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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
83/91

83、戦闘の集結


         【北:魔石汚染地帯/瘴気の森】

───────────────■───────────────

               | 濃霧、腐食した巨木

               |

 (イリス・ソレンディル到達)■(エルドリン戦闘地点)

               |

────────────── 前 線 ────────────────

      アンデッド20      ソフィア結界支援位置

    (斬り込み・防壁)     《ホーリーフィールド》

               |

    ダークエルフ攻撃隊 ←→ オーク・オーガ群

               |

           ダークエルフ盾隊(新人主体)

               |

────────────────■────────────────

     【アレクセイ指揮所(後方陣地)】

    (伝令所、治療スペース、魔道転移位置)


魔石汚染地帯の森は、昼でも薄闇に沈み、濃い黒霧が地を這っていた。

オークの咆哮と、金属のぶつかる音が絶え間なく響く。


ダークエルフ中隊は初陣。

盾隊は震え、攻撃隊は息が荒く、士気は崩壊寸前だった。


アレクセイは歯を食いしばり、叫ぶ。


「盾を上げろ!下がるな……!崩れれば全滅だ!!」


だが彼自身、胸の奥に焦燥があった。


(新人を連れ、これほどの濃霧と乱戦……。

 熟練兵ならともかく、彼らに“無理”はさせられん……!

 しかし、押し返せねば……!)


そこに、ソレンディルの魔道具が光った。

イリスの声が、震えるほど焦って届いた。

「ソレンディル!状況を教えて!」

「新兵ばかりで……押し返せていない。

 エルドリンは……単身で異形オーガと交戦中だ。」

「……行くわ。今すぐ。」

その声は切迫し、震え、しかし揺るぎなかった。

「見ている情景を送って。転移する。」

ソレンディルが応じると、

前線後方に白い裂け目が開き、強烈な光が弾ける。


イリス、ソフィア、ナイト、そして20体のアンデッド戦士が出現した。


アレクセイは声を失う。


(……なんという威容……!アンデッド戦士を使う日がこようとは。

 しかし、この増援はありがたい。“戦況をひっくり返す力”かも知れぬ。)


ソレンディルが説明する。


イリスはハイエルフ騎士団長で、エルドリンの恋人。

ソフィアは聖職者であり、希少な奥義を扱うモンク。

ナイトはソフィアの連れている聖獣。

アンデッドは“亡国のネクロマンサー”から授かった最強の護衛。


アレクセイは深く息を吸い、指揮官として即座に割り切った。


「全員、私の指揮に従え!

 ソフィアは攻撃隊がアンデッド戦士に入れ替わった所で結界を展開、治癒をたのむ!――

 アンデッド戦士は前線に出て攻撃隊と交代!

 イリスと魔獣ナイトはエルドリン救援へ向かえ!」


イリスはナイトの背に飛び乗った。

その瞳にはただ一点――


「エルドリン……死なないで。」


ナイトが地を裂く勢いで駆け出した。



前線では、アンデッド20体が剣を抜き静かに盾隊の前に歩み出る。

敵の剣を最小限の動きで躱し、返す刀で相手の腕、脚、胴を薙いで首を狩った。

アンデッドは疲れる事がない、動き出してすぐに敵が倒れていった。


斬撃の軌跡が、霧の中に白い線を描いていく。

オークやオーガは次々に胴を断たれ、血飛沫を上げていた。


アシュリーは"マルセルのアンデッド戦士"が戦うのを見るのは3度目になる。

改めて、その光景に息を呑んだ。


「攻撃隊後退!盾隊の後ろに下がれ!」


その背で、ソフィアが深く息を吸う。身体から金色の光が溢れ出す。


聖域結界ホーリーフィールド!」


光が地を走り、巨大な円陣が形成された。眩い柱が仲間たちを包む。

続けざまに、ソフィアは祈りを捧げるように手を合わせた。


「サンクチュアリ・ヒール!」


味方の傷が閉じ、折れた骨が戻り、失った血液が戻って血色が良くなっていく。

彼女は続けざまに、エーテルリウムの奥義を唱えた。


「アースダァウアー……大地の力よ、彼らに力を。」


今度は体力と気力が戦闘で消耗していた彼等に一気に満ちた。

疲労困憊で足が震えていた兵士たちの瞳に光が戻る。

続けて精神統一の奥義。


「メンタル・シュタルク!」


恐怖と混乱が消え、心が澄んでいく。

アレクセイは、胸が温かくなっていくのを感じた。

(……これだ。本来の“戦える状態”に、戻った……!)

