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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
91/91

91、交渉

あけましておめでとうございます。

年が明けて直ぐに階段で踏み外して膝と手を強く打って打撲して何だか最悪なスタートを切りました。

今年もマイペースに頑張って行きます。

よろしくお願いします。


臨時作戦会議が終わり、作戦本部には一時の静寂が訪れていた。

地図に刻まれた無数の駒は、依然として戦火の広がりを示している。

勝利への道筋は見え始めたが、まだ確証には至らない。

――ここからが、本当の正念場だった。


「そこにいるのは……アレクセイか?」


不意に響いた低く威厳のある声に、場の空気が引き締まる。

アルカディア王国騎士団長、エドガー公爵だった。


「はい、エドガー様」


アレクセイは一歩前に進み、静かに頭を下げる。

その所作には、退役してなお揺るがぬ騎士の矜持が宿っていた。


「引退した君が、なぜそこにいる?」


問いは責めではない。

だが、長年の主従関係を知る者にしか分からぬ、わずかな戸惑いが滲んでいた。


「父上、私がお願いしました。

 ダークエルフ部隊の指揮官として、アレクセイ殿の力が必要だったのです」


エルドリンの言葉に、エドガーは一瞬だけ目を伏せ、そして深く頷いた。


「……そうか。

 エルドリン、君が彼を再び戦場に立たせたのだな」


「経験豊かな指揮官が必要でした。どうかご理解下さい」


「アレクセイ……すまないが、よろしく頼む」


「はい。命に代えても」


その短いやり取りの中に、

忠誠と信頼、そして戦争という非情な現実が凝縮されていた。


「エルドリン、交渉の結果を報告してくれ」


マルセルの声に、エルドリンは背筋を伸ばした。


「分かりました」


まず、彼は公王から各国使節団の逗留先を確認していた。


「どこから向かいますか?」


「エルフの国、星樹連邦(アストラ=シルヴァ)からにしましょう」


イリスが即答する。


「ソレンディルは、あちらでは有名人ですから」


「……それは、なぜ?」


「客員教授として招かれて、魔法理論を教えていた時期があるの」


「それは初耳ですね」


エルドリンは小さく笑みを浮かべた。

この交渉、勝機はある――そう確信した。




迎賓館は白木と生木で組まれた優美な建築だった。

精霊の気配が漂い、空気そのものが澄んでいる。


正面扉の前には、銀装の衛兵が左右に立っていた。


「こちらは星樹連邦アストラ=シルヴァ使節団の逗留先です。

 ご要件を伺います」


「神々の残滓、エルドリン・ファルコンが拝謁を願います」


その一言で、衛兵の目が変わった。

即座に扉の内へと消えていく。


――待つ時間は、短くも長かった。


やがて両開きの扉が静かに開かれ、三人を迎え入れる。


玄関ホールには、三名のエルフが整然と立っていた。


「ようこそお越し下さいました。

 私が使節団代表、ルベール。

 こちらはヘレナ、レクセールです」


「連合軍代表、エルドリン・ファルコンです。

 こちらは蒼翼騎士団団長、イリス・フェルディナント。

 同じく魔導師、ソレンディル・シルバーレイン」


その瞬間だった。


「――ソレンディル様!

 イリス様!」


使節団の三人が、思わず声を上げる。

その反応に、エルドリンは内心で息を呑んだ。


(ファンクラブか……)


