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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
88/91

88、地下研究施設攻防戦


試験場からの撤退は、文字通りの「脱出」だった。

退避と同時に入口へ幾重もの強力な結界が施され、禍々しい魔力の漏出は辛うじて封じ込められた。


結界の内側で渦巻く黒紫の光を背に、

パープルヘイズ中隊は地上へと這い上がるように施設を離脱した。


冷たい夜風が、汗と血と魔力の臭いを洗い流す。

誰もが言葉を発さず、ただ呼吸を整えていた。


やがて、自然と円を描くように人が集まる。

ヴァレン、アレクセイ、エルドリン、ソレンディル、イリス、アシュリー、リシェル。


それぞれの顔に、疲労と緊張、そして迷いが刻まれていた。


沈黙を破ったのはエルドリンだった。


「魔石は……オーダー・コアから甚大な魔力供給を受けています。

 時間が経てば経つほど、強くなる。

 他の試験体に影響を与えるのも、ほぼ確実です」


その声は冷静だったが、内心では焦燥が渦巻いていた。


「どうするべきだ?」


アレクセイが問いかける。

彼の目は指揮官のそれだったが、同時に“人”としての迷いも滲んでいた。


「……オーダー・コアの破壊か」


誰もが息を呑む。


「ええ……」


ヴァレンが低く答えた。

その表情は、これまで見せたことのないほど苦悩に歪んでいた。


オーダー・コア。

それは都市の防衛と秩序を支える神代の遺産。

大陸の要衝を守る要であり、軽々しく壊していい存在ではない。


「魔力供給が止まれば、無限再生は起きないでしょう。

 ……ここで議論している時間は、ありません」


エルドリンの言葉は正論だった。

だが正論であればあるほど、決断は重くなる。


「……わかっている!」


ヴァレンは声を荒げた。

その瞬間、彼自身も気づいていた。

この状況を招いた原因は――皇帝直属の、秘匿された生物兵器研究だ。


領主にすら伏せ、わざわざこの地に施設を置いた理由。

それは自分――ヴァレンの干渉を避けるため。


(つまり……皇帝が地雷を踏んだ)


責任は、自分にはない。


「……よし」


ヴァレンは顔を上げた。


「オーダー・コアの破壊を許可する!」


一瞬、空気が凍る。


「いいんですか?」


「お前が言い出したことだろう?

 ――実行だ!」


その目は、いつもの悪巧みを企むような、

獲物を見定めた狩人のそれに変わっていた。


アレクセイは即座に判断を下す。


「エルドリン、地下施設の時間稼ぎはこっちで引き受ける。

 イリス、ソレンディルと共にヴァレン殿を支援しろ。

 オーダー・コアを頼む」


「了解!」


ヴァレンを先頭に、四人は駆け出した。


残されたアレクセイは、パープルヘイズ中隊へと向き直る。


「状況は深刻だが、やることは明確だ。

 アシュリー、アンデッド剣士と攻撃隊を率いて地下施設へ。

 リシェル、弓矢隊と魔法使いで援護を。

 怪我人はここに残れ――一刻を争う」


「了解!」


アシュリーを先頭に、中隊は再び地下へと向かった。


地下三階・再突入


結界をソフィアが解除する。

冷たい魔力が霧のように流れ出した。


ナイトが先陣を切り、

続いてアシュリー、アンデッド剣士二十体がなだれ込む。


リシェルは後方から弓矢隊と魔法使いを率いた。


試験体たちは生者の気配を察知し、唸り声を上げて迫る。


アシュリーの剣が火焔を纏う。


「――行く!」


縮地。

一瞬で距離を詰め、袈裟斬り。


試験体は裂かれ、炎に包まれて崩れ落ちる。


振り返りざまの突き。

胸を貫かれた試験体の体内から炎が噴き出した。


ナイトは突進し、馬乗りになると前脚で叩き潰す。

鋭い爪が肉を裂き、骨を砕いた。


ソフィアは籠手にレクイエムを付与し、

足払いからの貫手で心臓を穿つ。


「放て!」


リシェルの号令で矢と魔法が一斉に飛ぶ。


アレクセイは歯を噛み締めた。


(……急げよ、エルドリン)