老練な指揮官は、兵士たちを見渡し、静かに命じた。


「――しばし、休憩しろ。携行食を食べて、水分を補給するんだ。」


兵達に安堵の空気が戻り、前線が整っていった。



森の奥――

エルドリンは巨木にもたれ、血を流しながら立ち上がろうとしていた。

オーガの突進を受け、鎧は無事だが、内臓が破裂したのか吐血して、呼吸は途切れ途切れになっていた。

イリスの叫びが森に響く。


「――エルドリン!!」


その声に、彼は振り向く。その瞳にわずかな光が戻る。

ナイトがオーガに飛びかかり、注意を引きつけた。

イリスはエルドリンに駆け寄り、胸に手を当てる。


「治癒をかけるわ……!しっかりして!」


温かな光が身体を包み、生命力が戻っていく。


「……イリス、来てくれたのか……」

「当たり前でしょう……こんな無茶をして……!」


彼女の瞳に涙がこぼれた。怒りと安堵が入り混じった声だった。


「心配かけてすまない」

「そんな事は後でいいわ、立てる?」


しかし――

黒い霧が周囲に広がり、オーガの左腕が再生し始めた。


「……再生……?いや、これは……」

「アンデッド化よ!」


黒曜石のような皮膚、巨大化した体躯、消えた知性。

完全な“災厄”の姿になった。

オーガは火球を放ち、地面を砕く雷撃を放つ。

エルドリンは縮地で回避、イリスは氷槍を放ち迎撃する。


「――アイスランス!!」


火球が爆ぜ、衝撃波が森を揺らす。

エルドリンは低く構え、脚へ斬撃を叩き込む。

オーガの片脚が飛び、巨体が倒れた。


だが黒霧による再生――。


「普通のアンデッドじゃない……!」

イリスが眉を寄せる。


雷撃が走り、エルドリンは刀を突き出して受け止めた。

鎧が火花を散らしながら雷を流す。

(イリスの中で)

あの鎧……雷を逃がす……!なんて性能……!

その間に、エルドリンは背後へ回る。

白い光陣が足元に広がる。


「――レクイエム!」


黒霧が押し戻され、オーガが苦悶の叫びを上げる。

イリスは正面から槍で喉を突き、横に薙ぎ払う。

首が半分千切れて、ぶら下がる。だが魔石の力でオーガは不死である。

エルドリンが叫ぶ。


「イリス!胸の魔石を狙え!!」


イリスは槍に雷を纏わせ、深く息を吸う。


「――っはぁぁぁ!!」


槍が放たれ、魔石を貫通する。

黒い霧が悲鳴をあげるように散った。


エルドリンはその一瞬で四肢を斬り飛ばし、

"レクイエム"を最大出力で放った。


「――眠れ。」


光が魔石の力を失ったオーガを包み、肉体を消し去った。

その直後、エルドリンは意識を失い、その場で崩れ落ちた。


「エルドリン!!」


イリスが抱きとめ、転移魔法で後方へ戻った。

アレクセイはエルドリンが戻るのを見て、すぐに命じた。


「ソフィア、結界解除!アシュリー、攻撃隊と盾隊――前へ敵を殲滅しろ!

 全軍、総攻撃だ!!」


アシュリーが剣を構え、叫ぶ。


「行くぞ!遅れるな!!」


アンデッドが割った突破口へ、活力を取り戻したダークエルフ中隊が雪崩れ込む。

ソフィアの治癒で復活した彼らは、先ほどまでとは別人のように鋭い動きを見せる。

アレクセイは倒れたエルドリンを見下ろし、静かに呟く。


「……援軍を出せず、すまなかった。」

「私が間に合いました。それで十分です。」

イリスが微笑んで答える。


ソフィアはエルドリンの胸に手を置き、重傷箇所を確認した。


「内臓破裂……肋骨が肺に刺さっている部分も……。

 でも大丈夫。イリスが繋いだ命、絶対に救います。」


イリスの表情がふっと緩む。ソフィアが治療を続けるなか、

イリスとソレンディルは再び前線へ向かう。

最後の掃討戦のために。


前線ではアンデッドが敵の隊列を切り裂き、アシュリー率いる攻撃隊が、残存戦力を押し込んでいた。

一時間程して斬撃の音が止んだ。


静寂。


黒霧が晴れ、森に風が戻ってくる。

アレクセイはゆっくりと剣を下ろした。


「――戦闘、集結だ。」


兵士たちから安堵の声が漏れる。

何人かはその場に座り込み、深い息をついた。

黒い霧の源であった異形オーガは消え去り、前線は完全に押し戻され、ソレンディルにより森は浄化され元の自然を取り戻した。


アレクセイは空を見上げる。


(新兵はよく持ちこたえた……。そして……あの援軍がいなければ、勝利はなかった。)


ソフィアは治療を終え、エルドリンの呼吸が安定したのを確認して微笑む。


「もう大丈夫ですよ。」


イリスはエルドリンの手を握りしめ、声を震わせた。


「……よかった……本当に……。」


こうして、“魔石汚染地帯での初戦”は勝利をもって幕を閉じた。


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