視線を送ると、二人は小さく頷いた。


「……話を続けてもよろしいでしょうか」


エルドリンが穏やかに促す。


「も、申し訳ございません」


深く頭を下げる三人。


「現在、敵の残存勢力は六万を超え、再集結の動きを見せています。

 星樹連邦に、連合軍への加勢をお願いしたい」


沈黙。

三人の視線が、エルドリンを値踏みするように注がれる。


「……ソレンディル様。

 この方が噂の、エーテルリウムの奥義を使う剣士なのですか?」


「ええ。エーテルリウムの魔法を使えるよ。しかも、無詠唱で魔法が使える。

 武器に魔法付与して戦う魔法剣士だよ。」


その一言が、決定打だった。


「ならば信じましょう。

 我が国は、同胞エルメリオンが参戦している以上、連合軍に協力致します」


「条件は?」


「ありません」


即答だった。


「兵力はどれくらい出していただけますか?」


「騎士団五万。転移で即応可能です。」


「感謝します。居留地を用意しましょう。」


交渉は、完全成功だった。




次の迎賓館は、石と鋼で造られた重厚な建物だった。

扉を開けると、金属と油の匂いが鼻を突く。


「私は深炉王国(グラン=フォルナ)使節団代表、エルグリム・コインマスター。

 こちらは弟のラドグリム、アドラグリム」


ドワーフらしい、率直で誠実な態度。


「お願いがあります。

 ――その刀を、拝見したい」


エルドリンは迷わず応じた。


刀は鞘に収めたまま差し出した。

三人は鞘の美しい彫金をじっと観察していた。

そして抜刀すると息を呑んだ。


「……美しい」


美しい波紋、反り、大刀なのに計算された重心。

そして、何よりヴェリタス・ストーン特有の軽さ。


「素晴らしい。

 貴方と共に戦ってきた刀だと分かる」


「打ったのは、グローリン・アイアンハンズ。

 アイアンゲート随一の鍛冶師です。」


「我々の同胞か……!」


その瞬間、彼らの警戒は完全に溶けた。


「支援を約束しましょう。

 兵力は十万。準備は整っています。」


「ご協力に感謝します。」




最後の迎賓館。

近付くと、人影が外にいた。


武装した獣人が待ち構えている。


「ようこそ、連合軍の皆様。私が獣王国(グラウ=フェン)の代表、カイラ・ブレイカーです。」


「これはどうも、連合軍代表のエルドリン・ファルコンです。

 こちらがハイエルフの蒼翼騎士団団長イリス・フェルディナント。

 同じくハイエルフの魔法使いソレンディル・シルバーレインです。」


「こちらの条件としては、エルドリン殿と立会願いたい。」 


やっぱりどうしてここで立ち会う必要があるのか。

内心がっくりしたが、これは不可避だ仕方がない。

エルドリンは気持ちを切り替えた。


「喜んで受けて立ちます。イリス、ソレンディルの両名が立会人です。」


「了承していただきありがとうございます。」


エルドリンとカイラがお互い向き合って、武器を抜いて構える。

エルドリンは刀、カイラはクレイモア(大剣)を構える。

カイラはジャッカルの獣人だ。


「始め!」


イリスの掛け声と共に、両者が一気に距離を詰める。

エルドリンは縮地で残像を出しながら左右に揺さぶる。

カイラは眼でエルドリンの動きを捕えていた。

冷静に上段からクレイモアを振り下ろした。

素早い剣がエルドリンに迫った。

しかし、エルドリンはこれを紙一重で交わして、右肩を突き出してカイラに突進した。


カイラは崩しの一撃を受けるが、バックステップで一旦距離を取ろうとした。

しかし、エルドリンはカイラが立ち直る時間を与えなかった。


体勢を取り直していないカイラの中段に突きを放った。

エルドリンの素早い突きがカイラの鎧に当たる。


「ガキィ!」


カイラの胴体を衝撃が貫いた。

素早いだけで無く、眼も良い。膂力も十分だ。

カイラはエルドリンを評価していた。

しかし、状況はカイラに不利だった。


「チェィ!」


カイラが素早い横薙ぎで距離を保った。

エルドリンはそこに突っ込まず、刀に電撃を付与した。

刀身が明るく光った。


今度はカイラから距離を詰めて、鋭い踏み込みで素早く斬りつけた。

先の一撃より素早く剣が振り下ろされた。


エルドリンは縮地で横に移動してカイラの脇腹を突いた。

電撃が身体を流れて、カイラは膝から崩れ落ちた。


「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ……」


カイラは息を切らしていた。


「み、見事でした。

 その腕前、”アンブレイカー”と呼ばれる事も理解出来ます。

 私の役目は”本物”かどうかの見極めでした。

 人族で私より弱者であれば助力はしない。

 それが、獅王ラグナール・グラウフェル様の条件でした。」


エルドリンはカイラを起しながら話を続けた。


「そうでしたか、今ので十分納得して頂けたのでしょうか。」


「お願いがあります。貴方が神々の残滓である証明は出来ますか。」


「わかりました。少しお待ち下さい。」


カイラをイリスとソレンディルに預け、エルドリンはテレパシーでアゼザル・マハトに話しかけた。


『アゼザル、今も見ているのでしょう。姿を表して下さい。……』


するとエルドリンの頭に直接声が聞こえた。


『エルドリン見ていたぞ、わかった。』


眼の前に雷が落ちた。

するとネフィリムのアゼザル・マハトが姿を表した。


「我が名はアゼザル・マハト、見ての通りネフィリムだ。

 そこにいるエルドリンと同様、神々の残滓だ。

 これで納得して頂けたかな?」


カイラは3メートルはあるアゼザルを見て、その圧倒的な威圧感から

とても自分達とは異なった次元の生物だと理解した。

そのネフィリムが同胞とエルドリンについて言及した。

猜疑心を抱く事はない。


「り、理解致しました。アゼザル様」


カイラは膝をついて伏してアゼザルに礼をした。


「これで良かったか、エルドリン」


「こちらこそ、申し訳ないです。」


アゼザルはエルドリンに笑顔で答えた。

そしてソフィアに親指を上げてサインを出した。

ソフィアも同じく親指を上げて答えた。


「それでは、私は去ろう。カイラ、ラグナールによろしくな」


再び光が溢れて、光が収まるとアゼザルは去っていた。


「それではカイラ殿、獣王国はどれくらい兵力を借りれるだろうか。」


「はい、15万の勢力がミスティクレスト公国に向けて移動開始しています。」


「了解した。居留地をご用意致しましょう。」


エルドリンはカイラと握手して友好的に分かれた。


エルドリン、イリス、ソレンディルの三人は作戦本部に戻った。

作戦本部に三十万の援軍を報告した。

各国の代表に吉報が届いた。


だが、エルドリンの胸には、別の緊張が残っていた。


(これで盤面は整った……だが、敵も黙ってはいない)


戦争は、次の段階へ進もうとしていた。


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