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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
69/91

69、黒き闇を裂く


ソレンディルの詠唱が終わると同時に、白銀の魔法陣が空間に広がった。

光が奔り、ガルム、アシュリー、ソフィア、ナイト、マルセルの姿が瞬時に包まれる。

目も眩む閃光の後、彼らは雪原の戦場から――ドラウセンの市街地の中央広場へと転移した。


しかし、安堵する暇はなかった。

遠くから、重低音のような地響きが響き渡る。

見上げれば、城壁の外周は黒々とした波――無数のオークの軍勢に包囲されていた。


「……こんな、馬鹿な。」

アシュリーが息を呑む。

その数は先程の倍――いや、倍以上。

地平線の向こうまで黒い影がうごめき、空をも覆う勢いで迫ってくる。


「まるで、闇そのものが増殖しているみたいだな。」

ガルムが唸る。その眼には恐れよりも、燃えるような戦意が宿っていた。


マルセルは一歩前へ出る。幻術を解いた姿は、黒衣が風に翻り、冷たい雪が舞い散る中、彼は静かに詠唱を始めた。地面が揺れ、低くうねるような声が広場全体を包み込む。


「――来たれ、魂の契約に縛られし者ども。

 この手に眠る冥界の鍵を以て、再び歩む許しを与えん――

 《ネクロ・マーチ》!」


瞬間、ドラウセンの城外に黒き炎柱がいくつも立ち上がった。

土を割って、鎧を纏った骸骨兵が次々に姿を現す。

千を超えるアンデッド軍団が槍を掲げ、一糸乱れぬ動きで整列する。

その先頭に立つマルセルが、黒き旗を掲げた。

冥府の紋章が翻り、闇の波動が戦場を満たす。


「これで、ようやく対等というところだな。」

マルセルの唇が静かに笑む。

だが、その瞳の奥には――僅かに焦燥が滲んでいた。


上空では、ソレンディルが魔力を練り上げていた。

彼女の周囲に赤熱する魔法陣が幾重にも重なり、空気が爆ぜる。

「《メガ・エクスプロージョン》――!」

轟音が空を裂き、炎の奔流が大地を貫く。

紅蓮の爆炎が雪原を焼き尽くし、数百体のオークを一瞬で灰に変えた。

その光景は、まるで天の審判のようだった。


「ソレンディル、派手すぎだろ!」

ガルムが笑いながら叫び、バスターソードを構えて南門へと走る。

後を追うアシュリーとソフィア、そしてナイト。

城門が開かれると同時に、ガルムが雄叫びを上げた。

「行くぞォォォ――ッ!」


彼の剣が炎に包まれた。

バスターソードに埋め込まれた魔石が赤々と光を放ち、炎の奔流が刀身を包み込む。

ガルムが振り下ろすたび、炎が獣のように唸りを上げ、オークを焼き裂いていく。

炎に照らされるその姿は、まさに戦場の鬼神。


一方アシュリーは、冷気を纏う。

彼の剣が淡い青に輝き、振るうたびに氷の軌跡が空を裂く。

刃がオークの胸を貫いた瞬間、血液が凍りつき、敵は声も上げられず崩れ落ちた。

「これで……ひとつ借りは返した!」

その瞳には、戦士の誇りと冷たい決意が宿っていた。


ソフィアは、素手で戦場を駆け抜ける。

蹴りが唸り、手刀が閃き、次々に敵を倒していく。

モンクとして鍛え上げられた身体が、まるで流れる水のようにしなやかに動く。

その背後ではナイトがデコイとして動き、彼女を狙う敵を弾き飛ばしていく。

互いの信頼が、戦場の中で一つの調和を生み出していた。


西門では、マルセルが無表情のまま歩いていた。

その歩みに合わせて、闇の瘴気が地を這う。

「――《デス・ブレス》」

吐息のように紡がれた魔法が、オークの群れを薙ぎ払う。

彼が通った跡には、生きたものが一体も残らない。

そして倒れたオーク・ジェネラルの亡骸に手をかざすと、

そこから新たなアンデッドが立ち上がった。

漆黒の鎧を纏い、紅い瞳を宿した特性の戦士――元オーク・ジェネラル。

かつての力を歪め、今は冥府の僕として暴れ狂う。

その腕が振るわれるたび、仲間だったオークたちが次々と蹴散らされていった。


アンデッド軍の槍隊は整然と動き、長槍が一斉に突き出される。

城壁へ迫るオークたちを、次々と串刺しにしていく。

剣士たちは棍棒の一撃を紙一重で躱し、最小の動きで反撃。

アシュリーがそれを真似ようとして、豪腕の一撃を受けて吹き飛ばされた。

