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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
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86、ままならない魔石の探索


客間の扉が音もなく開いた。


そこに入ってきたのは、影のように静かでありながら、圧倒的な存在感を放つ男だった。

浅黒い肌に銀髪、獣のような鋭い眼光。そして鋼の彫刻を思わせる端整な顔立ち。


一歩踏み入れた瞬間、部屋の空気が研ぎ澄まされる。


「すまない。長く待たせてしまった。

 私が、このフリーデンベルクを預かる領主――エルシスト・ヴァイデンだ。よろしく頼む。」


声は深く、低く、揺るぎのない自信とともに響いた。


アレクセイは迷いなく立ち上がり、胸に拳を当てる。


「アルカディア王国元騎士団長、パープルヘイズ中隊指揮官、アレクセイ・ランデルです。

 こちらこそ、お会いでき光栄です。」


その所作には、歴戦の将としての気品と緊張が同居していた。


「こちらが息子、アシュリー・ランデル。

 そしてアルディア教のシスター、ソフィア・グレースフィールド。

 彼女の隣が、中隊副官のリシェル・ノクスヴェイルです。」


エルシストは頷き、手を広げて席を促した。


「どうぞ座って話そう。

 皇帝からの信書には、こうある――

 『大陸を揺るがす“災厄の魔石”探索に、最優先で協力せよ』と。


 では、魔石の所在について……何か掴めたか?」


その視線は柔和でありながら、獲物を値踏みする猛禽の冷たさがあった。


アレクセイは沈着に答える。


「いえ、エーベルハルトは広大です。捜索はなお続行中。

 判明には、もう少し時間が必要です。」


「……そうか。」


エルシストは息を吐きながら、じっとアレクセイを観察する。

その視線の鋭さは、ため息と裏腹に室内へ静かな圧迫をもたらした。


張り詰める空気。

リシェルが小さく背を伸ばし、アシュリーは無意識に拳を握る。


やがて、エルシストが口を開いた。


「前回の“厄災の魔石”……詳しく教えてもらえるかな。」


「それは――私がお話しします。」


アシュリーが無意識に父をかばうように前に出た。

その眼差しは若いが、炎のような決意が宿っている。


彼はフリーデンベルクでの地獄を語った。

オークやオーガの軍勢が押し寄せ、胸に魔石を埋め込まれた異形のオーガが出現したこと。

エルドリンが単身で挑み、死線の縁で立ち続けたこと。

イリスが駆けつけ撃退したが、魔石によるアンデッド化で敵には通常攻撃が通用しなかったこと。


語り終えた時、部屋は深い沈黙に沈んだ。


エルシストは椅子に深く寄り掛かり、厳しい眼差しでアシュリーを見た。


「……よく耐えた。

 それほどの災厄なら、皇帝が最優先せよと言う理由も分かる。


 エルドリン殿の武勇はこの地にも届いている。

 その勇者でさえ苦戦するとは……想像を絶する。」


そして、問いが飛ぶ。


「して、エルドリン殿は今どこに?」


アレクセイは即答した。


「現在、イリス・フェルディナント殿とともに魔力探査を行っているはずです。」


一見平静だが、エルシストの眼はアレクセイの微細な表情を探る。

アレクセイ自身、その視線を意識しながらも崩さない。


その時――エルシストは突然ソフィアへ視線を向けた。


「シスター・ソフィア。今の話は事実ですな?」


「ええ、事実でございます。」


ソフィアの静かな声に、アレクセイは胸を撫で下ろした。

しかしエルシストの眼光はさらに鋭くなる。


「アレクセイ殿。“魔石の探索”……そう言ったな。

 だが――本心は別にあるのであろう?」


アレクセイの肺が一度大きく膨らむ。

その微細な息を、領主は見逃さなかった。


「……時間稼ぎが目的ではないと申せば、嘘になります。

 ですが、魔石がフリーデンベルクに持ち込まれているのは事実です。」


エルシストは腕を組み、深く息をついた。


「私は帝国の心臓部を託されている身。

 あなたが時間を稼がねばならぬ“場所”……察しはつく。


 厄災の魔石は――オーダー・コアの施設ですな?」


アレクセイは半眼で答える。


「今の私には……イエスともノーとも言えません。」


エルシストはゆっくりと瞼を閉じ、そして開いた。


「……分かった。アレクセイ殿の“時間稼ぎ”に付き合おう。

