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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
80/91

80、激突!


黒い煙のように立ちこめる土埃の中、エルドリンは隠蔽魔法を纏ったまま、退却しつつある敵影を追って森を駆けた。

オークもオーガも混乱し、まとまりを失っている。足元には蹴り上げられた土が舞い、枝葉が揺れた。


「グォォオオオオオッ!」


地の底を震わせる咆哮が森全体に響いた。

その咆哮は、逃げかけていた敵の動きをぴたりと止めるほどの威圧感を持っていた。


エルドリンは咆哮の発生源へ視線を向けた。


そこに立っていたのは、魔石が 肉を侵して埋め込まれた異形のオーガ。

紫黒の魔石が脈動し、筋肉と皮膚が歪みに歪み、病的な光を放っている。


「ドォォォォン!」


オーガが巨大戦斧を振り下ろすと、大地はまるで生き物のように震えた。

その一撃を合図にしたかのように、戦意を失っていたオークとオーガ達が再び狂気に目を濁らせ、咆哮を上げ始める。


――厄介だな。


エルドリンは舌打ちを飲み込み、自陣へ戻るべく駆け出した。




ソレンディル、アシュリー、リシェルは戦死体を確認していた。

ソレンディルが淡々と数字を読み上げる。


「62、63、64……オーガ4体にオーク60体。波状攻撃を受けたわりに残存が90体とはね。」


アシュリーが頷いた。


「この森の密度でよくやれています。初陣としては充分でしょう。」


「そうだね、これ以上を望むのは酷だよ。」

ソレンディルが肩をすくめる。


三人が自陣へ戻ると、後ろからエルドリンが現れた。


アレクセイが振り返り、落ち着いた声で指示を出す。


「よし、報告を聞こう。」


エルドリンが短く言う。


「先ほどの異形のオーガは無傷です。咆哮で残存兵を煽り、再び戦意を復活させました。」


「そうか……アシュリー、戦績は?」


「64体を撃破。残りはおよそ90です。」


アレクセイは頷きながら周囲の兵を見回した。


「こちらは負傷者30。だが治癒を施したから戦線復帰できる。初陣で死者ゼロは立派だ。

 リシェル、お前の兄弟達はよくやっている。引き続き頼むぞ。」


「……ありがとうございます。」

リシェルはわずかに頬を緩めた。




「戦術は同じで行くの?」ソレンディルが問う。


アレクセイは首を振り、顎髭を撫でた。


「奴らは先の攻撃パターンを覚えた。次は死に物狂いで突っ込んでくるだろう。

 よって陣形を変える。」


「陣を変える?」アシュリーが身を乗り出す。


「盾隊を∨字に配置。その後ろに攻撃隊、弓矢、魔法を置く。

 敵を誘い込み、先端で先制攻撃して後続を断ち切り、混乱したところに両手剣で突撃する。」


エルドリンが頷いた。


「僕は異形のオーガを狙う。アシュリー、攻撃隊は任せた。」


「はい!」


アレクセイが戦術を次々と伝える中、周囲の空気が引き締まっていく。


ソレンディルは眠たげにあくびをしながらも、目だけは鋭く光っていた。

リシェルは緊張で喉を鳴らす。

アシュリーは父と尊敬する“アンブレイカー”と同じ戦場にいることに武者震いしていた。




作戦開始まで半時。隊員達が散開する頃、エルドリンはリシェルへ歩み寄り、声をかけた。


「緊張しているのか?」


「はい……先の戦いの興奮がまだ抜けなくて……。」


エルドリンはマジックボックスからひとつのネックレスを取り出した。


「これを。精神を鎮める効果のある魔道具だ。」


「え……本当に? こんな貴重なもの……ありがとうございます。大事にします。」


ネックレスを胸にかけたリシェルは、ほっと息を吐く。


「君達はよくやっている。初陣とは思えない成果だ。

 君達は虐げられる存在じゃない。

 自分の意志で戦い、生き抜いている。」


リシェルは小さく首を振った。


「私達だけでは成し遂げられなかったと思います。

 エルドリン様の存在が、皆に勇気を与えているんです。

 アシュリー様もソレンディル様もアレクセイ様も……エルドリン様と繋がりをもっています。

 “あの人達がいるから戦える”と、皆言っています。

 すべての中心にエルドリン様がいるんです。」


エルドリンは照れたように笑った。


「……そう思ってくれるなら嬉しいよ。共に生きて帰ろう。」


「はい。」


