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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
84/91

84、戦闘の総括


パープルヘイズ中隊を乗せた飛行艇は、夕闇に沈む空を滑り、フリーデンベルクの飛行桟橋へ静かに着艦した。

甲板に降り立つ兵たちの表情には戦闘を終えた安堵と、まだ抜けきらぬ緊張の影が同居していた。


アレクセイはすぐに会議室を借り、戦闘総括を始めた。

しかしその場にいるべき一人──エルドリンは依然として意識を取り戻さず、寄宿先の寝室で静かに眠り続けていた。




アレクセイは皆の顔を順に見渡した。そして最初に口を開いたのは、隣に控えていたリシェルだった。


「リシェル、今回の戦いを通して何を感じた?」


リシェルは背筋をただし、真剣な瞳で答えた。


「はい。稽古と実践では全く違うと痛感しました。

 命のやり取りの圧力は想像以上で……過度の緊張で、集中も体力も急速に奪われていきました。

 どれほど技量があっても、戦いは持続力がなければ勝てない……そう実感しました。」


アレクセイは思わず表情を緩めた。


「そこまで理解しているとは見事だ、リシェル。

 君には部隊を預けられる指揮官の素質がある。よく努めたな。」


褒められた瞬間、リシェルの胸に温かいものが広がる。

彼女は自分が認められたことへの喜びに、思わず頬が紅潮した。


次にアレクセイは視線をアシュリーへ向けた。


「アシュリー、前衛の状況を話してくれ。」


アシュリーは深呼吸をし、落ち着いた声で語り始めた。


「はい。私は四度目の集団戦だったので、周囲の判断は冷静にできましたが……

 攻撃隊は初めての大規模戦闘のため、気負いすぎて集中力を維持するのが難しく、何度も危ない場面がありました。

 盾隊は強敵の猛攻で崩れかけましたが、彼らの粘りが攻撃隊を支え、ソフィア様が来るまで踏みとどませてくれました。

 多くの敵を討ち取ったことで、皆の自信に繋がったと思います。」


「なるほど。アシュリー、お前の恐れず前に出る姿勢は経験の重みだな。

 攻撃隊を鼓舞し、先陣を切って敵の陣形を割った……見事な働きだった。」


父に褒められたアシュリーは、驚きに瞬きをした。

次いで胸の奥が熱くなり、涙がこらえきれず視界が滲んだ。


「……父上。私、ガルムさんとエルドリンが、いつも仲間の前に立って戦う姿を見て学びました。

 だからこそ今回、二人がいないなら私がやらなければと思ったんです。」


「うむ……それでこそ我が息子だ。これからも皆の手本であってくれ。」


アシュリーは堪えきれず、うつむいて小さく涙を拭った。


アレクセイは次にソレンディルへ目を向けた。


「ソレンディル、お前からは何かあるか。」


「特にはないよ、アレクセイ殿。

 ただ……弓隊も魔法隊も、みんなよくやってくれた。それだけで十分だ。」


その言葉の裏に、彼女が誇らしさを隠しきれていない事をアレクセイは感じた。

同時に、ソレンディル自身がエルドリンの奮戦を誰よりも評価しているのだと悟った。


「(あいつも、本当に……強くなったものだ。)」


アレクセイの胸に、静かな喜びが広がった。




総括の締めに、アレクセイはダークエルフの四中隊の隊長たちを見渡した。


「リシェルから聞いたが……

 お前たちが最後まで崩れずに前線を維持したこと、私は誇りに思う。

 リシェル、彼らに私の言葉を伝えてくれ。」


リシェルは立ち上がり、堂々と宣言した。


「アレクセイ様は、『今回の戦果はダークエルフ四中隊なくして成立しえなかった。誇りに思う』とおっしゃいました!

 皆さんの献身は、この戦いを勝利へ導いた最重要の要因です!」


その言葉に、ダークエルフたちの胸が誇らしげに広がった。

彼らの鋭い瞳がリシェルを見つめ、静かに敬礼を返す。


アシュリーの方でも、盾隊と攻撃隊がアシュリーへ近づき、口々に感謝を述べていた。


「アシュリー殿、あなたの声がなければ前に出られませんでした!」

「背中を押してくれて……本当に助かりました!」


アシュリーは照れくさそうに微笑んだが、その胸には確かな誇りが灯っていた。




一方その頃。

寄宿舎の静かな寝室では、柔らかなランプの灯りが揺れ、エルドリンが深い眠りの中にいた。


彼のそばでは、イリスとソフィアが静かに座り、時折お茶を飲みながらエルドリンについて語り合っていた。


イリスは、知らず溜め込んでいた不安をソフィアへこぼし、

ソフィアもまた、エルドリンと過ごした戦場での出来事を語る。


話が進むうち、互いの胸にあったわだかまりはいつしか解け、

二人は自然と心を開き合っていた。


穏やかな時間が流れる。

しかしその静けさを破ったのは──エルドリンの深層意識に響いた声だった。




――目覚めよ。お主にはまだ成すべき事がある。


「……アゼザル・マハト……」


かすかな呟きとともに、エルドリンは意識が浮上していくのを感じた。


ゆっくりと瞼を開けると、見知らぬ天井が視界に広がった。


「エルドリン……! 目を覚ましたのね。」

「よかった……本当に……」


イリスとソフィアが安堵の笑みを浮かべていた。

二人の間に漂う穏やかな空気に、エルドリンは驚きつつも胸が温かくなった。


起き上がろうとすると、イリスがすぐに背を支えてくれた。


ソフィアは「みんなに知らせてくる!」と駆け出していく。


エルドリンはイリスへ問いかけた。


「……イリス、君がここにいる理由を、教えてくれ。」


「アゼザル・マハトが……頭の中へ直接語りかけてきたの。

 『エルドリンが強敵と戦っている。援護がいなければ失われる』って。

 だから私は……迷わず来たの。」


エルドリンは胸の奥が熱く締め付けられるのを感じた。


「アゼザル……ありがとう。

 そしてイリス……本当に、助かった。」


「あなたを失うなんて……考えたくもないわ……」


イリスは目元をぬぐい、震える声を抑えた。


エルドリンはゆっくりとベッドから立ち上がった。


「イリス……アレクセイ様のところへ連れていってほしい。」


「ええ。肩を貸すわ。」




会議室に入ったエルドリンを見て、アレクセイはほっとしたように椅子をすすめた。


「もう良いのか?」


「ええ。少し痛みはありますが、問題ありません。」


「そうか……では、次の目標を聞かせてくれ。」


エルドリンは静かだが揺るぎない声で答えた。


「次は──エーベルハルトへ向かいます。」


アレクセイは即座に理解した。


「帝国陸軍の総司令都市、そして近衛師団の本拠地……。

 あそこが動かなければ、十万の軍が全く動けなくなる。」


「はい。だからこそ、魔石災害を先に排除し、本隊の負担を取り除く必要があります。」


アレクセイは力強く頷く。


「よし、すぐに出発の準備をする。」


「イリス殿、ソフィア殿。アンデッド20体にも同行していただきたい。」


「イリス、どうだい?」とアレクセイが問う。


イリスは微笑んだ。


「本隊はミスティクレスト到着まで待機だから問題ないわ。

 ソフィアも同行するし、アンデッド部隊も護衛として動けるわ。」


「心強い……よろしく頼む!」


討議が終わる頃には、夜の帳が完全に降りていた。

彼らは明朝、再び戦場へ向けて旅立つことを決めた。


次なる敵を討つために。

そして──エルドリンが守りたいただ一つの存在のために。


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