あの、ありがとうございましたっ!!」


 カミユ様によって運ばれながらも、あわててセドリックお兄様の方を向いてお礼を述べると、セドリックお兄様は苦笑を浮かべたまま手を振ってくれた。




 部屋に戻ると、カミユ様は医者を呼ぶと大騒ぎだった。

 けれども、部屋に戻った頃にはすっかり元気で眩暈が起こることもなかった。

 少し気が緩んだくらいでお医者様のお世話になるのも申し訳なく、結局私はカミユ様の申し出を丁重にお断りした。


 それから、特に体調に異常は見られないまま、数日が経過したある日のことだった。

 今度は皇帝陛下からの呼び出しを受けた、帰りのことである。


「っと、大丈夫?」


 またしても気が緩んだのか、眩暈を起こしてしまった私を受け止めてくれたのは、第2皇子殿下だった。


「ご、ごめんなさいっ」


 またしてもしっかりと凭れ掛かってしまっていた私は、既視感を覚えながらも慌てて第2皇子殿下から飛び退いた。


「兄上から、この前もふらついてたって聞いたけど、まだ具合悪いの?」

「いえ、そういうわけでは、ないんですが……」


 至って健康、なはずである。

 少なくとも私は、そう思っている。

 セドリックお兄様から先日の話を聞いた上に、こうしてふらつく瞬間まで見られてしまった第2皇子殿下はそうは思ってくれないようだけれど。


「ちゃんと、医者に診せた方がいいんじゃない?」

「そう、でしょうか……?」

「うん。その方が、カミユも安心するだろうし」


 私のためではなく、カミユ様のため。

 そう思うと、不思議なもので、一度しっかり診てもらっておこう、という気にもなる。


「そうですね。そうします」

「うん、いいこだね」


 よしよしと頭を撫でられるのが、くすぐったい。

 すっかり子ども扱いだと思ったけれど、不思議と嫌な感じはしなかった。


「ところで、兄上のことはお兄様って呼んでるんだって?」

「え?は、はい、まぁ……」


 直接呼んだのは、まだほんの数回程度だけれど。

 きっとこれもセドリックお兄様に聞いたのだろうけれど、こんなことまで話しているとは驚きである。


「いいなぁ、兄上にはお兄様って呼んでくれる、かわいい妹がいて」


 これは、遠回しに第2皇子殿下もお兄様と呼べと言われているのだろうか。

 残念ながら、答えを教えてくれそうな人は近くに居ないため、自分で判断するしかない。


「え、えーっと、フィリップお兄様……?」


 おそるおそる呼んでみると、第2皇子殿下、もといフィリップお兄様の目が輝いた。

 どうやら間違っていなかったようで、ほっとする。


「よし、じゃあ、お兄様が部屋まで送ってあげよう」


 上機嫌なフィリップお兄様が、そうして私の肩を抱き寄せた時だった。


「あーっ!!今度はフィリップ兄上っ!!」


 またしても、カミユ様の特大の声。

 そして、またしても私はカミユ様の腕の中へと引きずり込まれていた。


「もう、シェリルに何してるの!?」

「誤解だって。ふらついてたから、部屋まで送ろうとしただけだから」


 どこか既視感を覚えるやり取りである。

 そんなことを考えていると、先日と同様に私の身体はふわりと浮いた。


「カミユ様!?」

「やっぱり具合、悪かったんだね。今日は絶対に医者に診てもらおう」


 カミユ様はそう言うと、やっぱりその場にフィリップお兄様なんて居ないかのように歩き始めてしまう。

 相手がフィリップお兄様である以外は、何から何まであの日とそっくりだと思いながら、私はフィリップお兄様へお礼の言葉を投げかけた。






「にん、しん、ですか……?」


 お医者様の診断結果は、『妊娠』だった。

 その言葉は、それほど難しい単語でもないはずなのに、私の頭はすぐには理解をしてくれなかった。

 そして、それはカミユ様も同じだったみたいである。

 私たちはしばし無言で、ただ呆然とお互いを見つめあっていた。


「それって、つまり、僕たちの子が……ってことだよね?」


 長い長い沈黙の後、先に口を開いたのはカミユ様だった。

 そして、そんなカミユ様の言葉で、私もようやくその意味を理解できた気がした。


「そう、ですね。ここに、いるんですね。私たちの子が……」


 当然、お腹が膨らんでいるわけではないし、見た目には何もわからない。

 それでも、自身のお腹に手をあてると、その温かさが伝わってくるような気がした。


「僕も、触ってもいい?」

「かまいませんが、まだ何もわかりませんよ」


 温かさを感じたのも、きっと私の気のせいだろう。

 動くわけでもないし、触れたところでその存在を感じられるとは思えない。


「不思議だな、なんか温かい気がする」


 おそるおそる私のお腹に触れたカミユ様がそんなことを言うから、私はとても驚いた。


「ふふ。実は私も同じことを思ったんです。お揃いですね」

「本当?嬉しいな」


 そうして、二人で笑いあった。

 その後、感極まったカミユ様によって、私の身体が再び宙に浮いたりもしたけれど、この時の私たちは本当に幸せだった。

 だから、この時の私たちは、あんなことが起きるなんて、想像もできなかった。

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