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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
67/91

67、援軍到着


その頃、戦場の北方。

黒い霧をまといながら、一人の影が現れた。


漆黒のローブに包まれた骸骨の魔導師。

手にした杖の先では、不気味に脈打つ紫の宝珠が妖しく光を放つ。


「……ようやく幕が上がるか。

 この地に流れる血潮――良き供物となろう。」


ネクロマンサー、マルセル・デルース。


彼の背後で、音もなく霧が渦を巻き、

そこから屍の軍団が姿を現した。


骨の兵、黒鎧の剣士、魔導の亡霊。

そして、虚空から呼び出された三人の指揮官が膝をつく。


「陛下、命を。」

「陛下、命を。」

「陛下、死より蘇りてここに。」


マルセルは静かに手を上げる。

「行け。我が屍兵ども。――彼らと共に、闇を退けよ。」


地鳴りのように、アンデッド大隊が雪原を進軍した。

槍隊、剣士隊、魔法使い隊。

まるで生者の軍勢のように整然と隊列を組み、

その足音が大地を震わせた。


「……マルセルが来たぞ!」

ソレンディルが振り返る。炎の壁を解除し、杖を掲げた。


「――こいつをくらえ!」


詠唱が終わると同時に、杖先から光が奔る。

――爆裂魔法メガ・エクスプロージョン


雪原が揺れ、衝撃波が敵陣を呑み込んだ。

だが、その先――炎を突き破って、なお蠢く影がある。


「……嘘だろ……。」

「まだ、こんなに――!?」


冒険者たちが驚きの声を上げた。


視界の彼方、黒い波が押し寄せてくる。

千を超えるオークの軍勢。

――敵は、連隊規模の侵攻部隊だったのだ。




エルドリンは剣を構え、深く息を吸った。

「――行くぞ!」


彼は縮地で一気に距離を詰め、ナイトたちが雪原を駆ける。

ガルムが盾を構えて突撃し、アシュリーがその背を追う。

ソフィアは詠唱を紡ぎ、マルセルのアンデッド軍が両翼に展開した。


長槍隊が前線のオークを押し潰し、

後列の魔法隊が火炎と氷を雨のように降らせる。


ソレンディルは召喚魔法でストーンゴーレムを二十体呼び出した。

巨体のゴーレムたちは一斉に突進し、

棍棒を振りかざすオークの部隊を蹴散らしていく。


「――行くわよ!」

ソレンディルは杖にマナを集中させ、

氷のアイスランスを限界数まで発動させた。


「敵を薙ぎ払え――アイスランス!!」


叫びと同時に、数百の氷槍が空を裂き、

オークの隊列へと降り注ぐ。


アンデッドの剣士隊がその隙を突き、

間隙を縫うように敵陣へ突入。

剣が閃き、斬撃の嵐が吹き荒れる。


彼らは生前、歴戦の猛者であった者たち。

その技は冴え渡り、オークたちは為す術もない。

棍棒をかい潜り、胴を薙ぎ、

振り向いた敵の頭を上段から一刀で両断する。


さらに、アンデッドの魔法使いたちが一斉に

氷槍を放ち、オークの隊列を穿つ。


生者とアンデッドの決定的な違い――

それは、「疲労を知らぬこと」。

彼らは倒れることなく、永遠に戦い続ける。

その恐るべき持続力が、数的不利を覆していく。


敵を押し返す光景を見て、

冒険者たちは勇気を取り戻し、次々と戦線へ復帰した。


オークの魔法使いたちが反撃を放つ。

だが、マルセル・デルースがすかさず遮蔽魔法を展開。

黒き障壁が攻撃をすべて弾き返した。


「安心して戦え。――お前たちはまだ、生きている。」


その声に押されるように、エルドリンたちはさらに前へ進む。

彼の剣は風を裂き、隊列を切り裂いていった。


戦場は血と煙に包まれ、

悲鳴と咆哮が混じり合い、空が赤く染まる。




隊列の奥から、一際巨大な影が現れた。

背丈三メートルを超える巨体。

二本の角を持つ兜に、分厚い鎧。

両手に握られた大斧が雪原を割る。


――オーク・ロード。


「ガルムッ!」

エルドリンが叫ぶ。


ガルムは咆哮とともに盾を構え、

振り下ろされる斧の一撃を正面から受け止めた。


エルドリンは地を蹴り、ガルムの肩を踏み台に宙へ跳ぶ。

刀に雷撃の魔力を纏わせ、斬り下ろす。


刃は敵の小手に弾かれたが、

電流が鎧を伝い、オークの動きが止まる。


アシュリーが好機を逃さず、

炎を纏った剣を突き込んだ。


「――爆ぜろッ!」


炎が爆発し、筋肉まで達した傷口が炸裂する。

「グォォォォッ!!」

絶叫が響き、雪が舞い上がった。


ガルムは再び斧を受け止め、今度は押し返した。

「おらぁぁっ!」

オーガの咆哮とともに、炎の力を纏ったバスターソードを振り上げる。


「“炎の誇りを忘れるな”――だろ、相棒!!」


右肩口から斜めに斬り裂かれたオーク・ロードは、

そのまま崩れ落ち、絶命した。


「オォォォォーーッ!!」

ガルムの勝鬨が戦場に響き渡る。




二時間に及ぶ死闘の果て――

ついにオーク軍は壊滅した。


冒険者たちは歓声を上げ、

誰もが勝利を信じた。


だが――その時。


マルセルは北の空を見上げ、

静かに呟いた。


「……感じるな。この寒気。

 オークの行軍、アンデッドドラゴン……

 偶然ではない。世界に――闇の帳が訪れようとしている。」


骨の顔に、笑みが浮かぶ。


「――こいつは、面白くなりそうだ。」


彼の瞳に、遠く北方の山脈の彼方――

黒き王城の幻影が揺らめいていた。


吹雪の中、巨大な影が微かに蠢く。

その胸奥から、誰にも聞こえぬ声が響く。


「――我が名はネクロドミヌス。

  滅びをもって、再び世界を統べよう。」


雪原に立つ者たちは、その気配をまだ知らない。

だが――闇の主は、すでに目覚めを始めていた。


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