リシェルの中の緊張が、ゆっくりと溶けていくのを感じた。




休憩が終わり、新しい陣形の訓練が始まる。


「各隊、整列!」


パープルヘイズ中隊は即座に整列し、「陣展開!」の号令で美しい∨字を形作った。


アレクセイはソレンディルに近づき、小声で話す。


「この陣は後列を魔法で分断するのが鍵だ。

 ダークエルフの魔法使いが失敗した場合、氷か炎の壁で後続を切り離してくれ。」


「了解。任せて。」


ソレンディルは杖を肩に担ぎ、軽く笑う。


アレクセイは次にエルドリンに声をかけた。


「異形のオーガに通常攻撃は効くと思うか?」


「……無理でしょうね。前のアンデッドドラゴンと同じです。

 剣や矢では止められない。」


「そうか。本当はソレンディルを援護に回したいが、この陣では動かせない。済まん。」


「分かってますよ。」


エルドリンは微笑んだ。気遣ってくれていることが伝わったからだ。


アレクセイは感慨深そうに言う。


「見違えたな。お前は騎士団でも突出していたが、先の戦いは……次元が違っていた。

 オーガ4体相手に体格差を感じさせない強さ。お前は紛れもない“アンブレイカー”だ。」


「はは……色々経験しましたから。」


「本命はお前に任せる。敵が減ったらソレンディルを援護に回そう。」


エルドリンは胸の前で拳を握り、アレクセイの拳に軽くぶつけた。

懐かしい、騎士団時代の合図だった。




「行進始め!」


リシェルの号令と共に、パープルヘイズは森へと進み始める。

霧が晴れ、木漏れ日が差し込む静かな森──その静寂を破るように、やがてエルドリンが右手を上げた。


「止まれ!」


アレクセイが即座に陣展開を命じる。

30秒もせず、美しい∨字陣形が完成した。


ドドドドド……ッ!


地響きのような足音。数百の足が森の地面を踏みしめる音が近づいてくる。


エルドリンが雷光を放ち、敵に位置を知らせた。

案の定、敵は怒涛の勢いで陣形へ向かってくる。


弓矢隊が弓を引き絞り、魔法使い達が詠唱を始めた。


エルドリンは敵の前へ踊り出て、挑発するように動き回る。

バスターソードが振り下ろされるたび、彼の残像だけが斬り裂かれた。


苛立った敵は警戒心を失い、約30体が深追いして陣内へ入り込んだ。


「放て!」


ソレンディルの号令で弓矢と魔法が一斉に放たれる。

だが後続は怯まない。


エルドリンが呟いた。


「アイスウォール。」


轟音と共に、10メートルを超える氷壁が敵の後続を分断した。


「出るぞ!」


アシュリー率いる攻撃隊が前へ躍り出る。


エルドリンは既に氷壁の前に出ていた。

雷魔法を纏った刀で次々と敵を貫き、雷撃で心臓を停止させていく。


「……狂気化か……?」

敵は痛みも恐怖も感じていないようだった。


陣内に囚われた敵はアシュリーの攻撃隊が着実に数を減らしていく。


残り5体になると、ソレンディルが氷壁を解いた。


「放て!」


氷槍と矢が後続へ雨のように降り注ぎ、重い氷槍が巨大なオークを貫いた。


アレクセイは冷静に戦況を見つめる。


――まだだ、ここが踏ん張りどころだ。


経験の少ないパープルヘイズに無茶な戦術を強いることはできない。

犠牲が出れば動揺し、崩壊した陣形は修復できない。この老練な司令官は、常に最悪を回避していた。




後続のオーガが狂気の突進を始め、盾隊を押し崩す。

一人が受け、二人が後ろから支えるが、三人まとめて吹き飛ばされた。


「まだやれる!立て!」

アレクセイの声に、盾隊はふらつきながらも立ち上がり、再度オーガへ突進した。


アシュリーが左手を挙げる。

それを攻撃合図と読み取ったソレンディルが氷槍を撃ち込む。


弓矢と魔法が連動し、敵の動きを鈍らせた。


アシュリーはツヴァイハンダーに雷を纏わせた。

白光が走り、彼は残像を残しながら敵の腹に突きを放つ。


痺れたオークが崩れ落ち、その首を攻撃隊が刎ねた。


攻撃隊もアシュリーのように魔法付与した剣を振るった。

炎を纏った剣が敵の皮膚を裂き、燃え上がる。

弓矢が頭部を射抜き、動きを止める。


森は叫びと衝撃音で満ちた。


その時──


エルドリンは敵陣深くで、ついにその波動を捉えた。


「……いた。」


異形のオーガを中心とする、濁った魔石の波長。

この狂気の根源。


エルドリンは刀を握り直し、一気に駆け出した。


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