「――ぐっ!」

だが立ち上がり、苦笑を浮かべる。

「……真似するもんじゃないな。」


上空からはソレンディルの爆裂魔法が再び降り注ぎ、地上では炎と氷の魔法部隊が連携して戦線を押し返していく。

激戦の最中、ガルムたちは一時的に城壁内に退避し、息を整えた。

ソレンディルはそれを確認すると、杖の魔石――ヴェリタス・ストーンに魔力を集中させる。

夜空を裂くように、連続して極大の爆裂魔法を放つ。

空が赤く染まり、雪が蒸発し、オークの群れは瞬く間に壊滅した。


――その頃。


エルドリンは、索敵の末に鉱山へ辿り着いていた。

古びた坑道の奥から、陰鬱な気配が流れ出している。

暗視の魔法で内部を照らすと、そこには拷問具と檻が並び、

数十人のダークエルフの女性が囚われていた。

彼女たちは言葉も出せず、怯えた目でこちらを見上げる。


「もう大丈夫です。あなたたちは、自由だ。」

エルドリンは静かに微笑み、転移の詠唱を唱えた。

一瞬の光の後、彼と彼女らは鉱山の外に現れた。

その後、彼は土魔法で坑道を完全に埋め、二度と闇が蘇らぬよう封印した。

彼は救出したダークエルフたちにテントを立て、薬湯で身体を癒し、

食事を与え、治癒魔法で傷を癒やした。

彼女らが眠りにつくと、エルドリンは隠蔽と結界の魔法を重ね、

「ここは安全だ」と呟いて、再びドラウセンへと転移した。


――その頃には、戦場は終息に向かっていた。

オークの軍勢はすでに半数以下、アンデッド軍が残敵を掃討していた。


エルドリンが到着すると、マルセルとソレンディルが待っていた。

「行くぞ。あのドラゴンの元へ。」

三人は空へ舞い上がり、北方の山脈へと向かった。


氷嵐が吹き荒ぶ頂に、巨躯のアンデッド・ドラゴンがいた。

鱗は氷のように透き通り、瞳は死の青光を放つ。

マルセルは静かに呟いた。

「……アイス・ドラゴンか。これは厄介だ。」


彼の指示でソレンディルが火炎魔法を放ち、

エルドリンは《レクイエム》を奏でる。

しかしドラゴンは氷の息吹で応戦し、彼らを包み込んだ。

それでも三人は怯まず、火と祈りの連撃を浴びせる。

ついにドラゴンが咆哮を上げ、氷の翼を砕かれて崩れ落ちた。


マルセルは掌を翳し、漂う瘴気を吸収する。

ドラゴンの胸を切り開くと、中からリンゴほどの巨大な魔石が現れた。

「これが……核か。」

炎で遺骸を焼き尽くすと、彼の表情が曇る。

「――闇のネクロドミヌスが、動き出したのかもしれぬ。」


エルドリンが頷く。

「一度、ドラウセンへ戻ろう。次の嵐が来る前に。」


街へ戻ると、すでに戦いは終わっていた。

勝利の鐘が鳴り響き、雪が静かに降り積もる中、ソフィアが駆け寄り、エルドリンに抱きついた。

「よかった……生きて、帰ってきてくれて……!」

彼女の頬を涙が伝い、エルドリンは静かにその背を抱きしめ返した。


領主、鉱山卿オズリック・ハンマーハンドが彼らを迎え、報告を受けた。

闇の主が大陸全体を脅かす可能性――その重大さに、誰も言葉を失った。


「闇はまだ、序章に過ぎぬ。」

マルセルが呟く。

「オークの軍勢は斥候に過ぎぬ。三千規模でこの調子なら、本隊はその十倍は下るまい。」


エルドリンは重々しく頷いた。

「すぐに連絡を取るべきだ。エンペリア帝国、アルカディア王国、エルメリオン王国――

 三国が手を結ばねば、この闇に飲まれる。」


数日後、各国へ伝令が走った。

エンペリア帝国では、皇帝自らが書簡を受け取り、クラン「ファイヤクラフティ」のヴァレンが書状を読みながら、不敵に笑った。

「……また厄介な時代が来たもんだな。」


アルカディア王国では、公爵エドガー・ファルコンハートが国王を交え、緊急会議を開く。

エルメリオン王国では、蒼翼騎士団長イリスが呼び出され、

報告を聞いて深い溜息を漏らした。

「……大陸は、今まさに夜に沈もうとしているのね。」


その頃、北方の山脈の果て――

黒き王城の尖塔に、ひとつの影が立っていた。

闇に包まれた王座で、静かに微笑む声が響く。


「ようやく、幕が上がるか……人の世よ。」


その名を、誰もまだ知らぬ。

――北方の闇の主、ネクロドミヌス。


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