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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
76/91

76、準備


薄曇りの朝、エルドリンはソレンディルとアシュリーを伴い、ダークエルフの寄宿先へと歩を進めていた。

道すがら、掌に浮かぶ魔導具ムーブ・メモリーが淡く光り、公爵エドガーとの通信が繋がる。


「父上、ダークエルフ五百名分の装備を貸与願いたい。王都騎士団の備品を使用する許可を願います。」


『分かった、責任者マーティンに通達しておく。現地で直接受け取れ。』


通信が途絶えると、エルドリンは息を整えた。


寄宿舎の中庭には、既に五百のダークエルフが整列していた。

漆黒の髪と灰紫の肌が朝霧の中で揺らめく様は、夜の軍勢のようだった。


「エルドリン様、全員ここに。」

リシェルが報告する。


「よし。装備をアルカディア王国騎士団から借り受けることになった。

 これより王都セレスティアの武器庫に転移する。

 四つの中隊に分かれ、私とソレンディルの転移門を抜けよ。」


淡青の光が地面に走り、双つの転移門ゲートが展開された。

初めて見る光景にざわめきが起こるが、リシェルの号令により、隊列は乱れず整然と門を通過していった。



転移の光が消えると、彼らは王都セレスティア南区、王国騎士団の兵站棟にある巨大な武器庫の前に彼等は立っていた。


武器庫は黒鉄のアーチ梁と魔力導管が張り巡らされた荘厳な建造物で、厚さ一尺の鋼扉が開くたび、金属と油の匂いが流れ出す。

壁面には王家の紋章が刻まれ、整列された棚が多数並んでいた。


中へ進むと、天井から吊るされた魔導灯が淡い青光を放ち、床には魔力転送陣の紋が刻まれている。

中央の通路を抜ける風が、鎧の表面を微かに鳴らした。


「エルドリックか? 久しぶりだな!」

声をかけてきたのは武器庫責任者、マーティン・ハロルド。

かつて同じ中隊に属したエルドリンの戦友だった。


「マーティン、公爵の指示は届いているか?」

「ああ、もちろんだ。ここにあるものは何でも持っていけ。」

彼等は互いの腕を掴み合い、短い抱擁を交わす。

それだけで戦友の信頼が蘇えった。


「すまないな。今は急を要する。」

「分かってるさ。こっちも準備は万全だ。」

「リシェル、全員に伝えろ。鎧、兜、小手、ブーツを装着しろ。

 アシュリー、装着の補助を頼む。」

「了解しました。」


リシェルとアシュリーが号令をかけると、五百の黒影が一斉に武具棚へと移動した。

壁際の巨大な棚には鎧が整然と並び、一つひとつがヴェリタス・ストーンを鍛えられて製造されており、銀灰色の輝きを放っていた。


鎧の胸部には王国の紋章が浮かび、小手や脚甲の縁には文様が走る。――魔法攻撃低減させる効果を持っている。

装着すると身体強化の付与がされて、筋力、スタミナが補助される。

それをダークエルフ達が次々と装着していく。

鉄の擦れる音、留め具の噛み合う音、その全てが彼等の緊張感を表しているようだった。


「武器はどうする?」

「盾、長槍、両手剣、杖、弓矢。中隊ごとにバランスを取りたい。」

「了解、こちらだ。」

マーティンはエルドリンを連れて武器群の場所へ案内した。


武器庫の奥、巨大な石柱の間に武器群が整然と並ぶ。

長槍は整列し、刃先に貼られた呪布が淡く光る。

弓架には黒檀の弓が掛かり、矢筒には銀羽の矢が詰まっている。

両手剣は長さ六フィート、重量を制御する魔力回路が柄に組み込まれていた。


「久しぶりにここに入ったが、壮観だな。」

「"王の剣"たる騎士団の誇りだ。」

マーティンが笑った。


リシェルの号令で、鎧を身に着けたダークエルフ達が武器を選び始めた。

武器を手に取る彼らの眼に、戦士の光が宿る。


訓練準備の間に、エルドリンとソレンディルは王国飛行艇の格納庫を確認した。

そこには四隻の大型飛行艇が並んでいる。


艦首には王国紋章と白銀の翼を象った意匠。

船体は魔導鋼で補強され、底部には推進装置と風属性の魔力石が埋め込まれている。


「セレスティアル・ガルダ級だ。」

「巡航高度は三千メートル、積載は五百人。

 この艦を四隻も借りれるとは……ありがたいな。」


内部には兵站部が詰めた補給箱が整然と並び、