 異国の者をオーダー・コアに近づけることは私の裁量では判断できぬが……

 皇帝、もしくはその代行者が命じるなら話は別だ。」


アレクセイは静かに頭を下げた。


「ご理解、感謝する。」


その瞬間、緊迫していた室内の空気がふっと緩んだ。

アシュリーは安堵し、リシェルは背もたれに身体を預けた。


エルシストはふとナイトの方に目を向け、笑顔を浮かべた。


「これが……噂の聖獣。美しいものだ。」



同刻 ―― 帝都ローゼンベルク・ファイヤクラフティ本部


転移の光が消えたとき、エルドリンとイリスは重厚な帝都の空気を吸い込んだ。


受付に案内され、会議室の扉を開ける――

そこには、疲労の色を隠せない男がいた。


銀髪を後ろに束ねた初老の男。

見た目は柔和だが、内側に燃えるような覇気と計算高い眼光。


ファイヤクラフティ、ギルドマスターヴァレン。

帝国では誰も彼を無視する事が出来ない。


「エルドリン……よく来ました。」


その声には、老練な将だけが持つ重みがあった。


「お疲れの様子ですね、ヴァレン殿。」


「クランの数百人と違い……私は今、十万の軍を動かしている。

 国軍、予備役、補給、外交――すべて調整する必要があります。

 だが、自分の面倒くらい自分で見ますよ。」


老獪でありながら、どこか紳士的な言い回し。

イリスは、改めてこの男がただ者ではないと直感した。


「それで、どうしました?

 本来なら今頃フリーデンベルクにいるはずでしょう?」


エルドリンは深い息を吸った。


「……厄災の魔石は、フリーデンベルクのオーダー・コア施設内部にあります。」


ヴァレンの眉がわずかに動いた。


「……また厄介な。

 ここに来たのか理由は言わなくても分かります。」


彼は振り向き、副マスターのセリスに告げた。


「セリス、数日外す。後は任せた。」


「承知いたしました。」


二人の間に言葉はいらない。

苛烈な修羅場を共にくぐった者同士の信頼があった。


エルドリンが礼を述べると、セリスは静かに頷いた。

その眼は、エルドリンが放つ空気が変わった。

“成長の速さ”に驚きを隠せていなかった。


――白い転移陣が光り、三人の姿を呑み込んだ。



フリーデンベルク領主館 ― 再集結


ナイトが突然目を開き、首をもたげた。

ソフィアが念話を受け取る。


「……エルドリンが、来ます。」


その言葉にアレクセイとエルシストが同時に立ち上がった。


間もなく扉が叩かれ、


「エルドリン様が到着いたしました!」


四人が入室した瞬間――

エルシストの表情が明らかに変わる。


「ヴァレン殿……!」


「エルシスト殿。私が本作戦の最高指揮官です。

 皇帝の意を代行し命じます。

 オーダー・コア施設の探索を、彼らに許可せよ。」


エルシストは即座に跪いた。


「はっ!」


こうして、探索許可は正式に下りた。



オーダー・コア施設へ


白い転移光が消えると同時に、腐臭に似た魔力の波動が肌を刺す。


「……凄まじいな。」

「ええ、間違いなく“本物”です。」


ヴァレンの声は低かった。


パープルヘイズ中隊の選抜百名が合流し、隊列を組む。

5つの班に分かれて5フロアを探索する。

班の構成を割り振った。


ヴァレンはアレクセイの采配に目を細めた。


(……こんな男が隠れていたとはな。)


探索隊が編成され、エルドリンは地下3階へ向かう。

ヴァレンはエルドリンに付いて回る事にした。


この建築物は異様だ。

凄く大きい貨物用エレベーター、廊下は広い。

部屋数は多い。


「……これは、普通の施設ではありませんね。」


ヴァレンの呟きが冷たく響いた。


エルドリンはフロア全体を魔力探知してみるが、地下構造と壁が魔力を反射する為に全くわからない。

各部屋の扉に手を当てて中の様子を探るしか方法はないようだ。

ヴァレンは自分には出来ない事をよくやると関心していた。


やがて巨大な両開き扉の前に辿り着く。


エルドリンが手を当て、魔力探査を行った瞬間――

身体が跳ねた。


「……ぐっ……!」


「もしかして、当たりか?」


「はい。ここです。」


エルドリンの声は震えていた。


――そして地上に残ったアレクセイへ報告。


アレクセイはすぐに全軍を率いて地下へ向かった。


ヴァレンは肩を叩く。


「……やはりお前は強運だ、エルドリン。」


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