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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
82/91

82、限界点


「――エルドリン!!」


闇に沈みかけていた意識を、一本の声が強引に引き戻した。

まるで胸の奥に灯がともるような、鮮やかな響き。


(……イリス?)


ここにいるはずがない。

彼女は連合軍の本陣で、兵を率いて移動中のはずだ。

彼が戦う理由――彼女を、そして本陣の戦力を敵の陽動で消耗させない事が目的だ。


だからこそ、今聞こえる声は幻聴だと思った。


だが。


振り返った先に、確かにイリスが立っていた。

彼女の左腕に輝くエメラルドグリーンのアンクレットが、幻ではないと告げている。


「イ……イリス……なぜ……」


「立って、エルドリン! まだ終わっていない!」


彼女の声は震えていたが、瞳は揺るがず彼を捉えていた。




エルドリンは呼吸をする度に、肺の奥が鋭く刺すような痛みが出た。

左腕は麻痺しているようで、力が入らない。肋骨にも痛みがある。


口から血を吐き、膝をつきかける。

視界が斜めにずれ、森がゆがんで見える。


(……まだ……終われない)


彼は使命を果たすために、まだ倒れるわけにいかなかった。


倒れればダークエルフ500人の中隊が崩れる恐れがあった。

イリスがここに来てしまった理由は知らない。

だが、今ここで終わるわけにはいかなかった。


イリスが彼の胸元に手をかざす。

温かい光が滲み、体中の強い痛みが滑らかに溶けていくのを感じた。


「……ありがとう、イリス。」


「礼なら、勝ってから言いなさい。まだ来るわ!」




左腕を失ったはずのオーガが、なお獣のような咆哮をあげた。


「グォォォォォ――!」


胸の魔石がどす黒く輝き、周囲に黒い霧が広がる。

オーガの身体を包みこんでしまった。

黒い霧が少し薄まると、斬り飛ばされた箇所が再生していた。


「……再生した……? いや、これは……」

「アンデッド化よ!」


イリスの声と同時に、魔石の光が怪しく点滅した。


皮膚が黒曜石のように硬質化し、身体は二回り大きくなる。

目の奥にあった知性の影すら消え、完全な"災厄"と化した。



オーガは戦斧を振り抜き、巨大な火球を生み出しエルドリンへ投げつけた。

続けざまに地面を砕くような勢いで突進してくる。


「くっ……!」


エルドリンは横へ跳躍して火球を回避する――が、その更に上から戦斧の影が覆いかぶさる。


彼の反応より早く、イリスが槍を突き出した。


「――アイスランス!」


氷槍が空を裂き、火球と衝突。

眩い爆発が森を震わせ、衝撃波が二人の間を駆け抜けた。


エルドリンは爆風をかわしつつ、腰を落として刀身を水平に構える。

突進するオーガを躱しながら、脚を狙って斬りつける。


金属を裂く音、そして――


「ズドォォン!」


オーガの左脚が飛び、巨体が地響きを立てて倒れ込んだ。



「オグアァァァァァァ……!」


黒い霧が爆発するように吹き上がる。

千切れた脚が霧を吸い込んで形を取り戻してゆく。


(……やはり、魔石が元凶か)


イリスが眉をひそめた。


「これ、普通のアンデッドじゃない。見たことがない。」



オーガが手を掲げた瞬間、雷光が唸った。


「――ッ!」


エルドリンは刀身でそれを受け止める。

青い電撃が鎧を伝って地へ流れ、眩い火花を散らした。


(ヴェリタス・ストーンの鎧……これほど頼もしい時はないな)


雷を受け切ったエルドリンは、縮地で左右に高速移動する。

オーガの視線を乱しながら、イリスの攻撃を誘導した。


イリスは五連の突きを正確に放つ。

その鋭さは疾風のようで、オーガは斧で受け止めるしかなかった。


そして――

視界がイリスに向いた一瞬。


エルドリンが背後に回る。


「――神聖魔法レクイエム


足元に白い光陣が走り、魔石から漏れる黒い霧を押し返すように、光柱が立ち上がる。


オーガが苦悶の声を上げた瞬間――


エルドリンの刀に炎が宿る。刀身は紅蓮に染まった。


彼は鎧の傷を狙って刃を差し込み、そのまま袈裟に引き裂いた。


燃え上がる炎が傷口へ食い込み、焼き付けて再生させない。


イリスが正面へ回り込み、槍を突き出した。


槍先は首筋へ突き刺さり、横薙ぎで首を刎ねる。

だが、魔石の力で完全に死なない。


エルドリンは再度レクイエムを展開した。


「イリス! 胸の魔石を狙え!!」


その声に、イリスが槍を構え直した。

刃へ雷撃魔法を纏わせ、踏み込み――投槍のように槍を魔石に向かって投げた。


「はぁぁぁぁ――ッ!!」


槍が魔石へ突き刺さり、そのまま押し込む。

内蔵を突き破って、魔石が背中から突き抜けて飛び出した。


同時にエルドリンはオーガの腕・脚を瞬時に斬り飛ばし、

最後にレクイエムを最大出力で展開した。


「――眠れ。」


光がオーガを包み、黒い霧を消し去る。

魔石を失った肉体は崩れ落ち、粉のように溶けていった。


エルドリンはそれを確認した途端、全身の力が抜けた。


地面が遠ざかる。意識が闇に沈む。


(……よかった……イリスが……無事で……)


倒れゆく身体を、柔らかな腕が支えた。


「エルドリン! お願い、しっかりして……!」


イリスが泣きそうな顔で彼に治癒魔法を注ぎ続ける。

淡い光が彼の傷を閉じ、呼吸が戻る。


彼が目を閉じる直前、微かに微笑んだ。


(――俺は……イリスのために……戦う)


その想いだけが、最後まで胸で燃え続けていた。


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