魔石はまだ、力を与え続けている。


「時間との戦いだな……」



一方、エルドリンたちは上階に到達していた。

衛兵はヴァレンの威圧だけで道を開けた。


直径一メートルの球体。

淡く輝くオーダー・コア。


「待って、解析する!」


ソレンディルが叫ぶ。


「時間がない!」


「壊した後、同じ物が作れる可能性は?」


イリスが頷いた。


「私の故郷にも似た仕組みがあるわ」


エルドリンは息を呑む。


「……解析完了。壊していい」


エルドリンは刀を抜いた。上段に構え一気に振り下ろした。


「ガキッ」


衝突音がするが、傷一つ付かない。

イリスは驚き、ソレンディルは冷静だった。

エルドリンは考える、通常攻撃では傷一つ付かないだろう。


何か方策はないだろうか……

エーテルリウムの奥義で有効な手を考えていた。

ヴァレンは焦りが顔に出ていた。

イリスがエルドリンに声をかけようとしたが、ソレンディルが手で制した。

エルドリンの思考を止めてはいけない。

彼は並列思考により、エーテルリウムの剣術、魔法等自分の記憶から方法を検索していた。

『切れない物を斬る』一見矛盾しているが、本当に無理なのか……


少し刀を振り、考えをまとめる。

目を瞑り、じっとしている。

ヴァレンは自分の魔剣でも壊せない事を理解していた。

この場はエルドリン頼みだ。


「切れない者を斬る方法を見つけました。」

エルドリンがはっきりした言葉を放った。



次元刀ディメンシーバ・グラディス


「何だそれは?」


「空間を引裂く魔法を刀に付与して斬ります。」


エルドリンは刀身に次元を斬り裂くエーテルリウムの奥義を付与した。

美しい波紋を持った刀身は輝きを増した。

地面を強い蹴り足で、反力を使って刀を一気に振り抜いた。


「ズバッ!」


オーダー・コアは真っ二つに分かれて転がった。

急速に光が失われていく。


「もう機能が停止したよ。」

ソレンディルが眼を細めてオーダー・コアを見て言った。


「よし!直ぐに地下施設に移動する。」


エルドリンが指示を出した。


ヴァレンは驚いていた。オーダー・コアが真っ二つだと……

重要都市の防御を壊してしまった。まるでパンドラの箱を開けてしまったようだ。


「クックックッ……面白くなってきたな!」


ヴァレンは高揚感が胸に広がった。

本来持っている、冒険者の本能が蘇る感覚が心地よい。

広角が上がり自然と笑いが込み上げる。



ソレンディルが転移魔法を起動した。

4人は白い光に包まれて姿が消えていく。




その頃地下施設では、厄災の魔石がオーダー・コアから得た力を他の試験体に与えていた。


「グゥゥゥゥガァァァ~」


試験体は身体が大きくなり、魔獣の力を解放した。

アシュリーが放った正確な突きをバックステップで躱した。


そして四つ足で立ち、素早い動きで突進して来た。

アシュリーは素早く縮地で躱した。

背後から別の試験体が狙っていた。

飛びかかった所で、アンデッド剣士が襲いかかる敵を素早く剣を振り、牽制した。


「動きが変わった?」


アシュリーは自分の突きを躱された事に驚きを感じていた。

このままではいけない。素早くターンして試験体に向かって走る。

試験体が魔獣の腕でアシュリーを捕まえようと腕を伸ばした。

アシュリーは中腰で魔獣の脇を斬り裂いた。

そして立ち上がりながら腕を切り、首をはねた。

彼は付与魔法だけではない攻撃方法を模索していた。


ナイトが奔り、試験体に飛びかかった。

ソフィアは背後に回って貫手により心臓部を貫いた。

試験体は胸から大量の血を流した。ナイトが前脚で頭を叩き、首がもがれた。


攻撃隊もアシュリーの活躍で気勢が上がった。

複数人で試験体に攻撃を仕掛ける。

リシェルは弓矢隊と魔法使いを各個攻撃している攻撃隊に加勢するように指示を出した。


魔石が嵌め込まれた試験体の前に白い光が広がり、それが止むとエルドリン達がそこに転移してきた。


試験体はエルドリンの姿を見つけると首をゆっくりと回して、余裕のポーズを取った。


「待ちかねたぞ!かりそめの勇者!」


「私は勇者ではない!」


エルドリンが試験体に答えて注意を引いた所で、ソレンディルが炎の玉を試験体にぶつけた。

試験体は眼の前が炎で包まれて恐れおののいたが、痛みを感じない自分の強靭な身体に満足していた。


「よそ見するな!」


ヴァレンが炎を有した魔剣で背後から斬りつける。傷口から炎が立ち上るが紫炎の光が生じて傷口を塞いでしまう。

イリスが正面から5連突きを放つ、試験体はヴァレンに注意を向けたいたので、攻撃を避ける事が出来ず身体の中に電流が走る。

そしてエルドリンが連続切りで敵にダメージを与えるが、紫炎の光で傷口は塞がれてしまう。


「無駄な事を!」


試験体は自分が優位だと疑っていなかった。

しかし、ヴァレン、エルドリン、イリス、ソレンディルは知っている。

やつに魔力を供給していたオーダー・コアは存在しない。


"無限に再生する"事はありえない。


その事実を敵は知らない。


4人は代わる代わる試験体に攻撃を入れる。

紫炎の光で傷が再生されていたが、攻撃を続ける事1時間が経過した頃に紫炎の光が現れなくなった。


試験体は長槍を手にしていたが、相手が悪かった。

素人の生兵法では太刀打ち出来る相手ではない。


ヴァレンは魔剣で敵の右腕から胴まで剣を振り下ろした。

右腕は切り離されて落下した。胴に深い傷が残った。

イリスは左肩に槍を回転させながら力いっぱい貫いた。

左肩に孔が生じた。


試験体は痛覚がない。右手に持った長槍を動かす事もままならない。

エルドリンが試験体の眼前で腰を落として両脚を断ち切るように薙いだ。

敵は両脚を断ち切られて仰向けに引っくりがえった。


ソレンディルはマルセルがしたように魔石を封印結界で包んだ。

エルドリンが"レクイエム"を唱えて試験体に浴びせる。


魔石を封印された事で、魔力供給が止まり、試験体は意識が飛んでしまったようだ。

そこにレクイエムで敵の体は浄化され体は白く輝く光に包まれて崩れていった。


光が収まると他の試験体が全て倒れた。

かりそめの力による、かりそめの命は潰えた。


アシュリーが勝利の雄叫びを上げて。

皆一斉に剣を上げて勝利を共にした。


アレクセイはまた一つ大きな戦いを乗り切れた事に安堵した。


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