食料・テント・矢弾・魔力結晶がすでに積載済み。

船首には操舵席と魔導通信機、後部には魔法防壁展開装置が備わっていた。

エルドリンは船体を見上げ、短く息を吐いた。


「これなら長距離航行も問題ない。準備完了だ。」

「大陸の危機だ、手を貸すのは当然だ。俺も行きたいくらいだよ。」

マーティンが笑みを浮かべる。



その日の午後。

王都南部の訓練場では、五百のダークエルフが整然と並び、金属のきしみと掛け声が響き渡っていた。

砂塵が舞い上がり、青空を背景に銀灰の鎧が煌めく。


指揮台の上でエルドリンが声を張った。


「これより再編成を行う! 剣・槍・盾・弓・魔法の五班に分け、再選抜を実施する!」


アシュリーは中隊を半分に分け、一方に両手剣を、もう一方に槍を持たせて打ち合いを始めた。

砂を踏み鳴らす音、金属が打ち合う音が訓練場に響く。


「槍はもっと腰を落とせ!重心を殺すな!

 両手剣は踏み込みを強く!剣を振る速度を上げろ!」

アシュリーの叱咤が飛ぶ。彼の眼は一瞬たりとも逸らさない。

踏み込みの速さ、剣速、肩の開き方、呼吸のリズム――それらを見極め、可能性のある者を即座に記録していく。


槍部では、突きの鋭さと薙ぎ払いの安定性、間合いの詰め方を見極める。

槍の先端が風を裂く音が鋭く響いた。


「突く時は腕じゃない、全身で押し出せ!脚を止めるな!」



一方、ソレンディルは杖を持たせて、ヴェリタス・ストーンの特性を説明する。

「私の持つ杖はヴェリタス・ストーン製で魔石が嵌め込んでいる。

 杖には、火、水、雷、氷、風の模様が記されている。

 属性魔法の発動を補助してくれる。さらに魔石にマナを集めると魔法を増幅してくれる。

 今から実演して見せるからみているように。」


そう言うと彼女は杖の魔石にマナを集めた。

魔石は水色に輝いた。氷の槍が数十本現れた。

氷槍アイスランス!」


氷の槍が目標に向かって飛び、着弾して標的を貫いた。

氷の槍の太さ、数量に皆一同に驚いた。


「自分が握っている杖に、マナを集めて魔法を発動して標的に向かって打つ。

 出来るなら魔石にマナを集めて魔法を発動させて。

 治癒魔法が使える者は報告してね。」

ソレンディルの言葉に5人づつ魔法を放ち始めた。

彼女はそれを見ながら一覧表に属性と可能性のある者を記録した。


光と風の魔法が放たれ、砂煙の中に閃光が走る。

修練場の空気は熱を帯びていった。



エルドリンは盾と槍の訓練を担当していた。

巨大な盾を構えた隊列を前に、彼の声が響く。


「盾は後ろの者達を守るだけではない!攻撃を防ぎ、味方に攻撃の好機を作ることが重要だ!

 常に勇気を試される。絶対に引くな、疑問を抱くな、即仲間の死に繋がる。

 槍で突いてこい!今から実演して見せてやる。」


エルドリンは槍に向かって走った。槍が横に払う。立ち止まって屈んで躱す。

そして槍に向かう、槍は突きを放った。エルドリンは盾を少し振って穂先を逸らした。

槍の引く動作に合わせて距離を詰める。槍を回転させて柄で打ち合おうとするが、盾が柄を受けてそのまま押し返した。

槍役はたたらを踏む、エルドリンは盾で相手をかちあげた。顔に一撃が入り槍役は倒れた。


その光景を皆唖然としていたが、盾の可能性と機動力を見ている彼等に植え付ける事に成功したようだ。

彼等は眼を輝かせて盾の練習を始めた。

金属音が連なり、訓練用の衝撃波が響く。

汗と砂にまみれながらも、隊列は徐々に形を成していく。

エルドリンの目が光る。



一週間後。

五百のダークエルフは、戦う兵の姿へと変わっていた。

前衛は盾と槍、中央に剣兵、後衛に弓と魔導士。

それぞれが戦術連携を取れるまでに鍛え上げられていた。


訓練場を見渡すエルドリンの表情に、僅かな安堵が浮かぶ。


「これで何とか……戦える。」

「課題は多いですが。」

エルドリンの呟きにアシュリーが懸念を示した。


リシェルが整列した兵の前に立ち、声を張る。

「虐げられ蹂躙された民よ――今より我らは、自分達の生き残りをかけた戦いに向かう!

 種族の誇りを胸に、大陸を守るために!」


その声に応じて五百の武具が一斉に鳴り、

王都セレスティアの空に金属音の響きがこだました。


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